ダンボールはクッション性もあるし暖かい

若菜わかな、真面目な話なのだけれど……私のベッドで寝なさい」

「ええ⁉」

「大丈夫、ちゃんと干したから」

「いやいやいや、それじゃあ紗里さりちゃんの寝る場所が無いじゃん!」

「ダンボールってクッション性もあるし暖かいのよ?」

「せめてソファでって言って‼」


 都合良く寝袋など無いし、ベッドはシングルサイズが一つ。あとはソファと探せばあるダンボール。


 涼香りょうか涼音すずねのように同じベッドで寝る訳にもいかない。ていうかそもそもシングルサイズのベッドで二人一緒に寝るのがおかしいのだ。


「まだ部屋はあるのだし、若菜用のベッドを買っておくべきだったわ……!」


(本当はいつでも若菜が泊まれるようにベッドはまだしも、布団は買おうと思っていたのよ? でもね、そこまで用意周到だとなんか気持ち悪いじゃない!)


 必死に心の中で言い訳しながら、怪しまれず若菜の分のベッドを用意するための布石を打つ。


「いや、そんなベッドまで……。でも、急に泊めてって言っちゃったから、私はソファでもダンボールでも大丈夫だよ?」

「それは駄目‼ 若菜は布団で寝なさい‼ だって若菜は受験生でしょう? 受験まで時間があるとはいえ、もし身体の不調が原因で勉強に身が入らないなんてことあってはならないのよ‼ 体調は常に万全にしておかないと‼」

「そ、そうだけど……」


 紗里の最もな言葉に、若菜は首を縦に振ることしかできなかった。それでも、いきなり泊めてもらうことになったのに、紗里からベッドを奪うのには抵抗がある。


(でも紗里ちゃんも今日は体調悪いっぽいし……。大丈夫とは言ってたけど、疲れって自覚無くても溜まるし、気持ちにも影響するし……。あっ、涼香と涼音ちゃんみたいに一緒に寝れば解決だ!)


「一緒に寝たら解決だよ?」

「……………………」

「紗里ちゃん……?」


 突然言葉を返さなくなった紗里。やがて、どさりとその場に倒れ伏した。


「紗里ちゃん⁉ え、ちょ、きゅっ救急車⁉ どどど……あっ寝てる……だけ……? ってあっっっつい‼ これアレだ! 菜々美ななみと同じやつだ! ん? なんで……?」


 熱くなり、その場に倒れ伏した紗里。これは菜々美が爆発を堪えた時に機能停止するのと似ている現象だ。


(でもなんで? うーん……菜々美は恥ずかしさでこうなって、ということは紗里ちゃんも……? あー……紗里ちゃん、こういうのに慣れてないのかあ)


「うーん。紗里ちゃん、超絶美人だけじゃなくて、ここまで可愛いを出せるのか……」


 勉強のおかげで、インテリジェンスでジーニアスな気分の若菜。しかし鈍感なのは変わらず、もしかして――すら考えつかない。


(それに、やっぱり紗里ちゃん疲れてたのかな)


 それなら、自分はソファで寝て、紗里はベッドで寝てもらおう。


 若菜は倒れ伏した紗里を抱えようと手を伸ばし――。


「あっっっつい‼」


 すぐに手を引っこめるのだった。

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