屋内型複合レジャー施設にて 番外編

「先輩! メダルゲームやりましょうよ!」


 夏休みのこと。


 あや夏美なつみは、とある屋内型複合レジャー施設へやって来ていた。


「えー、ここのメダル高いじゃん」


 そしてこの施設のゲームセンターにあるメダルゲームは、千円からしか買えない。メダルの数は、千円で百二十枚と、数は多いが値段が高い。


「割り勘にしましょうよー」


 高いのだが、割り勘ならまだ許容範囲か。


「ああもう! 分かったから!」


 くっついてくる夏美を押し返しながら彩は渋々了承する。

 わざわざケチる必要は無いと思うのだが、基本的にメダルは百円から買えるものだと思っているため、手が出しにくいのだ。

 早速メダルを買いに行こうと、メダル両替機にやってくると――。


「私は思うのよ。玉手箱の中には幻覚を見せる危ない煙が入っていたのだと」

「じゃあ浦島太郎は薬物中毒になったってことですか?」


 という、なんか聞いた声が聞こえた。


 確認するまでも無い。彩は速やかに、最小限の動きで、音を立てずに踵を返す。


「えっ、どうし――」


 夏美の口を押さえて速やかに。


 そして視界から、見たことある黒くて長い髪の毛と、茶髪おさげが消えてから、夏美の口を押えたまま囁く。


「面倒なのいたから帰るよ」


 突然の帰る発言に夏美はもがもが言っている。


 さすがになにを言っているのか分からないため、手を離してあげる。


「なんでですか!」

「静かに!」


 ゲームセンターの音量に負けない程々の声を出す夏美。この状況でこの声はまずい。


「声落として‼」

「むぅ……なんでですか」


 二人で声を潜めて話す。


「面倒なのってなんですか?」

水原みずはら

「じゃあ檜山ひやまさんも⁉」

「いるけど、絶対嫌」

「なんでですか、先輩って水原先輩の家に行くぐらい仲がいいんじゃないんですか?」

「あれは違うから! あいつの母親がめちゃくちゃ賢いの!」


 だから仲良くなんて無い。そう言っているのだが、夏美は聞いていない。


「行きましょう!」

「嫌だって言ってんでしょうが‼」

「いいではないの」

「ほら来たあ!」


 薄々予感はしていたが、声を潜めているこの段階で気づかれるとは思っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る