俺の秘密基地で美少女が襲われているんだが

だから。

プロローグ

 秘密基地というものは男の浪漫である。

 子供の頃、秘密基地に憧れた男子は少なくないだろう。森の中の静かな場所、潮風が感じられる海辺、はたまた何年も取り壊し計画が進んでいない都会の廃墟ビル。そんな人の目につかない場所に浪漫を感じてしまうのは男の性なのだろう。


 中学3年生になり、早いものでもう3ヶ月。

 暑くも寒くもない初夏の夜。俺ーー瓜生木葉うりゅうこのはは取り壊し予定の雑居ビルに3人掛けのソファを運び込んでいた。


 半年ほど前から着々と進めてきた秘密基地の最後のピースとして、店を畳むバーの店長から譲り受けたものである。基地完成のため汗だくになりながら重さ40キロほどの革張りのソファを運ぶ男の姿は、見る人によっては夜逃げか何かに映るだろう。


 やっとの思いでいつもの雑居ビル2階に大荷物を運び込むと、一つだけ鍵の掛かっていない元事務所だった部屋のドアノブに手をかける。

 ーーーそこまでは、いつも通りだったのだ。


「?、誰かいんのか…」

 明らかに人の気配があった。それも複数人。流石に鈍感な俺でもいつも人っ子一人いない空間に人間がいればわかる。

 まあ入ってみればわかるか、と思いながらドアノブを捻った。

 

「誰か迷い込んじまったのかー、っと」

 お化けとかだったらどうしようと、少し気味が悪くなりつい声を出しながら入った。


 目に入った光景は俺の想像を超えるもので、おっさんが女に覆い被さっているという中々ショッキングな光景だった。

 

「誰だ!?」とおっさんに怒鳴られ、状況に面食らっていると、恐怖で声も出せないのか女から助けを求められるような目で見られた。


「一応聞くが、じゃないんだな?」

盛り上がってしまったカップルの邪魔をしてしまった線も捨てきれず、若干頓珍漢な質問をした。


「たす、けて、、ください」


 女から本格的に助けを求められたため、仕方なくおっさんに話しかけた。

「おいおっさん、今すぐその女から離れて失せろ。今なら通報はしないでやるよ。」

 嘘だ。通報はする。


「だ、だ、誰だお前!い、い、いいところを邪魔…し、し、やがって!」

 パニックになっているのか、唾を飛ばしながらこちらを向きおっさんは叫んだ。

 話が通じなさそうだったので、おっさんがこちらを向いた瞬間、顔面に膝を叩き込んだ。


 ぶぺっと情けない声を出しながらおっさんは悶絶している。

「あー、いい位置にあったから顎に入っちまったかも…」

ピクピクと痙攣するおっさんを見て、多分折ってはないよなと自分でやりながら心配になってしまったが、もっと心配な人間が居たためそちらを優先することにした。


「あんた、大丈夫か?」


「ありがとう、ございます。」

 礼をいう女の顔には涙が浮かんでいた。薄暗くてよく見えていなかったが、まじまじと顔を見ると吸い込まれそうな美しさがその女にはあった。


「私、怖くて、不安で、このまま犯されるのかなって思って、声も出せなくて」

 俺はその話をうんうんと聞くことしかできなかった。

このまま、この場にいさせても気の毒なので、俺は帰宅を促すことにした。

 基地の完成はまた明日にでもすればいいだろう。

 

「とりあえず警察呼んで帰りましょうか?」

 

 これが、薊菊花あざみきっかとの出会いだった。

 

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