水族館にて 4

 次の展示の『パナマ湾』を通り過ぎようとしたところ、思いがけず足を止めてしまった涼香りょうか


 パナマ湾にはアカハナグマがいて、魚はそれほどいないのだが――。


「見なさい、ハリセンボンよ!」

「あ、ほんとだ」


 涼香の見つめる先には、ぴらぴら泳ぐハリセンボンの姿があった。


「次行くわよ!」

「えぇ……」


 止まったかと思えばすぐに進む、手を引かれてるから苦にならないけど。


「次は……あら、ピラルクではないの」


 次の展示は『エクアドル熱帯雨林』だ。


 ピラルクやエンゼルフィッシュ、アロワナにレッドピラニア、グリーンイグアナなどがいる。


 他と比べて魚がメインの展示だった。


「大きいわね、さすがよ」


 目の前を悠然と泳ぐ巨大な魚に、涼香は目を輝かせている。


「ピラニアって他の魚食べないんですかね?」


 その隣で水槽を見ている涼音すずねが、ピラニアから目を離さずに言う。


 肉食で凶暴だというイメージがあるため、他の魚と一緒にだと、全て食べてしまうのではないかと心配してしまう。


「餌をあげているだろうから大丈夫だと思うわよ。それに、ピラニアは臆病な性格らしいわ」

「ほんとですかあ?」


 語尾に「知らないけど」が無いため、自信はあるのだろうが涼香のことだ、信用できない。


 他の人達の邪魔にならないよう端に寄り、涼香は水族館のサイトを開く。


 そこでレッドピラニアの紹介ページを開いて涼音に見せる。


「お姉ちゃんが正しいのよ!」

「お姉ちゃんは正しくないですけど情報は本当ですね」


 涼香の言った通り、ピラニアの性格は臆病らしい。説明には、集団でエサに食いつくから凶暴なイメージがついたとある。


「確かに、正月の福袋争奪戦って怖いですもんね」

「なんのことかしら?」

「独り言です」


 この場所はもういいだろうと、涼音は先をちょいちょいと指差す。


 言いたいことが伝わったのだろう頷いた涼香が先を進もうとして、思い出したかのようにピラルクの写真を撮る。


「行くわよ!」


 今度こそ先へ進む。


 涼音はさり気なく涼香のポシェットの紐を握るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る