第3話 木坂建設 高橋

「うう・・・・・・ありがとう爺ちゃん。血は繋がっていなくても、最高の爺ちゃんだったよ」

 

 ひとしきり涙を流し、源次郎との別れを実感した冨岡は状況を理解する。


「俺は爺ちゃんの孫じゃなく、友人夫婦の子ども・・・・・・そして爺ちゃんはこの山を売って困っている人を救い成長を喜べって言ってる。これが遺言なら従わないわけにはいかないな。血の繋がっていない俺を愛してくれた爺ちゃんの願いだ。でも、この山は大した金額にならないって言っていたはずだよなぁ。それに業者って・・・・・・」


 そう言いながら冨岡は封筒に残っているメモを確認した。

 そこには十一桁の数字が書いてあり、それが電話番号であることは容易に想像できる。

 思い立ったら即行動。冨岡は源次郎から学んだ精神を発揮し即座に電話をかけた。

 何度かコールし電話の向こうから声が聞こえる。


「もしもし、高橋と申します」


 高橋と名乗る通話相手は礼儀正しく落ち着いた声色をしていた。

 冨岡は少し緊張しながら事情を説明する。


「あの、冨岡 源次郎の孫、浩哉と申します。祖父の遺言にこちらへ連絡するよう書かれていたのですが、どのような話が進んでいるのかいまいちわかっていなくて」


 冨岡がそう話すと高橋は全てを知っていたかのように言葉を続けた。


「冨岡 浩哉様ですね。お待ちしておりました。源次郎様より説明するよう言付かっております。もしよろしければ直接お会いしてご説明させて頂きたいのですが、ご予定はいかがでしょう」

「予定ですか? 今、ちょうど祖父の家に帰ってきているので今日はここに泊まるつもりです」


 突然予定を聞かれ素直に答える冨岡。

 すると高橋は電話の向こうでパラパラと紙を捲る音を立てながら返答した。


「そうですね。私どもと致しましても、なるべく早い方がと考えております。今からそちらに向かいますのでお会いして頂いてもよろしいでしょうか?」

「え、今からですか?」

「はい。移動の都合上一時間・・・・・・いえ、一時間半後になるかと」


 食い気味に予定を決める高橋に押され、冨岡は首を縦に振る。


「えっと、わかりました。それじゃあ、待ってます」


 冨岡が答えると高橋は上機嫌な声色で感謝を伝えた。


「ありがとうございます。それでは一時間半後に」


 高橋との電話を終えた冨岡は何か急激に自分の人生に変化が訪れているような気がして、心がふわふわするように感じる。

 全て自分の身に起きたことだと理解しているのに現実味がない。まるで映画やドラマでも見ているような気分だった。


「山を売る業者かぁ。不動産会社とかかな」


 そんな独り言を呟きながら冨岡は遺品整理に戻る。

 寝室を片付け終わった頃、家中に呼び出しチャイムの音が響き渡った。

 こんな山奥に訪ねてくる客など先ほど電話した高橋以外にいるわけもない。冨岡は急いで玄関に向かう。

 慌てて玄関を開けると恐ろしいほど綺麗な七三分けをしたメガネの男性が立っていた。年齢は三十代半ばほどに見え、清潔感に溢れている。

 男は胸ポケットから名刺を取り出すと丁寧にこう名乗った。


「初めまして。電話でも名乗りましたが私、木坂建設の高橋と申します」


 高橋の名刺を受け取ると冨岡も再び名乗る。


「どうも、冨岡 浩哉と申します。すみません、山の売却をするという話しか聞いていなくて・・・・・・」


 不安げに話す冨岡だったが、それを読み取った高橋は対人のプロだ。優しく頷いて話を進める。


「大丈夫ですよ。可能な限りご説明させて頂きますので」


 そう言われた冨岡は玄関で話していることを思い出し、高橋を中に招き入れた。


「あ、立ち話もなんですから中へどうぞ」

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