第47話
「あれが領内の賊を狩り尽くしたという若き獅子シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトか……」
「若いな……それに魔力量も平凡だ……」
「若いというより幼いぞ……」
周囲からひそひそ話が聞こえてくる。
俺は耳がいいから耳打ちする程の音量でなければ聞き逃す事は無い。
それにしても魔力偽装が魔法の権威たる貴族に聞くってどうなのよ? 俺の技量が凄いのか、はたまた他の貴族がヘボなのかこれじゃ分からないじゃないか……
「しかし、礼服の上からでも分かるほどに良く鍛えておる」
「人食いの大鬼オーガを倒したと伝え聞く、その武勇も誇張したものではなさそうだ」
「しかし、一兵として優れている事と将として優れていることは違いますぞ?」
「然り」
俺の筋肉を理解で来る同士は、高位貴族や宮廷貴族の中にも居るようで嬉しい。やはり筋肉は全てを解決するのだ。
後日、筋肉討論をしたいものだが……こうも直接褒められるのは照れ臭い。
しかし、歩みを早めたり止めたりする事なく、変わらぬ速さで歩き続ける。
動揺を気取られるほうが恥ずかしいからな……
陛下が座する玉座まで数十メートルの地点で目印があったので、胸に手を当て片膝を付いて頭を伏せる。
暫くすると再び貴族らしき人間が謳うように陛下の入室を告げる。
「陛下の御成りー」
扉から数名の人間が入ってくるのが判った。
足音からしてあまり鍛えている人間の足音には聞こえない。
正面にある玉座に腰を降ろす音が聞こえた。
「表を上げよ」
正面から陛下の玉音が聴こえる。
少し間を置いて頭を上げる。しかし、玉座に座る陛下を直視するような事は出来ない。
金銀に宝石で飾り付けられた椅子とその周囲にいる王族の胸のあたりまでを見る程度だ。
しかし、陛下や王族の御尊顔は気になるもの……好奇心に負け顔をもう少し上げる。
国王らしく仕立てのよい豪奢な服を身に纏い趣味が悪くならない程度に金や宝石を身に纏っている。
頭には豪奢な冠を被っており金髪、碧眼で立派な髭を蓄えたん美丈夫と言った井出達は正に王族の気品を感じさせる。
周囲にいるお妃や子供達も美男美女ばかりだ。
よかった……高貴な顔立ちイコール。
鷲鼻で垂れ下がった分厚い唇にケツアゴの高貴なる一族ハプスブルク家のような特徴的な顔でなくて……
異世界に生を受けた俺の目標は立身出世とハーレム。
姫を嫁にやろう……と言われても美しくなければ金遣いが荒いだけの貧乏神でしかない。
だがそれならそれでやりようがある。公爵家の嫁として相応しい教育と度量、家格を持つ家から正妻を娶り第二夫人やメイド、奴隷として美女を囲えばいいのだから……
「若い。若いな若すぎる程に……」
陛下はそう呟くとこの場にいる全員に聞こえるように声を張り上げこういった。
「此度の事、まこと大儀である。小父上……ベーゼヴィヒト公爵がモンスター共との戦に掛かり切りの中、小父上と小父上不在の領地及び頼子貴族の為に商会を起こし、新しい商品を開発し資金を稼ぎ、地域の治安と雇用改善に励み自身も自ら盗賊狩りに赴いた事は徐爵に値する。よってシュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトを騎士爵に任命する――――」
「――――ッ!!」
陛下の言葉に宮中の貴族達がざわついた。
「齢十の子供が騎士だと!」
「例が無いわけではないが、それは親が死んだ貴族家の当主になる場合だ」
「成人前の高位貴族の子弟が武勲を上げての徐爵は例がないのではないか?」
「この国ではそのような事例はないハズだ……」
通常『騎士』の称号は貴族に生まれた者が騎士より指導を受けるか、武勲を立てて高位貴族、或いは国から爵位として賜るかのどちらかである。
今回の場合は国が爵位を下賜する最も名誉ある『騎士』であるのだ。
臣下が動揺する中でも威厳を崩さないのが、殿上人の資格なのだろう。
動揺一つ見せず張り上げた声が広間に響いた。
「――――と商会を起こし補給のための道路を作ったと訊いた時までは思っていた。しかし新商品の開発に始まり、ベーゼヴィヒト公爵領に住まうドワーフ族との一層親密になったその交渉力、そして武勇においてはオーガを単独で撃破し、両の手でも数えきれない程の盗賊団を征伐した功績は陞爵に値する。よってシュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトを準男爵位に任ずる」
「え?」
思わず呆けた声が口から洩れる。
準男爵と言えば騎士爵の一つ上で、男爵の一つ下。
名目上名誉職ながら世襲をゆるされている。
いわゆるホンモノの貴族ではないものの税の免除や、貴族用の施設の使用権を与えられる『名誉爵位』だ。
そして先述したとおり、名誉爵位ながら子供にも引き継げる。
無論、戦争ムードで国内の穀物価格高騰や鉄製品の高等など各地、各分野に影響を与えている対魔物戦争は一刻も早く終わらせなければならない問題だ。
しかし、若干十歳で多くの貴族が一生かかっても達成できない偉業を成し遂げたのが、王位継承を持ち公爵直系の男子であるシュルケンだ。
プロパガンダに使うにはもってこいと言える。
国内の貴族も民も明るい話題に飢えていた。
丁度いい軽い神輿だったと言える。
「また。類まれな発明にたいしても勲章を授ける」
「謹んで、拝命いたします……」
シュルケンの身体は震えていた。
それは感情の爆発であった。
前世を含めて権威のある偉い人に此処までに高く評価された事はない。
もう一度、この息苦しいながらも達成感を感じる場に居たいと思っていた。
「うむ。これからも余の臣下、継承権を有する我が一族の親類として存分にその頭脳、その武勇を振るうが良い」
「これにて謁見を終了とする。陛下ご退出をお願いいたします」
また歌う様に文言が読み上げられると陛下が退出し、その後ろに追うように王族が退出していく。
その姿を直視する事は許されず広間にいる一同は顔を伏せるのであった。
貰って騎士爵だと思っていたので、まさか準男爵位と勲章まで手に入れる事が出来るとは思っていなかった。
しかし、なんかこうどっと疲れた。
今日はすぐに帰って都にある屋敷のベットで寝たい。
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