盆休みにて 10

「ねえ、いつ帰れるの?」


 ソワソワしている涼音すずねが母に尋ねる。


 言葉に出ていないが、早く涼香りょうかに会いたいというのが見て取れる。


「週末だよ」

「っもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

「えぇ……」


 涼音も週末まで会えないと知っていたのだが、もしかすると予定が変わっているかもしれないと思い聞いたのだ。結果、聞かなかった方がよかった気もする。


「寝る!」

「せっかくだから今日のご飯買いに行こうよ」

「どうせそうめん!」


 ちなみに昨日の昼はそうめんだった。


「じゃあお昼は天ぷらにして、夜は手巻き寿司にしよっか」


 母の提案に、涼音は恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。


「涼香ちゃんと海鮮はイコールなの⁉」


 涼音の頭では――。


「天ぷら⁉ キスの天ぷらが食べたいわ!」

「手巻き寿司⁉ 手巻き寿司と言えばお刺身ね! 涼音! 敢えて海鮮丼を作るわよ‼」


 ――と、涼香の声が聞こえる。


「……そうめんでいい」


 そんなことを言う涼音を、恐ろしいものを見たような表情で見る母であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る