#60 久我山さんの不意打ち
天文部での天体観測は楽しかったけど、佐倉さんをおんぶして往復したからヘトヘトに疲れてて、いつもの寝る時間より少し早いけど寝ることにした。
久我山さんは爆睡したままで、ミイナ先輩と佐倉さんはもう少し起きてると言うので、二人におやすみの挨拶をして、自宅から持って来てたタオルケットを持って4階に上がって総務委員会室で寝ることにした。
部室棟の3階廊下を消灯して4階に上がり、トイレで用を済ませてから4階廊下も消灯して、スマホの灯りを頼りに委員会室の鍵を開けて入り、電気を点けた。
閉め切ってたせいで室内は夜でも蒸し暑かったので窓を開けて換気をして、床にダンボールを敷いて寝床を作って、スマホのアラームをセットしてから寝転んでタオルケット被った。
一人で寝るには学校の委員会室は寂しいので、電気を点けっぱなしにしていた。
今日は初めての部活合宿と言うことで、朝から色々あって本当に疲れた。
ミイナ先輩と久我山さんが一触即発になったり、プールで久我山さんに抱き着かれて溺れそうになったし、ミイナ先輩と真剣勝負をして、夕飯の買い出しでは久我山さんから深いお話を聞かせて貰い、夜の天体観測では佐倉さんと瀬田さんとも色々と語り合った。
それにしても、久我山さんも佐倉さんも普段からスキンシップが多いけど、今日は水着の時でもそうだったし、プール以外でもベッタリされてしまった。
特に佐倉さんなんておんぶしてる時はずっと胸が当たってるのに、本人は全然気にしてないみたいで、本当に困った。
久我山さんだって佐倉さん以上に豊満な胸だから、抱き着かれたりするとどうしても気になってしまう。
二人とも遠慮なしなんだもんな。明日は二人とももう少し大人しくしてくれると良いんだけど。
そう言えば、4本目に視聴した映画が途中のままだった。
続きが凄く気になるから、明日は朝から見たいな。
今日の出来事を取り留めも無く思い浮かべていると、いつの間にか眠りについていた。
翌朝、人の気配を感じて目を覚ますと、吐息がかかるほどの超至近距離で久我山さんが僕を見つめて微笑んでいた。
「おはよ、アラタくん」うふふ
こういうことは久我山さんのご実家でバイトしてた時の昼休憩に何度もあったので、驚きよりも『あれ?今日ってバイトだっけ?』と勘違いしそうになった。慣れって怖いな。
「おはようございます・・・あれ?」
「どうしたの?」
「ここ、学校ですよね?」
「うん、そうだよ?邦画研究部の合宿中だね」
ようやく状況が飲み込めたけど、久我山さんは肩肘ついて『なにか問題でも?』と言いたげに優しく微笑んでいる。
「どうして久我山さんがここに居るんです?」
「早く起きちゃったから、アラタくんの寝顔を見に来たんだよ?」うふふ
はぁ
なんだか、体から力が抜ける。
壁にかけられた時計を見ると、6時を過ぎたところ。
久我山さんの悪びれない様子に注意するのは諦めて、体を起こそうとするとTシャツを掴まれた。
「今度はどうしたんです?顔、洗いに行きたいんですけど」
「おはようのハグして」
「え?どうして?」
「たまにはアラタくんからもギュッとして欲しいの。私、もう遠慮しないって言ったでしょ?」
う・・・微笑んではいるけど、タレ目を瞬きせずにじっと見つめる眼差しの圧が怖い。
「きょ、今日だけの、特別ですよ?」
「うん♥️」
恐る恐る久我山さんの背中に右手を伸ばして抱き寄せて、耳元で「おはようございます、リョウコちゃん」と囁くと、久我山さんは力一杯抱き締め返してきた。
そして、久我山さんの髪が鼻をくすぐりムズムズして気を取られていたら、「アラタくん、大好き❤️」と言って、頬っぺたに口づけされた。
「ちょっ!ちょっとナニするんですか!?」
驚いて突き飛ばすように離れると、久我山さんは顔を真っ赤にさせて「初めてのキスしちゃった・・・」と独り言の様に呟いていた。
いくら告白してくれたとは言え同意無しにキスするのは反則だと抗議したかったけど、久我山さんの表情を見たら何も言えなくなった。
久我山さんからの告白に自分の都合で答えを保留にして貰ってる状況で、度々僕への好意も示してくれてるのに僕は態度を曖昧にしたままで、久我山さんにしてみれば先の見えない不安な心境だろう。
だから、そんな状況が続いて
でも、だからと言って、またキスされるのは困るので、それだけは止めて欲しいことを伝えることにした。
「久我山さん、恋人でもない女性との不純異性行為は、僕の信義に反するものです。同意が無くてもしてしまう気持ちは理解出来ますが、こういうのはもう止めて下さい」
僕の心情を理解して貰う為に、敢えて『リョウコちゃん』とは呼ばずに『久我山さん』と呼んだのだけど、僕が正座して真っすぐに見つめて言い聞かせる様に話すと、久我山さんは「うん、もう同意無しにはしないよ。ごめんなさい」と素直に聞き入れてくれた。
けど、その後は気不味い空気になってしまった。
久我山さんは委員長の自分の席に座り机に突っ伏すと黙ってしまい、僕も逃げ出す様にトイレに行って顔を洗って用を済ませたりしていた。
それでもスマホから7時にセットしていたアラームが鳴ると、気を取り直して委員会室に戻り、落ち込んだままの久我山さんに声を掛けて部室に戻った。
ミイナ先輩も佐倉さんも起きてたので、「おはようございます」と挨拶すると、二人とも眠たいのか元気が無くて、特に佐倉さんは珍しく静かだった。
部室で4人揃ってもなんだか重い空気のままだったけど、朝食を済ませることにした。
でも、昨日コンビニで買ってきた朝食のおにぎりやサンドウィッチと麦茶を配って食事を始めてもほとんど会話が無いままで、その空気に耐えられずに映画を上映して場を持たせることにした。
まずは昨日途中で中断してたB級サスペンス映画の続きを再生した。
けど、黙って静かに映画を観ていると久我山さんにキスされた時のことを思い出してしまい、昨日はあんなに引き込まれて続きが気になってた映画に全く集中出来ず、僕以外の3人も僕と同じように上の空の様だった。
因みに映画の続きの内容は、カフェを開店した夫婦が街にやってくる前、そこは潰れた中華料理店の空き店舗で、3年前に地元のヤクザと中華系マフィアの抗争で激しい銃撃戦の現場となった為に潰れた超訳アリ物件で、夫婦は多少の訳アリ程度しか知らずにそこでカフェを始めたが、商店街の住人や警官は同情と憐れみの目で見てたり、その事件で息子が犠牲になった老婆が花を供えに来てたというのが真相で、結局商売が立ち行かなくて借金が嵩み、奥さんがノイローゼになってたこともあり、夜逃げするという結末で、映画が終わった後にミイナ先輩が「なんか微妙だったね」と一言感想を言っただけで、他には誰も感想が出てこなかった。
昨日は久我山さんも佐倉さんも過剰なくらいに僕にスキンシップが激しかったのに、今日はまるで別人の様に大人しくて、ミイナ先輩もなんだか元気が無かった。
久我山さんが元気が無いのはキスしてしまったことを僕に咎められたのが原因だと解かってはいたけど、佐倉さんとミイナ先輩が元気が無い理由は分らず、でも二人にそのことを聞ける空気じゃなかった。
それでもその後も予定してた映画の上映を続けることにした。
僕がチョイスしてたのは、東北の農村を舞台にしたグランドホテル形式のサスペンス映画で、佐倉さんがチョイスしてたのは、人気漫画を原作にした劇場版アニメだったのだけど、やっぱりみんなのテンションが戻ることは無かった。
結局予定通りにお昼には邦画研究部の夏合宿は終了して、廊下に干してた水着などの片付けを済ませたあと部室の施錠をして、学校を出てファミレスへ移動して昼食を食べることにしたのだけど、久我山さんは校門で「私は帰るわね。参加させてくれてありがとうね」と一人だけ先に帰って行った。
ミイナ先輩と佐倉さんと3人でファミレスへ行くと、二人は多少はお喋りしてくれるようになったけど、僕の方は久我山さんのことでずっと頭の中がモヤモヤしてて、話しかけられても相槌打つくらいしか出来なかった。
結局、お喋りもそこそこに食事が終わるとそのまま解散することになったのだけど、何となく一人になりたくなくて、佐倉さんに「今からウチで素材動画のチェックの続きするつもりなんだけど、佐倉さんも手伝ってくれる?」とお願いすると、少しだけ嬉しそうに微笑んで「うん、私もお手伝いします」と言ってくれた。
ミイナ先輩とはファミレスで別れて佐倉さんと二人で僕のマンションへ帰り、母さんに邦画研究部の合宿の報告をしてから二人でパソコンに向かって、残りの動画のチェックと編集の為の構成プランの作成作業に取り掛かった。
佐倉さんとの二人での作業は、気が紛れて助かった。
________
第6章、お終い。
次回の幕間は、初めての佐倉さん視点のエピソードになります。
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