第72話 ルカとセバスティアーナの出会い④
バシュミル大森林を歩く、道も何もない森林を迷うこと無くすすむ。
不思議と魔物とは遭遇しなかった。
このルート自体が彼らが長年の経験で見つけた、あるいは安全なように作り替えたのかは分からない。
しかし事実バシュミル大森林であるのに魔物はいなかった。そして森を抜けると小さな集落があった。
人はまばらだがいる。
集落の人々はルカ達を見ても何も言わない。セバスティアーナはまだ仲間だと認識されているようだ。
なんの邪魔をされることなくモガミの里の首領の屋敷に入る。
そこには首領の他、数名の大人たちが同席している。会議を行っていたのだろう。
ルカ達が許可なく会議中の屋敷に侵入したことに気付いた首領は驚き。そして怒りの声を上げた。
「なんじゃ、貴様ら! いや、お前はルカ・レスレクシオン! それにセバスティアーナ……まさか懐柔されたのか!」
ルカはここに来て初めて自分を知っている人間に会ったことに若干驚いた。
そして気付く。ルカの暗殺計画は首領の独断であったのだと。
「いや、彼女は懐柔されておらんぞ? お主の命令通りに吾輩を殺そうとし、失敗し、そして毒を飲んだ。それで懐柔されたというのか?」
「であるなら、そこにいるセバスティアーナはなんだ! あの毒は致死性の毒だ。説明が掴んではないか。嘘を言うなよ! ……ならば、これではっきりするわ! モガミ流忍術・裏。 忍法『決死の毒・発』!
…………。何も起こらぬか、ならば毒を飲んだのは本当か……」
周りがざわつく。
「首領! どういうことですか! まさか、セバスティアーナに決死隊をさせたということですか?」
「だまれ! しかたなかろう、セバスティアーナはまだ12歳。言葉巧みにルカ・レスレクシオンに懐柔される恐れがあった。
それくらいの用心はする。でなければモガミの里はエフタルの貴族共に滅ぼされてしまうのだぞ!」
「ですからセバスティアーナにこの任は重いと我らはもうしたのに、そもそも、いくら掟とはいえ魔法機械はいい物だと我らは結論付けたではないですか。
いくら始祖ユーギ・モガミの教えとて、口伝による間違いだってあると。
それに首領。あなたはセバスティアーナには別の任務を与えると我らには言ったではありませんか!」
「だまれ小僧! 儂はユーギ・モガミの玄孫じゃ、最後の言葉を憶えているのはこの里で儂だけじゃ!」
内輪もめをはじめるモガミの里の面々。
「ふむ、今回の一件は首領の独断的な面があったのかのう。セバスちゃんはどう思う?」
「はい、私は首領の命で今回の任務を受けました。機械文明は悪い文明。それを生み出そうとするルカ様は殺されるべきだと」
「なるほどの……。、おーい! 皆の者! よく聞け! セバスちゃんは毒を飲んだ、そして死にかけた。吾輩は魔法機械を使って彼女の命を救った。そしてだ! 掟を破ったと言って彼女は自分には価値がなくなったと言った。
だから吾輩はセバスちゃんの命を買った。お主らには、もはやどうこう言う筋合いはないが、どうか?」
…………。
しばらくの沈黙の後、若い男は答える。
「掟通りなら、我らにはセバスティアーナのこの先について、どうこう言う権利はありません。ですが、ルカ・レスレクシオン殿はセバスティアーナをどうするつもりですか?」
「うむ、メイドにするに決まっておろう。彼女は優秀だ。仕事はできるし、文句も言わん……たまには言ってほしいくらいだ、そして料理が旨い。それで充分じゃ」
こうしてモガミの里との一件は決着した。
ルカ・レスレクシオンとモガミの里は友好関係を持つことになった。
もっとも、あくまで個人的な繋がりであり、エフタルにはいっさいの秘密を約束している。
ルカ自身、エフタルは信用できないし、モガミ流忍術という魔法体系が彼らに知れたら戦争はやむを得ないからだ。
エフタルの貴族にとって魔法とは神の力、異端は許されないのだ。
セバスティアーナもモガミの里と縁が切れたわけではない。
里の皆はいつでも気軽にもどってこいといった雰囲気だった。
ルカは話せばわかる連中だと知って安心した。
…………。
その後。
モガミの里の首領は、独断で行った責任をとって隠居、そして里を追放された。
彼は里を離れ、放浪の旅に出る。そして、ある集落を訪れた。
「…………。人里か、おい、むすめ、ここはどこだ? お主はなにものじゃ」
「はい、ここは、エフタル王国の首都サマルカンド……の隅っこの片田舎です。えっと私の名前はマーサといいます。おじいさんはどちらから来られたのですか?」
「モガミの里……」
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