ここねの部屋にて 6

 ここねが軽食を作りに行っている最中、ここねの部屋には涼音すずね菜々美ななみ若菜わかなの三人だけだった。


「ねえ菜々美、歌って」

「急ね」

「あたしも歌ってほしいです」

「涼音ちゃんまで……⁉」


 菜々美の歌を生歌唱で聴いてみたい。基本的に涼香にしか興味が無い涼音までそう言うとは。


「でも断るわ。私の歌はここねのためにあるのよ」


 胸に手を当てて目を閉じる菜々美である。


「それは……仕方ないか。じゃあ文化祭楽しみにしてるわ」

「歌わないわよ! 私の話聞いてた?」

柏木かしわぎ菜々美文化祭スペシャルライブ決定!」

「やらないわよ‼」


 そうやって二人が言い合っていると、涼音のスマホが着信音を奏でる。


「「涼香りょうか?」」

「ですね」


 最近は夏美なつみから連絡が来たりするため、全てが涼香からだとは言えなくなってきているのが嫌だった。


 とりあえず誰からかと確認すると涼香からだったため、小さくホッと息を吐いた涼音は通話ボタンをタップする。


「なんですか」

『すず……ね……』


 今にも命が尽きそうな、そんな声がスピーカーから聞こえてくる。


 涼音はそのまま、黙ってなにも言わない。


『なにか言ってくれてもいいではないの』


 涼音がなにも返答しなかったことで諦めたのか、いつも通りの涼香の声が聞こえる。


「なんですか」

『理由が無いと電話をしてはダメなの?』

「勉強でもしてればいいんじゃないんですか?」

『意地悪ね、まあいいわ。そこにいる菜々美と若菜に言いたいことがあるの、スピーカーにしなさい』

「えぇ……」

「なんて言ってるの?」

「スピーカーにしろと」


 心底面倒そうに息を吐いた涼音が渋々スピーカーをオンにする。これで涼香の声は二人に聞こえる。


「どうしたのよ?」


 スピーカーになったことを確認した菜々美が涼香に問いかける。


『菜々美、今日の昼食はここねが作ってくれるサンドイッチかしら?』

「どうしてわかるの……?」

『ちなみに私はスモークサーモンのサンドイッチが好きよ‼』

「え、ここねがサンドイッチ作ってくれてるの?」

『若菜、今は黙りなさい』

「先輩、言いたいことはそれだけですか? 切っていいですか?」

『どうしてそこまで意地悪なことを言えるのかしら。まあいいわ、私はこの休憩時間が終わればまた勉強なのよ』

「大変ですね、早く勉強に戻ってください」

『涼音、愛してるわよ』

「切っていいですか?」

『本題の涼音あるあるを言ってもいいかしら?』

「切りますね」

『涼音は可愛い‼』


 通話を終了する涼音であった。

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