駅のホームにて

 ある日の放課後、駅のホームにて。


 他の下校中の生徒に紛れ、涼香りょうかは一人、ホームで電車を待っていた。


 いつもなら涼音すずねと共に帰宅するのだが、今日は涼音に予定があるらしく、なおかつ涼香のクラスの終礼が長引いてしまい、涼香は一人で帰ることになってしまったのだった。


 涼香はスマートフォンで乗換案内のアプリを開く。帰りの電車が何時に到着するのかを調べるのだ。


 あと一分程で電車が到着することになっていた。これは運が良かったと、涼香は僅かに頬を緩める。


 それにしても涼音の予定がなんなのか気になる。背後に電車が到着する気配を感じながら、涼香は思案にふける。


 そんなこんな考えていると、やがて電車がホームに滑り込んできた。


 やけに遅かったな、そう思いながら涼香は、人に紛れて電車に乗り込み、適当に空いている席に腰を下ろす。


「あれ、どうして涼香がいるの?」


 声のした方へ顔を向けるとそこには。


「どうして菜々美ななみがいるのよ」


 現れた友人の姿に涼香は首を捻る。同じく電車通学の菜々美は涼香とは反対方向のはず、そんな菜々美が涼香と同じ電車に乗っているのなら、考えられる理由は絞られる。


「いえ、それはこっちのセリフなんだけど……涼音ちゃんはいないの?」

「今日は予定があるらしいわ」


 怪訝な顔を浮かべていた菜々美は、涼音がいないと聞くや否や、優しい表情を浮かべる。


「ねえ涼香、逆よ」

「え?」

「逆なの、乗る電車が」


 涼香は恐る恐る車内の案内表示に目を向ける。


 逆だった。


「次の駅で降りよっか」

「ええ……」


 妙に生温かい空気がその場に漂うのだった。

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