ラウンド39 私は、あの男が―――



「ノア様! あれはやりすぎですよ!!」





 ジョーの一件から仲良くなった、研究所の女性たち。



 ボディガードも一緒ではあるが、こじゃれたレストランの特別個室に入ってすぐ、彼女たちにずいっと詰め寄られた。



「あれ、とは…?」

「誕生木のネックレスのことです!!」



「……おお!」



 なんだ、それのことか。

 というか、どうして皆がそのことを知っているのだ?



 アルのことだから、周囲に見せつけるようなことはしないと思っていたのに。



「やりすぎたか…? 金をつぎ込みすぎただろうか…?」

「ちーがーいーまーすーっ!!」



 なんとももどかしそうに、彼女たちがぶんぶんと腕を振る。



「ネックレス自体はいいんですけど! ノア様、ジョーさんに説明してませんよね!? 金色のネックレスは、結婚式を迎えた男女しか使わないってこと!!」



「……あれ?」



 そう問われて、ノアは虚空に目を向けて記憶を手繰たぐる。



 誕生木のネックレスの意味なら、クララが伝えてくれたはずだけど……



 そういえば、彼女はネックレスを贈り合うことの意味こそ説明したが、チェーンや宝石の色の意味まで教えていたっけ…?



「そういえば……言ってないかも…?」

「かもじゃなくて、言ってないんですよ!!」



「あの時のジョーさんとキリハ君の会話に、私たちがどんだけ悶絶したと思ってるんですか!?」

「誰も突っ込めなくて、無法地帯みたいなことになってたんですから!!」



「二人がセレニアの人だって知らない人からしたら、バカ丸出しの会話ですよ!?」

「ノア様は、大事な恋人が常識も知らないバカ認定されてもいいんですか!?」



「お、おおう…。どうして、お前たちの方が必死なのだ…?」

「そりゃそうですよ!」



 彼女たちは、にこやかに笑う。



「研究所の職員一同、ノア様とジョーさんを応援してますよ!」

「そうそう! 所長たちなんて、ノア様を全力で拝んでるくらいですもの。」



「何故…?」

「何故って、当然ノア様がジョーさんのハートをゲットしてくれたからですよ。」



「おかげでジョーさん、今後も研究所に来てくれるんでしょう?」

「上手く出張をねじ込むって言ってましたよ?」



「………っ」



 なんと。

 アルが皆の前でそんなことを……



(一度決めた立場はどこでも堂々と貫くところ……本当にアルらしいな。)



 中途半端が嫌いな彼のことだ。

 皆の前でそう言ったからには、上手い言い訳を作ってルルアに来てくれるだろう。



「だからノア様。あんなに愛してもらえてるからには、ちゃんとジョーさんの気持ちを聞かなきゃだめですよ。」



「……ん?」



 一人でにやけていたせいで、話が半分しか入っていなかった。



「アルの気持ち、というと?」

「だから、ネックレスの件ですってば!」



 力強い口調でたしなめられてしまった。



「さすがに、同意を得ないままで結婚扱いはだめですよ。」



「まずはちゃんとチェーンの意味を教えてあげて、それでも身につけてくれるのかを確認しましょう。」



「まだだめって言われたら、素直にチェーンの色を変えてあげてくださいね!」



「ああ……」



 皆にそう言われ、改めて考えるノア。

 彼女の結論は―――





「いや! チェーンの色は変えない!!」





 皆の心配を真正面から裏切るノーだった。



「ノア様!?」

「今度こそ、怒ったジョーさんに御殿のシステムを全停止させられちゃいますよ!?」



「大丈夫だ! 今のアルは、あの程度のことでは怒らんよ! 多分意味を知ったところで、仕方ないと笑ってくれるはずだ!!」



 そう。

 彼はきっと怒らない。



 自分から関係を断ち切ることはもうできないからと、こちらに判断の全てを委ねるはずだ。



 だから、そんな彼を繋ぐ鎖は、このくらい大袈裟なものでちょうどいいのである。



 私は彼を離さない。

 その代わり、私も同じ鎖に繋がれてやるのだ。



 特別な存在にはべらぼうに甘いアルシードだ。

 今頃彼は、もしもこちらが心変わりした時のためにと、どこかで逃げ道を確保してくれようとしているはず。



 だが、私の首にかかるこの鎖を見れば、彼だって嫌でも分かるだろう?

 そんな逃げ道を作るだけ徒労だと。



「あら、すごい……」

「本当、すごい自信……」



「ははは! 当たり前だ!」



 豪快に笑い、ノアは高らかに宣言。





「だって私は―――あの男が認めた、生涯でたった一人の特別な女だからな!!」




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