ラウンド2 気を許されているはずだけど……
あれから、ジョーとの接点がなくなる……わけがない。
ジョーにキリハを助けさせるという目的は達した。
彼が本来の自分を取り戻す手助けもできた。
だが、彼をターニャとのパイプとして抱えておくという企みは継続中だ。
なので、あれ以降も彼とは頻繁に連絡を取り合っている。
あの時一度だけとんでもないギャップを見せた彼だが、あれはあの時だけの奇跡だったらしい。
その数日後に顔を合わせた彼はいつもの鉄壁スマイル悪魔に戻っていて、事あるごとに嫌味ったらしい物言いで神経を逆なでしてくるばかりだった。
ただ、彼のあの表情と態度は、一瞬の奇跡で片付けるにはあまりにも惜しかった。
おそらくあれは、等身大のアルシードが出てきたものだろうから……
その後キリハから聞き出した話だが、彼はあの後もジョーを名乗っている。
ディアラントやミゲルといった少数には自身の境遇を打ち明けたようだが、やったことといえばそれだけ。
アルシードに名前を戻す予定は、今のところないとのことだ。
それじゃあ、私が苦労して背中を押した意味は?
このまま放置しておけば、あいつはまたジョーに
魔性の変革王をなめるなよ?
こうなったら、私が定期的に世話を焼いてやる。
決意した私は、打ち合わせにかこつけては、ジョーをオンライン会議に呼び出して顔を合わせた。
そしてこれまでどおり、そこでは一貫して彼をアルシードと呼んだ。
『打ち合わせなんて、メールでパパっと終わらせればよくないですか? 今となってはもう、わざわざ言葉でやり取りしないと伝わらない仲じゃないでしょうに。』
違うんだな、青二才め。
これは、私からの刷り込みのようなものなのだよ。
内側ではそんな本音をひた隠し、表向きは私の主義だということにしておいた。
だが……少々おかしいな。
三ヶ月くらいで、そう思った。
嫌な奴なのは相変わらずなのだが……なんか、以前より丸くなった気がする。
以前は〝忙しいからメールで〟と流されることも多かったのに、あれからというもの、文句を言いながらも呼び出しを断ったことがない。
私が脱線して無駄話をしても、通話を途中で切らなくなった。
(これは、気を許されてるんだよな…?)
このむず
まるで、ずっと高い塀の上からこちらをチラ見していただけの猫が、気付いたら地面に下りて足元にいたかのような。
これは、私の気のせいか?
確かめようにも、月に数度画面越しに会うだけの仲だ。
いまひとつ確信を得られないまま、月日だけが流れていった。
そしてターニャが神官制度を撤廃し、ルルアと同じく大統領制度を導入すると宣言。
約一年にわたる政戦の末、彼女は自分の力で初代大統領の地位を勝ち取った。
押しつけられたのではなく、自分の意志とこれまでの功績で多くの人々を魅了し、今度はきちんと望まれて国を統べる者となったのだ。
もちろんその時には折を見て、ルルアとしてターニャを応援してやったとも。
だがあの選挙結果を見るに、私の力がなくとも問題はなさそうであったが。
その後、最初の所信表明演説でディアラントからサプライズプロポーズを受け、あらゆる意味で世を席巻したな。
何しろ、ドラゴン討伐の功労者の一人であり、国民的ヒーローにもなっている〈
個人的な結婚式とは別に、全国生中継の公開結婚式まで行われたのだから笑える。
ターニャはいずれ、変革を起こすだろう。
私の予想は大当たりというわけだ。
友人の門出は純粋に嬉しい。
ようやくセレニアと大々的な交流ができるという解放感もある。
だがそれは……水面下のパイプというジョーの役目が終わると同時に、私が彼を頻繁に呼び出せる建前がなくなることを意味していた。
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