屋内型複合レジャー施設にて 23

 涼香りょうかはボールを持とうとして、腕に力が入らないことに気づいた。


「……力が入らないわ」


 それもそうだろう。普通に投球するならまだしも、涼香の場合、ボールが飛んでいったり、飛んでいかなかったりで、変に力が加わってしまうのだ。既に腕が筋肉痛になっている。


「大丈夫?」


 なかなかボールを持たない涼香に、若菜わかなが声をかける。


「もう……私はダメみたい……」

「そんな⁉ 諦めないで!」


 沈痛な面持ちで、項垂れて頭を振る涼香に若菜がそれっぽい雰囲気で詰め寄る。


「……そうね、たとえこの腕を犠牲にしてでも、私はやらなければならないわ……‼」

「ごめんなさい……、あなたばかりに無理をさせて」


 こうするしかないのだと、自責の念に駆られながら若菜が拳を握りしめる。


「飽きたわ。――どうしましょう、筋肉痛がすごくてボールを持てないのよ」

「まあ……そうなるよね」


 痛めたならまだしも、筋肉痛はどうしようも無い気がする。


「両手で抱えるしか無いっぽいね」

「あと少しで終わるというのに!」


 どうせなら、最後まで片手で乗り越えたかった。しかしそうは言ってられない。両手でボールを抱えた涼香は、レーンにボールを投げる。


 コロコロ転がったボールは横に逸れ、なんとか端っこのピンを倒すのみ。


 この動きなら、ドジのしようが無い。少し安心した若菜と、ゆずである。

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