第40話 セバスティアーナ②

 俺達は護衛任務完了の報告をしに冒険者ギルドに来た。


 そして受付のお姉さんからは、盟主ミリアムの屋敷にきてほしいとの連絡を貰った。


「そうか、デスイーターをこんなにも早く倒してくれるとは。さすがは女神さまの使者だ。ありがとう、本当にありがとう」


 ミリアムさんは相変わらずのぼさぼさ頭で俺達に感謝の言葉を言った。

 どうやら西グプタを悩ませる魔物はあのサソリだったようだ。


 神出鬼没の虫型の魔物。普段は臆病な性格で、岩陰に隠れながら。毒の一刺しをしてまた姿をくらます。

 そんなやつだったが、どうやらセバスティアーナさんの魔力結界と謎の殺気で住処を追われて。

 空腹のあまりに、城壁の前で獲物を待ち伏せするまでに追い詰められたらしい。


 確かに、あいつは俺の正面に立っても逃げなかった。

 普段ならそういう状況になれば逃走を図るはずだ。毒持ちの魔物はほとんどがそういう性質だと聞いている。

 デスイータと戦った直後にセバスティアーナさんが言ってた言葉を思い出す。


「デスイーターの敗因、二本のハサミを退化させてまで毒針一本に全てをゆだねてしまったということでしょう。

 私なら剣を使いつつ。八本の毒針を同時に放つことができますから、やつもそうすべきだったのです」


 しかし、やっぱりセバスティアーナさんは隠し武器も持ってた、しかも毒付の……。



 さてと、依頼も終えてしまったし俺達はついに西グプタを去る時が来た。


 挨拶をしようと思ってたが、すでにベアトリクスは東グプタ行きの船に乗ってしまったそうだ。


 ミリアムさんはベアトリクスからの手紙を預かっていた。

「元気での、別れの挨拶くらいはしてもよかったのだが、先約があっての。船が完成したら最初に乗せるのは女神様だといってた子供がおってな。

 先日完成したみたいでの、私はそれに乗って東グプタに戻るとする。すまんな、約束だから勘弁してくれ。

 次に来るときには子供でも連れてくるとよい。いつでも歓迎する、では達者でな」


 ベアトリクス。本当に女神の様な人だった。彼女がいる限りグプタはずっとグプタだろう。


「こ、子供って……何言ってんのよ。まだ早いわよ。まったく不老不死はこれだから嫌になっちゃう」


「なあ、シャルロット、いつかまたここに来よう」


「え? あ、うん、そうね、本当にここはいい街だったわ」


 盟主の屋敷から外に出ると、セバスティアーナさんが待っていた。


「では、これからカルルク帝国へは私がご案内いたしましょう。

 エフタル出身のお二人には少々辛い旅になるかと思いますので準備を万全にするとしますか」


 カルルク帝国とエフタル王国は人口はさほど変らないがカルルクの国土は3倍以上もある広大な大地だ。

 しかしその大半は岩石砂漠という無毛な大地が続いている。


 だから水の補給も難しい。

 陸路はオアシスのある小さな街を経由して行く必要があるため、最短距離で縦断できるわけでもない。


 馬車を使えば移動は楽になるかもしれないけど、馬車を魔物から守る必要があるし、

 夜は交代で見張りをする必要がある、隊の規模を大きくしないと効率は良くないだろう。


 三人で徒歩ならキッチンカーの魔法結界で何とかなる。


 やはり徒歩で行くべきだ。


 急ぎというわけでもない。もっとも魔剣は壊れてしまったが。

 だが幸いなことに今のところキッチンカーの動力源としは問題なく使用できる。


 問題は魔剣開放が使えないこと。しかも次に巨大な魔物を斬ってしまったら、次こそ完全に壊れてしまうかもしれない。


「いくら強力な魔剣とはいえ、所詮は機械なのです。メンテナンスしないといつかは壊れます。それに修理できる方はルカ様だけです」


 ということらしい。

 一般的な魔法機械なら魔法機械技師なら修理できる。

 だが、これはたった一つの魔剣だ。ルカ・レスレクシオンしか構造を理解している人はいない。


「新しい武器が必要だな。まずは武器屋にいくとするか」


 西グプタでは魔物との戦いは日常茶飯事だ。そのため東グプタと違い武器屋が多い。


 俺は冒険者ご用達の武器屋に向かった。


「ねえ、カイル、あんたって得意な武器って何かあるのかしら? 魔法学院には騎士の学科はあったけど、騎士学校ほど戦闘訓練はしないし、どちらかというと座学が中心だったような」


「たしかに、あれは士官候補の授業だから武器は習わなかった。どちらかというと貴族との会話で失礼がないような。態度に姿勢、話かた。マナー講習みたいだったな。

 だから俺は特にこれといって武器は使えない。剣だったら、一応基本の型と、儀式的な所作とういか、まあマナーだな。でも自主的に素振りは結構してたよ」


「なるほど、ラングレン様は素人ということですね。それならば好都合です。私は専門家ではないですが、剣なら少しは扱えます。道中、剣の指導をさせていただきましょう」


「それは、ありがたいです。あと俺のことはカイルと読んでください」


「承知しました。ではカイル様には剣を選んでいただきましょう」


 俺達は武器屋の扉を開ける。


「いらっしゃい。って、若い兄ちゃんにお嬢さん、そしてメイドさんとはな、店を間違えているんじゃないかい? うちにティーカップは置いてないぜ?」


 ふむ、正直な感想だ。確かに俺達三人は武器屋に場違いである。


 セバスティアーナさんは気にせずに店内に入ると、店主の座るカウンターに向かって歩いていく。


「おいおい、まじかよ……」

 店主は、セバスティアーナの隙のない歩法に表情を変えた。そして背中にある大きな湾曲した剣と、腰にある短めの二本の剣に視線を移す。


「メイドさん。あんたただ者じゃないな。悪かった、さっきの発言は撤回する。で、お客さん何をお求めで?」


「こちらの青年が使える剣を見せていただきたく」


 俺は店主に案内されると棚には大小様々な剣が並んでいた。短めの剣や、刺突用の細身の剣。そして騎士が使うような立派な長剣もある。

 俺は、それを手に持ちながら感触をたしかめる。


 うーん、なんかしっくりこない。というか軽すぎるんだよな。


「カイル様、ご希望はありますか?」


 セバスティアーナさんは俺を様付けで呼ぶ、やめてくれとは言ったが。

 メイドがお客様を呼び捨てにするのはおかしいので、受け入れてくださいということだ。


 俺は、ルカ・レスレクシオンの客人という事らしい。それなら仕方ないか。


「セバスティアーナさん。なんかこう、しっくりこないというか。軽いんですよね。魔剣は俺でも重たいと思いましたが。慣れてしまうとあれが当たり前というか」


「なるほど、了解しました。さすがですね。ご両親の血筋ということでしょう」


 セバスティアーナさんは俺の両親と一度旅をしたことがあるという。

 できればもっと詳しく聞きたいところだ。まあ長い旅だし、おいおい聞けたらいいだろう。


「店主。この店で一番、頑丈で重たい剣はどれですか?」


「あるにはあるが。その兄ちゃんに持てるんですかい? あれは誰も買い手がいなくて、店の飾りになってから数年たつ品だぜ?」


「おや、こんなところにありましたか。てっきりオブジェだと思ってました」


 それは剣の売り場ではなく。店の入り口に飾ってあった。

 ロングソードを大きくした物体。似ている物と言えば処刑人が持ってたエクセキューショナーズソードに切っ先を付けて、さらに一回り大きくした感じだ。


「その通りオブジェだよ。まあ持てるんだったら安くしてやるさ」


「店主。ご厚意に感謝します。カイル様どうですか?」


「うん、魔剣に比べれば、だいぶ軽いけど丁度いいかも。しっかりとした鉄の重さを感じるし、造りもいい感じだ。ちゃんとした剣だよ」


 店主は俺が持ち上げると。一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに満面の笑みになって俺に言った。


「兄ちゃん、あんたすげーじゃねえか。気に入った。そいつは仕入れ値であんたに譲るよ」


「そこはタダじゃないの? 大きな体のわりにケチなのね」


 さっきからつまらなそうにしてたシャルロットが喋ったかと思ったらそれか。まったく、それはさすがに厚かましいってものだ。


「勘弁してくれよお嬢ちゃん。おいらだって、食ってかなきゃいけねえんだから」


「そうですよ。シャルロット様、いくら売れない商品とはいえ、仕入れ値まで下げてくれたのです。たしかにケチとは思いますが、それはどうしようもないことなのです」


 女性陣は辛辣だった。

 俺は店主さんにお礼をいうと支払いを終えた。

 サービスで専用の鞘まで作ってくれるというのだ。文句を言うなんて可哀そうってものだ。

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