錬金術を極めしもの〜Another age〜

アラタムMAX

プロローグ

歌を失った日、そして…

彗星戦争から1年後。


ある日、私はあの戦いで被害を受けた地域などを周り、歌を歌っていた。

それは、自己満足だと思っていた。自分自身でもわかっていた。

皆んなも辛い思いをした。そして、私自身も大切なものを失った…。

辛い思いを吐き出したい、そんな想いも持っていた。だが、そんな私の歌を聞いている皆んなも励みになると言ってくれていた。

複雑な思いを掲げながら活動をしていた。

ある場所のライブで、司会の人が命をかけて世界を救った錬さんの事を言ってくれた。

だが、会場に来ていた一部の人から心無い言葉が投げかけられた。

『本当は彼が仕組んだ事じゃないか?』『もっと早く対応してくれていれば被害は抑えられた筈だ』『彗星を破壊しても結局被害を受けた所は多い』『結局、アイツは世界を救った英雄じゃない!被害を世界中へ広げた大罪人だ!』

耳を塞ぎたくなる。涙も出そうになる。だけど、ここはステージ上…私は全ての思いを押し殺して後半の歌を歌おうと思っていた。



しかし、いざ歌うとなった時。

歌が……いつもは心の底から…頭に歌詞が浮かんでくる筈なのに。それに、口も上手く動かせない…。

私の異変に気がついた遙は私を舞台袖へと連れて行く。

『どうしたの?』

と問いかける彼女に私は

『歌が……歌詞が浮かんでこない…声が出てこない…』

と言葉をこぼしながら涙を流す他なかった。


この日、私は歌まで失う事となった。




その日以降、人前で歌う事もできなくなった私は、長期活動休止という形でおじいちゃんとおばあちゃんの家へ戻った。

ただ、毎日無気力に過ごす私。

そんな様子を見かねたのかおじいちゃんは私を座敷に座らせるとたずねてくる。


『何故こうして無気力に過ごすと』


怒っているのはわかっていた。


『私にはもう残っている物は何もない…。歌も錬さんも失った…ハクもいない。私は全て失うしかない…だったら何もしない方がいい』



おじいちゃんが身を乗り出した。平手打ちされる事を覚悟していたが、私に平手打ちをしたのはおばあちゃんだった。



『馬鹿!お前さん約束したんじゃないのか!』


と声を荒げていた。


『確かに失ったのかもしれない…だが、彼は…錬くんの事はどんな事があっても待つと言ったのはあなたでしょう?結果はまだはっきりとしないのなら待ち続けなさい!』



そうだ、おばあちゃんの言う通りだと。

発見されたのは飛燕の手足と頭部のみ、人が乗っている胴体部は発見されていない…。

顔を上げた私を見ておじいちゃんも少し微笑む。



『目に力が戻ったな?ワシらも信じている。彼が帰ってくるとな…彼は死にゆく筈だった私達を救って希望を持たせてくれた人だ。そんな人が簡単に居なくなるものか、きっと奇跡を起こして帰ってくるさ』



その言葉に私は2人に縋りつき精一杯泣いた。




後日、彼の実家に訪ねた時に彼の部屋で魔法装甲のシュミレーターを発見する。

以前、彼と一緒にやった時に彼に筋がいいと言われた事を思い出した。

私はシュミレーターに座ると装置を起動する。

シミュレーターに現れる敵を倒していく。

段々と難易度を上げて行く。

私が何とかなったのはAランクまで。Sランククラスに何とかくらいついたがクリアは出来なかった。

それから彼の家族に挨拶を済ませると、私は覚悟を決めて彼と同居していた場所に戻る。

そして、ある物を保管していた場所から取り出して役所へ届ける。

それから私は詩織さんへ連絡をとりある所へ推薦してもらうようお願いする。

詩織さんからは止められたが、私の覚悟を知ってからは止められる事は無かった。だが、無理だけはしないようにと注意を受けた。



そして、私が来たのはハバキリの新しい試作量産型魔法装甲の装甲騎手、それを決める審査する為の会場。

ハバキリの3番艦が出来たと同時に魔法装甲の装甲騎手も2名追加したいとの事で審査を開始したのだった。

会場には多数の参加者がいた。

その中にはハバキリの一員である梁さんの弟さんも見かけた。

時間が来て1人1人名前を呼ばれ試作の魔法装甲に乗り込む。

試験の内容は試作量産機に乗り、ハバキリの魔法装甲と戦い一撃を入れること。

試験用の装備ではあるが当たればそれなりの衝撃がくる。

試験を受けに来た装甲騎手達はどんどん脱落して行く。

100人以上いた候補達も次々に脱落してもう両手で数えられる程しか残っていない…。

現在合格しているのは、梁さんの弟さんだけだ。

残り1枠。皆必死にやってはいるものの一撃は与えられない。



『七海瀬那!』



私の名前が呼ばれる。返事をし前へ出ていく。

騒つく周り。

それもそうだろう。アイドル歌手として、つい最近までは歌手として活動していた。私の顔を知っている人は多い。

それだけではない、ハバキリのメンバーの人達も驚いている人もいる。

魔法装甲から降りてくる人がいた。

私も会った事もある魔族と人のハーフ。

その人はゆっくりこちらへ近づいてくる。



『お前は…。他の奴とは違って装甲騎手の資格はないな?』

『はい』



その答えに周りは再び騒つく。



『それでお願いがあります』

『なんだ?』

『あなたに2回攻撃を当てられたら、私を合格にしてこの国の装甲騎手として認めていただけませんか?』



私の問いに周りの試験者達は一斉に笑い出す。

『無理だ』とか『寝言は家に帰ってからにしな』とか。

だが、あの人は一切笑う事なく私の問いかけに答えた。



『面白い。そこまで言う自信があるのならば俺も少し本気を出させてもらう。準備して欲しい物はあるか?』

『盾を1つお願いします』



そして、互いに魔法装甲に乗る。

武器を構える黒鋼。他の試験生には抜かなかった双剣。それを構えた。

先ほどとは違う対応に会場は騒つきだす。

開始の合図と共に黒鋼は一気に懐に飛び込んでくる。その速さ今までの相手に手加減していたと言っていい程だった。

それを見ていた試験生達は唾を飲む。

私は盾を素早く構え、そのまま黒鋼に体当たりする。

回避すると思っていたのか、はたまたそのまま黙って攻撃を受けると思っていたのか、虚を突かれた黒鋼はバランスを少し崩す。

私はすかさずそこに一撃を入れる。軽く入った一撃。

一本の判定が入る。



『中々やるな…。正直盾で攻撃を受けると思っていた。だが、もう一本は油断はしない!行くぞ!』


再び武器を構える。

激しい双剣の攻撃。私は盾と剣で捌く。



『さぁ、あと2回攻撃を受けるとお前は終わりだ』

『………(どうすれば…)』

『さぁ、残り1回だ…』

『そうだ!』



私は隙をつき、大きく後ろに後退する。

だが、相手も待ってはくれない。直ぐに距離を詰めてくる。

私は盾を相手に投げつけると同時に前に走り出し、スライディングする形で下に潜り込む。

一瞬盾に気を取られたのか反応が遅れ、ジャンプして私を回避しようとしたが、その足に剣で一撃を入れる。



『そこまで!』


試験を終了する合図がされる。



『2本先取した為、七海瀬那を合格とする!』



高レベルの試合に拍手が贈られた。


装甲から降りた私は手が震え、立てなくなった。

そんな私にゆっくり近づいてくる1人の女性。

彼女は私の大切な人のクラスメートだった人。

彼女もまた高校在学時に恋人と一緒に装甲騎手となり2人で彼の側で戦い抜いた人。



『大丈夫?そうだよね…私も初めてはこんな感じだったから気持ちはわかるよ?』



そう言って私を立たせてくれた。

震える膝を支え何とか立っていると、試験で手合わせした装甲の騎手が降りてくる。



『まさかな…ここまでやれるとは思ってはみなかった。試験を受ける前にエリゼより聞いていた筈だ。これに乗ると言う事は普通の日常に戻れなくなる。もう一度聞く。これに乗る覚悟はあるか?



強い瞳が私を見つめる。

しかし、私は迷わず答えた。



『乗ります!私にしか出来ない事をする為に!』










歌を失ってから暫くして、私は装甲騎手となった。

そして…




「あれから3年経ったよ…。私、今年ハバキリのメンバーとして、1人の装甲騎手として戦う事に決めたよ…」



ある場所で自分の中の覚悟をもう一度確かめるかのように私はそう呟いたのだった…。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る