空想特撮小説フォトンマン

ゲッター線の使者

第1話 素敵なキセキ

穏やかな海が爆音で渦巻き、炎が上がる。黒煙の中に見えるシルエットは人類が何よりも恐れるものだ。それは、その二足歩行の天を衝く影は、巨獣! かつて地上を支配した古代の獣である。その姿は立ち上がったトカゲの如し。

 悲鳴が木霊し、町は混沌に支配された。しかし、怯え惑う人々の中をかき分け走る男がいた。許せない敵へ走るその男とは、熱き怒りの嵐を抱いて戦うために飛び出すその男は一体何者だ。

「そこの君! 何をしている!」

 対巨獣特殊部隊エースの新人隊員最上香が叫んだ。避難所に誘導すべき一般市民が死地に赴こうとしている。それを見過ごせる彼ではない。しかし、人の流れがそれを阻んだ。

「待つんだ! 行っちゃだめだ!」

 遠くなっていく香の声を聴いた男は呟いた。

「エース風情が……」

 走り走って、人がいない場所まで来た。それはつまり巨獣の射程圏内である。男の顔に紋様が刻まれる。それは光輝き全身を包んでいく。そして紋様は人の形を保ったまま大きくなっていく。巨大な人型が男の周りに展開される。やがて形は質量を得て、輝く巨人が現れた。

 人々は巨人を見て、理解した。それはまさしくあの日戦っていた戦士。かつて自分たちを守っていてくれた存在。我々はその名を知っている。

「フォトンマン」

 皆がそう呼んだ。

 最上香は見失った男のことを考えながらも、避難誘導をしていた。助けられない人間がいる。そのことは入隊前から覚悟してきたつもりだ。けれど目の前で起こってしまっては、引きずるなと言うのが無理な話である。だとしても救える人間だけは確実に救うのがその使命だと自分に言い聞かせる。

「最上隊員、避難は終わったか?」

「もうすぐ終わります」

「終わり次第戦線に加われ」

「ラジャー!」

 通信が入った。無機質な声が香に冷静さを取り戻させる。

「そうだ、きっと俺は今日と言う日を後悔する。だけど、今やるべきことに迷うな。例え心が揺れようと手だけはブレるな。それが、アイズだ」

 ホルスターに手をかけながらあの日の誓いを思い出す。避難所に入っていく市民を確認して、走り出した。その前には、大きな背中。

「フォトンマン!? 帰ってきたのか!」

 子供の頃、巨獣と戦い人類を守り、そして人知れず去っていったヒーローが帰ってきたのだ。香にとってそれはエースに入る理由であり生きる目標であった。駆け出す脚がスピードを上げる。心臓が高鳴る。夢にまで見た光景、それがここにあった。

 巨人、フォトンマンは怪獣に向かってファイティングポーズをとる。10年前のあの日と同じだ。

「隊長、春日隊長! フォトンマンがいます! フォトンマンが我々と一緒に戦ってくれます」

「落ち着け最上隊員。他の奴らもだ。あのフォトンマンが10年前と同じとは限らない。巨獣の敵だとしても人類の味方だと考えるのは早計だ。警戒しつつ巨獣がこれ以上街を壊さないように対処しろ」

「ラジャー!」

「ラジャー!」

「ラジャー」

 前線に出ている三人の隊員がその命令を受け取った。二機のジンガーが巨獣とフォトンマンの周囲を飛び回って様子を見る。

「近付き過ぎるなよ」

「わかってますよ草薙さん。アイズに入ってフォトンマンが好きじゃないなんてありえませんから」

「わかってるならいい。このまま牽制だ、加賀美」

「ラジャー!」

「俺もそっちに行きますよ」

「久々の出動だからって気を抜くんじゃないぞ」

 三人のエース隊員がフォトンマンと怪獣を穴が開くほどに見つめている。怪獣が歩を進める度に、緊張感が高まる。そして、踏みつぶされる自動車がクラクションの断末魔を鳴らした時、動いた。巨獣の顎に向かってフォトンマンがパンチを繰り出す。明らかに、人と戦うことになれているそんな動きだ。故に、獣には適さない。巨獣はその拳に噛みついた。牙が手首に突き刺さる。

「ジェアッ!」

 フォトンマンが痛みに歪んだ声を響かせる。しかし、そこで怯むだけではない。噛みつかれた拳をそのまま突っ込んで喉を殴り抜いた。どんな獣だろうと、息ができないということは苦しいものである。怯みたじろいだ巨獣を傷ついた腕で再度殴る。これもまた人と戦うための、相手に恐怖を与えるためのテクニックである。だがこれは、獣にも有効である。手負いこそが自然界で最も恐ろしい。生きる為の防衛機能である痛みを超えて戦う者には、実力以上の強さが宿るのだ。

フォトンマンは血を流さない。その代わりに、活動するためのエネルギーであるフォトンフォースが流れ出るのだ。腕に空いた穴から光が噴出し周囲のビルを焦がす。

「ゼァァ……」

 戦いのペースはフォトンマンにあった。

「ジャァア!」

 フォトンマンのハイキックが巨獣にヒットし更にダメージが入った。更に近づいてパンチの連続を浴びせる打撃痕と焼け焦げた痕が巨獣の身体に増えていく。しかし巨獣もやられているばかりではない。パンチを喰らった瞬間に尻尾を使って踏ん張り、押し返す。そしてフォトンマンの方に噛みつく。

「グェア!」

 フォトンマンは拳で肘で巨獣の頭を打ち据えて離れようとするものの巨獣も必死に食らいつく。

「春日井隊長! 援護の指示をください!」

「最上、何を言っている」

「フォトンマンがピンチです。隊長!」

「それが理由では援護できない」

「じゃあ我々は何のためにここにいるんです?」

「人々を守るためだ」

「ならフォトンマンを援護すべきでしょう」

「まだ奴が信頼していいかわからん」

「じゃあ、あの巨獣の無防備な頭を撃ち抜いていいですか? 隊長」

「加賀美先輩!」

「それなら許可する」

「建前覚えなよ。じゃあフォトンマンを援護するよ」

「ラジャー!」

「ラジャー」

 ジンガー二機と最上の携行フォトンブラスターが巨獣の頭部を撃つ。致命には至らぬものの、怯ませることならできる。

「フォトンマン、頑張れフォトンマン!」

 最上の放った一撃が巨獣の目に当たって、口が開いた。その隙にフォトンマンは距離を取る。

「イアネェェェェ!」

フォトンマンは叫んだ。

「フォトンマンなんて言った今?」

「いらねーって聞こえました」

「いやまさか……」

フォトンマンは周りを見回して、ジンガーを見つけると手の甲で払いのけるシッシッというジェスチャーをした。

「マジで!?」

「これは……」

「援護してよかったのか?」

「裏目が出たか……」

 エースの隊員達の混乱を余所目に、フォトンマンは再度戦いの構えを取る。しかし近づくのはリスキーである。そこでフォトンマンは腕の傷と巨獣の火傷を見て、閃いた。腕の傷を巨獣に向け、吹き出る光を噴出させる。勢いが足りない分は自分で締め上げる。ホースの様に飛び出した光の線が巨獣に伸びて、その体を貫く。

「フンンンン!」

光の線は巨獣を貫く。胸に風穴が空き、巨獣は悶え苦しむ。しかし、生存本能が身を切り裂かれながらも逃げようと体を動かす。それを見たフォトンマンは腕を振り上げて、下から首を通り頭部を切り裂いた。

「グウゥゥ」

フォトンマンは傷痕をもう片方の腕で抑えた。そしてそのまま上空に飛び去った。そこは10年前のフォトンマンと同じだった。

「なんだったんだあいつ……」

「悩みの種が増えたな」

「あんなのフォトンマンじゃなーい」

 突如現れたフォトンマン。敵か味方か。

 戦闘が終わり、廃墟となった街に光の球が舞い降りる。その中に一人の男がいた。腕と肩に傷を負い、額に玉のような汗を掻いている。

「邪魔しやがって……」

 男はアイズに対して敵意むき出しにした言葉を吐いた。

「おい君、何をしている」

「あっ」

 それを見ていたのは最上だ。光の球が降り立つその一部始終全てを。そして、最上の脳内に一つの疑念が生まれた。目の前の不可解な状況を説明する一つの仮説。

「君は、フォトンマンなのか?」

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