水原家にて 34

「待ちなさい‼」


 そんな涼音すずねの手を掴んだ涼香りょうか


「なんですか」


 どうせ明日もそうめんなのだ。悩むことなく青色のボタンを押せば解決だ。


 しかし、涼香にはなにか考えがあるらしく、優しく涼音の手を下ろして離すと、一本だけ立てた人差し指を額に当てる。


「私が勉強をしていなかったら危なかったわね」

「まさか……⁉」


 涼香にはこの問題の答えが分かったのだろうか。


 涼音はそんけーの眼差しを向ける。


「照れるわね」


 瞬間ジトッとした目になった涼音が、話を聞きましょうと腕を組む。


 涼香もそれで察したらしく、咳ばらいをして始める。


「答えはなにもしないことよ!」

「いや急‼」


 いきなり答えを言った涼香に思わずツッコむ涼音。


「結論から先に言う派よ」

「適当言わないでください」


 頬を膨らませて涼音を見るが、顔を逸らされてしまう。観念した涼香が語り出す。


「明日の昼食のことなんて、明日しか分からないわ。それに、この問題に時間制限は無いでしょう?」

「どうせそうめんですよ」

「それはどうかしら」


 涼香はダンボールから出した災害食を取る。


 新しい物と入れ替える災害食、古い物は明日の昼食で食べればいいのだ。


「でも、それなら赤色でいいんじゃないんですか?」


 涼音の言う通り、そうめん以外の昼食を確保できるのなら、赤色のボタンを押してもいいのではないか。


 それなのになぜ、涼香は明日まで押さないを選んだのだろうか。


「それは簡単よ。問題は、明日の昼食はそうめんかそうめんではないか。そうめんだと思うのなら青、そうめんでないのなら赤のボタン。なのよ」


 母からのメッセージをそのまま口に出す。


「明日の昼食なんて、明日の昼食時でないと分かるわけないではないの」

「でも、そうめんだと思うのなら青って言ってましたよ。

「それは私達を引っかけようとしていたのよ」

「ほんとですかぁ?」

「本当よ。もし違っても、答えを押していないのだからお小遣いは粉々にはならないわ」


 これにて終わり、という空気を醸し出す涼香。


 涼香の答えを聞いて、どっち押しても大丈夫だろうな、と思う涼音である。

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