第二章4【魔の森】
「多分、ここですよね?トビが教えてもらった場所というのは」
「うーん、そうだと思うんだけどね」
「でも、誰もいないじゃない!」
ボルクさんに教えてもらった方向に進んだトビアス一行は、言われた通りに滝を見つけ、その近くで洞窟も見つけていた。だがここには誰もいなかった。
「僕は、洞窟の中を見てくる。ルカとアイリスはここで待っててくれるかな」
「ん、了解」
「わかりました」
トビアスが洞窟の中を確認しに行く。ルカとアイリスは周囲を警戒する。
「でも、魔の森にこんな所があるなんてね」
「えぇ、そうですね」
滝があり、ここが魔の森内であることを、忘れてしまう程の綺麗な場所。魔の森内は過酷な環境であることが知られていた。そのため彼女達がこの場所に驚くのは当然だ。
「これで、魔物がいなければ最高なんですけどね」
「ここに来るまで何回戦ったか分からないわよ」
それでも、ここは魔の森内であり、魔物の領域だ。彼女達はここにたどり着くまでに、幾度となく魔物と戦闘を繰り返したのだった。
「あれ?猫ですか?」
「はぁ?アイリス、こんな所に猫なんているわけ……いるわね」
周囲を警戒していると、アイリスが猫を見つけた。一部が黒いが、その他全身が綺麗な白い毛。美しい緑色の瞳をした猫だ。猫はアイリスの方に歩み寄ってくる。
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?その猫」
「可愛いし、大丈夫なんじゃないですか?」
「普通、こんな所に猫はいないでしょ。ここは魔物の領域なのよ?」
不審がるルカを無視し、猫を呼ぶアイリス。猫はそのままアイリスに近づいていく。
「ほら、人懐っこいじゃないですか、この子」
「いやいやいや、こんな場所にいる猫が人懐っこいとか、おかしいでしょ!」
「ルカちゃんは心配性ですね。大丈夫で━━、ひっ!」
「……動くな、その猫を放せ」
「アイリス!!!あんた、誰よ!!!」
突然の事に、ルカは戦闘態勢に入る。アイリスは拘束され、後ろからフードで顔を隠した人物に首元に短剣を突き付けられていた。
言われた通り、アイリスはすぐさま猫を放す。
「殴られたくなかったら、さっさとアイリスを放しな!!!」
「黙れ、お前達の目的は何だ」
「わ、私達は、そ、その、人探しです!」
「嘘をつくな。人探しでこんな所まで来るわけがないだろう」
「ほ、本当です!トビがここに人がいると聞いて」
「おい、あんた!!!さっさとアイリスを放せ!!!」
事態は緊迫していた。首元に短剣を突きつけられたアイリス、どうにか助け出そうと、臨戦態勢を崩さないルカ。それに、
「待ってくれ!!!僕達は、ボルグさんに頼まれてきたんだ!!!」
「ボルグさん、だと」
騒ぎを聞きつけ、洞窟の中からトビアスが叫びながら出てくる。彼の口から出てきた名前を聞いた人物がアイリスへの拘束が一瞬緩めた。ルカはそこを見逃さない。
「アイリス!!!!!死ね!!!!」
「くっ!!」
一瞬の隙を突き接近し、足払いをするルカ。体勢を崩し、緩んだ拘束からアイリスが脱出する。
「くらえ!!!」
そのまま向かって殴りかかるルカだが、その人物はその全てを躱し、距離を取り、そのまま短剣を逆手に持つ。距離を詰めて接近戦を━、
「待ってくれ!!!シュウ!!!ルカ!!!」
トビアスが名前を叫び、互いに静止する。彼はその2人の間に彼飛び込み戦闘を何とか止める。
そんなトビアスに驚いたのは、
「はぁ!?トビ、こいつが、そのシュウだって言うの!?」
「あぁ、そうだよ。彼がシュウだ。ほら、見た目だって言ったとおりだろ?」
* * * * *
「あぁ、そうだよ。彼がシュウだ。ほら、見た目だって言ったとおりだろ?」
こう言いながらも、内心トビアスはかなり焦っていた。何せ自分が洞窟の中を確認している間に、目的のシュウと自分の仲間が一触即発の状態になっていたのだから。
「悪かったね、シュウ。驚かせてしまって」
「何の用だ」
突然の自分達の訪問にシュウは警戒しているようだ。彼からしてみたら昨日会ったばかりの人間が、突然ここに来たのだから警戒するのは当然だと言える。
「ボルクさんにこれを渡して欲しいって言われたんだよ」
彼に頼まれて持ってきた代わりの剣をシュウに渡すが、彼は無言で剣を見ている。そして溜息をついている。どうしたというのか。
「代わりの剣は、既にある」
「え?でもボルクさんは君は持ってないって言ってたよ」
「そんなのは知らん。俺の剣はここにある」
シュウが言っていることが正しいなら、ボルクさんが嘘をついて僕らをここに越させたというのか。だとしたらその理由は、
「年寄りのお節介か」
ボルクさんは自分にシュウの友達になってやってほしいと言った。詳しくは知らないが、ボルグさんからシュウへの気遣いのようなものだろう。それに個人的にもシュウには興味があった。だからその頼みを快く引き受けたのだ。
「シュウ、ちょっと待ってくれ」
「……」
洞窟の奥に行こうとするシュウを呼び止める。返事は無いが、立ち止まってくれたのなら大丈夫だろう。
「取り敢えず、僕の仲間を紹介してもいいかな?」
そうして、後ろで不貞腐れたようにしているルカと、不安そうにシュウを見ているアイリスをトビアスはシュウにようやく紹介するのだった。
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