水族館にて 8

 緩やかに下っていく館内の道、中央に『太平洋』の水槽があり、所々に小さな別の水槽がある。


 『特設水槽』とつけられたこの水槽にいたのは――。


「見なさいマンボウよ!」

「おおー」


 泳いでいるのか流されているのか分からないのんびりさで、マンボウが水槽の中を漂っていた。


 普段目にするのは横を向いた状態、しかし角度を変えると、なかなか見られないマンボウの正面顔を観察することができる。


「マンボウって美味しいらしいわよ」

「へえ」


 涼音すずねがこの情報に興味が無いと分かった涼香りょうかは話を変える。


「マンボウって思いのほか平べったいわね」

「投げたら飛びそうですよね」

「えぇ……」

「冗談ですよ。大っきいですね」


 マンボウは思いのほか大きい。涼香が調べたところ、大きくなれば三メートル程になるという。


「そうね、癒されるわ」


 背ビレと尻ビレを動かして、泳ぐというよりかは漂っているマンボウ。


 こう見えてエサを食べる時はそこそこ早く泳げることを二人は知らない。


「正面顔の写真を撮りたいわね」


 そう言って涼香はスマホを構えるが、なかなか正面になってくれない。


 その場でシャッターチャンスを待つ涼香とは違い、涼音は自分からマンボウの正面に回り込む。


 そして正面を向いたマンボウの動画を撮る。


「撮れましたよ」


 涼香にスマホを見せる涼音。


 なんともいえない、緩い動画だった。


 満足そうに頷いた涼香。


「でかしたわ! 次に行きましょう!」


 涼香は涼音の手を取って、次の海へと向かうのだった。

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