第四章 新たなる出会い 新たなる疑問

第42話 平和と視察

闇ギルドが解体され、塩の街セントソルも平和と活気が戻ってきた。

離れていた人達も段々と戻りつつある。

俺達はギルドの依頼で壊れた家屋の修理や人手がまだ足りない塩湖の塩の切り出しの手伝いに借り出されたりして忙しく過ごしていた。

そんなある日、ギルドマスターのウルさんから、

「そういえば数日中にここの領主を務める貴族の方が視察にいらっしゃるそうよ」

と、告げられる。

「領主⋯って、国王様とは違うの?」

「私もそこ聞きたい!」

俺と旭さんの質問に、ウルさんが壁にこの国の地図を貼って、丁寧に説明してくれる。

「じゃあ地図を見ながら覚えましょうか。

まず、ここが王都。文字通り国王様がおわします所ね」

地図の中央部を指さしながらウルさんが解説していく。

「で、最初に召喚された場所がここ。宗也君達は街道沿いに進んできたみたいだけど、3つめの街の中央部に大きな御屋敷があるの知ってる?」

俺と旭さんがコクコク頷く。

「そこがこの領域を治めていらっしゃる貴族のハーゲン家。他の貴族は威張っている方が多いのだけれど、この方はそんな雰囲気では無い、気さくな方なのよ」

「その方が視察にいらっしゃるんですか?」

旭さんが挙手をして質問してくる。

「そうそう。だから粗相そそうをしないようにね」

「はーい!」

貴族の方か⋯どういう人なんだろう?


「おい!婚約破棄をされたとはどういう事だ!?」

立派な西洋風の御屋敷の廊下に響く男性の声。

その声は前方を歩く女性に向けて発せられているようだ。

「あらお父様、朝からそのような大声を。

いつもの穏やかな振る舞いが台無しですわよ?」

「今はその話をしているのではない!

昔からの繋がりのある懇意のある大貴族の御曹司との婚約を破棄されたそうじゃないか!

これで何件目だと思っているんだ!

原因は!?

一体何をしでかしたんだ!?」

女性は頬に片手を添えながら、

「いやですわ。わたくしはただ、厚顔無恥で人を見下す態度がとても不愉快だと御忠告しただけですわ」

「自分の知識をひけらかす態度は辞めなさいと何度も言っているのにまたやったのか!」

「あれ程口を酸っぱくして御忠告申し上げておりましたのに、あちら様が不勉強なのがいけないんですわ。

もう少し書物をお読みになって見聞をお広げあそばされたらよろしいのに⋯」

フウッとため息をつきながら困ったような表情をしているが、父の怒りをさらに買ってしまう結果となってしまう。

「お前という奴はー!

いい加減、自分の歳を考えろ!

他家の令嬢はもう既に婚姻してるんだぞ!

少しは焦りとかは無いのか!」

「ございません」

父親の怒りを聞き流すかのようにズバッと告げる女性。

父親がまた何かを言おうとした時、

「お嬢様、そろそろ視察のお時間でございます」

執事らしき服装をした初老の男性が親子の間に入り、静かに口論を制止する。

「あらそう。ではお父様、名代としてセントソルへ行ってまいります」

父親にお辞儀をしてから身をひるがえして執事らしき男性の後をついて行く。

「お嬢様、旦那様がたいそうご立腹でごさいましたが大丈夫でございましたか?」

「いつもの事ですわ。わたくしわたくし以上に知識豊富な方の元に嫁ぎたいだけなのに、その様な殿方が現れないだけですわ」

立派な馬車の客席に乗り、

執事も同席して室内に静かな雰囲気が漂う。

女性は窓越しに外を見ながら、

「それに⋯まだわたくしはやりたい事が残っているのですから結婚はしたくないの。今回の視察は大きなチャンスなのですわ⋯」

誰にも聞こえない位の声でボソリと呟いた。

「お嬢様、何かおっしゃいましたか?」

「いいえ何も」

執事の質問にサラッと答え、セントソルへ着くまでの間、ずっと沈黙が漂うのだった。

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