第15話 逃避行①
エフタル王国の王都サマルカンドは、一匹のドラゴンの襲撃によって王城は陥落。
更にドラゴンは中央の貴族の邸宅を破壊したため、王国の中枢は壊滅的なダメージを受けた。
残された地方貴族では王都の混乱を治めることができず。
ましてや今までの傲慢な治世のせいで、貴族に信頼はなく、大多数の平民達は一斉に反旗を翻した。
平民たちは今までの恨みゆえに貴族に対して容赦はなかった。
貴族と知れたら弁解の余地なく殺された。
エフタル王国は無法地帯となった。
その影響が地方都市に波及するのも時間の問題だった。
◆
俺達は街道から逸れて林道に入った。
ここを通る人は滅多にいない。
魔獣の間引き目的の冒険者や、木材を調達するために商業ギルドが使う道だからだ。
地図に記された道を通る。
林道は狭くて曲がりくねっていた。周囲には、高い木々が立ち並び、ここが深い森の中なのだというのを実感させる。
馬車が通るのは不可能なほどの道幅ではあったが。このキッチンカーは馬車の三分の一程度の大きさで問題は無かった。
どんなに悪路であっても問題なく進める。
ここで気付いたのだがこのキッチンカーは少し浮いていたのだ。
シャルロットもどういう魔法を使っているのか分からないようだった。
フローティングという物を浮かせる魔法はあるが。
地面すれすれを浮かせるには余程の集中力がないと不可能だし、そもそも魔力消費量が多いため、実用性には乏しい魔法だ。
結局は仕組みは理解できなかったが、とりあえず問題なく使用できるので保留しておいた。
分かれ道に差し掛かると、地図を広げしるしを付ける。
高い木々のせいで太陽の位置が分からないから方向感覚がなくなっていた。
頼りはこの地図だけだ。
俺達は数日かけて森の中を進んでいった。
当然、森の中であるため魔獣がおそってくることもある。
魔獣とはいってもバシュミル大森林の魔獣とは違って。この森に生息するのは小型の魔獣がほとんどだ。
代表的な魔獣にマッドフォレストウルフがいる。
一説にはフォレストウルフが魔獣化した存在ともいわれている。
知能は低く、フォレストウルフと違って群れで行動せず、縄張りも持たずにつねに森を徘徊して、遭遇した獲物を捕食している比較的弱い魔獣だ。
魔法学院でも実戦訓練の授業で何度か戦ったこともある。
だが、それは訓練場での話でここは森の中だ。
それに突然襲われるというのはかなり厄介だ。
だから、移動の際は常に周りに集中する必要がある。ピクニックではないのだ。
「来たわね。あっちは私達に気付いているみたい、真っすぐにこっちに向かってる」
「よし、ここで迎え撃とう。キッチンカーを地面に固定して、魔剣の準備を……」
「マッドフォレストウルフ程度なら私一人でも楽勝なんだけど?」
「いや、油断しないにこしたことはない。それにマッドフォレストウルフが群れで行動しないというのは定説で、森の中では違うかもしれない」
「そうね、貴方が正しいわね。来るわ」
森から出てきたのは一匹のマッドフォレストウルフだった。
だが、魔法学院で飼っている戦闘訓練用とは一回り大きい。それに所々に傷痕があり、歴戦を思わせる。
「な? あれは多分強いぞ。油断しなくて正解だったろ?」
「そうね、でも、それほどでもないかしら。先手必勝! アイスジャベリン!」
シャルロットは氷属性の中級攻撃魔法アイスジャベリンを放った。
中級魔法で倒せない魔獣は少ない。それこそバシュミル大森林の奥にでもいかない限りは。
氷の槍に貫かれたマッドフォレストウルフは回避行動も取れずにそのまま胴体を貫かれ瞬時に凍り付いた。
「ねえ、これ食料にならないかしら? キッチンカーの食糧庫には肉がなかったし」
「おいおい、学院で習わなかったのか? マッドフォレストウルフの肉を食べたら、高熱にうなされて三日も経たずに死ぬって」
だから単独で行動しても、他の魔獣や動物に襲われずに森を自由に徘徊できるのだという。
確かレンジャーの教育で二年の時に習ったはずだが。
「知らないわよ。そういう科目は進級に関係ないから受けてないもの」
おっと、そうだった。彼女は飛び級で一気に三年になったのだった。
「じゃあいいわ。これは地面に埋めてしまいましょう。でもそろそろ肉が食べたいし。動物でも狩れないかしら、貴方だって肉食べたいでしょ?」
彼女はまだ12歳だというのも忘れていた。育ち盛りだということだろう。
しかし狩るっていっても、道具も無いし。
さっきみたいに凍らしてしまっては血抜きもできない。不味い肉は逆に健康に良くないだろう。
「悪い、狩猟は俺も苦手でな。街に着くまで我慢だ。それに俺達は現在逃亡中だ。王都が混乱しているであろう今のうちに距離を稼ぎたい」
露骨に嫌な顔をするシャルロットだったが、わがままというわけではない。直ぐに切り替えて移動を再開した。
「まあまあシャルロットよ、もう少し進んだら川があるみたいだし、そこで魚くらいは獲れるかもだ」
川と聞いてシャルロットは口には出さなかったが表情がぱぁっと明るくなった。
この辺は年相応の少女のようだった。
大人びているとはいえ12歳なのだ、まだまだ子供っぽいところがある。
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