1-06  引けぬ戦い

 公園内の端に移動し、俺は三人の男たちと相対する。


「ルールは簡単だ。先に相手に音を上げさせる。これだけだ」

「決闘形式というわけか」

「そうだ。魔術の使用はお互い自由。異論はないな」

「あぁ」


 お互いの視線が交差する。

 本来これもまた決闘罪という法律に触れる行為ではあり、

 国家組織のエージェントとしては避けるべき展開なのだろうが――――。


「(致し方ない)」


 先輩を守る為だったとはいえ飛び出したのは俺の意思だ。

 ここは逃げるわけにはいかない。


「いくぞ」


 律儀にも男は不意打ちをすることなく構えを取り間合いを詰めてくる。

 その様子から相当な自信が伺える。


「(決闘を申し込むあたり、やはり場数がありそうだな)」


 だが、さっきの紋様を見るに奴の魔術は強化系の近接タイプ。

 近づかなければ何ということはないが問題は背後の二人。


 一対一と明言していない辺り、まず間違いなく何かしらの魔術を発動してくる

 であろう。それが支援系が妨害系か…………まずはそれを見極めるか。


 男の振りかぶりを見切りつつ、後ろの二人に注意を払う。


「にっ」


 視線の端で男が一瞬、微笑む。

 瞬間、何か嫌な予感を察し、俺は咄嗟に体術を用いて男の腕を受け流す。


 ズドーン。


 直後、目の前に突風が吹き荒れ、隣にあった木に衝撃が走る。

 俺も男も木には一切触れてはいない。


 しかし木は何かにぶつかったように幹を揺らし頭上から大量の木の葉を

 地面へと落とす。


「おーやるね。初激をよけられたのは久しぶりだ」

「……衝撃波か」

「ご名答」


 払った腕に残る痺れを横目に男から距離を取る。


「…………」


 衝撃波。強化系の中でも珍しいタイプの魔術だな。

 しかもこの威力、恐らくは後ろの二人の魔術で強化されているな。


「(魔術なしとはいえ、俺の体術で捌ききれないのは少し厄介だな。

 だが逆に初激で二人の魔術を見抜けたことは大きい)」


「司くん、大丈夫?」

「問題ありません」


 背後にいる先輩に気遣われながら一歩前へ。


「おい」


 すると男は後ろの子分に合図を送る。何か小細工を弄するつもりであろう。

 だが先輩が見ている以上、こちらとしても負ける訳はいかない。


 ともあれ流石に一般人相手に本気を出すわけにもいかず、

 長引かせるのもあまり良くない。


「(次で決めるか)」


 もう一人の魔術が不明であろうと、極論使わせなければ何も問題はない。

 衝撃波に関しても威力が大きい分、隙もでかく十分に対処可能だ。


 ザッ――――


 相手のタイミングをずらし一気に懐へと踏み込む。

 ――――しかし。


「止まれ!」

「ぐッ……!!」


 時間にしてわずか数秒。俺の身体は背後の男の一声により、自らの意識とは

 無関係に停止する。


「(これは……!?)」


 直後、男の拳が腹に直撃し、俺の踵を浮かす。


「カハッ」

「司くん!」


 腹筋を貫く衝撃に思わず膝をつく。

 その様子に遠乃先輩が慌てて駆け寄ってくる。


「司くんしっかり!」

「くぅ……」


 彼女に支えられ、痛みに耐えつつも何とか立ち上がる。

 その様子に男たちが薄ら笑いを浮かべる。


「おいおいもうギブアップか?」


 勝利を確信した下劣な笑み。

 どうやら俺は彼らの必勝パターンにまんまと嵌ってしまったらしい。


「さっきのは暗示か」

「ほー物知りだな。そう、こいつらの魔術は魔力強化と暗示だ」

「……なるほどな……解説どうも」


 内臓は――無事。直前で俺の魔術、『身体強化』を発動しておかげで助かった。

 しかし今のはいただけない。


 相手の実力を見誤り、あまつさえ先輩に不甲斐ない姿を見せてしまった。

 最上司一生の不覚である。


「どうだまだやるか?」

「――――当然」


 俺は先輩の腕を優しく払い退ける。


「もういいよ司くん、これ以上は…………」

「いいえ先輩、安心してください。もうあんなへまはしません」

「ほう、いうねぇ」

「ふぅー」


 先輩を再び背後に深呼吸をし気を落ち着かせる。

 そして汗でじんわりと湿った髪を掻き上げる。


「悪かったよ。俺はどうやらお前らを舐めてたみたいだ」

「負け惜しみか?」

「そんなところだ」


 そうして俺はその日、初めて自身から構えをとることとなった。


「だから今度は本気で行かせてもらう」

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