#28 夏休みに向けてミーティング




 6月が終わり梅雨も明けて7月に入ると期末テストが行われ、それも終わると学校内の雰囲気が夏休みに向けて一気に浮かれ始めた。


 教室や廊下では、「夏休みにドコドコへ行く」とか「家族旅行で海外のドコドコへ行く」とか「ドコドコの野外フェスに泊まりで行く」とか、そんな会話を良く耳にした。 特に1年生は、昨年の夏は受験勉強で大変だった分、今年の夏は思いっきり遊びたいと思っている子は多いと思う。


 まぁ邦画研究部の場合は、新しく追加された『部室内での水着可』の部内規則のせいで夏休みとか関係なく、期末テスト前から浮かれた雰囲気だったけど。


 しかし人間とは、どんな環境でも時間が経てば慣れてしまう生き物の様で、最初は目のやり場に困ったミイナ先輩と佐倉さんのスクール水着姿だったけど、それが毎日続くと慣れてしまった。

 因みに僕も二人からは水着になる様に要求されたけど、それは頑なに拒否した。



 そんな邦画研究部では夏休みを前にして、新たな課題が持ち上がった。



「えーっとぉ、今日は映画見ないでミーティングの時間にします!」


 スクール水着姿のミイナ先輩がいつも座ってる定位置のソファーに胡坐で座り、改まった感じでそう言うので、僕と佐倉さんはミイナ先輩と向き合う様に畳に腰を下ろした。


「それで、何を話し合いたいんですか?」


「1つ目の議題は~、2学期にある文化祭について!」


「ほう」

「うんうん!」


「2つ目の議題は~、夏休み中の部活動について!」


「ふむふむ」

「うんうん!」


「3つ目の議題は~、夏合宿について!」


「ほうほう」

「うんうん!」



 文化祭や夏合宿と聞くとテンションが上がるのは僕だけでは無い様で、佐倉さんも目をキラキラとさせて前のめり気味に興奮している様子だ。

 正に『高校生の青春イベント』って感じがするからね、仕方ないよね。




「じゃあ、まずは文化祭の話からいこーか」


「ウチの部って、クリエイティブな活動じゃないから、何かを発表したり販売したりっていうのは向いて無いんですよね」


「一応、いくつか案は考えたんだけどぉ。 オススメ映画の上映会とかして、ただ上映するんじゃなくて上映中の映画の実況流したりして」


「YouTubeとかニコニコ動画みたいなのですか?」


「そうそう!チャットみたいな文字でも良いし、実際にマイクで喋るでも良いし」


「スポーツ実況の解説みたいなのが近いイメージですかね」


「アニメのBDの特典とかでも出演してる声優さん達が副音声で解説とか雑談してるのありますよ!結構面白いです!」


「でも僕たち、普段の部活で映画見る時って三人ともずっと黙ってるじゃないですか。むしろ見ながら喋るの否定派じゃないですか。それなのに実況解説とか出来るんですかね?」


「そこはまぁ、これから練習とかすればいーんじゃない?」


「まぁそうなりますよね」


「あとは短編映画の自主製作とか。部活申請の時に書いてたでしょ?アレやってみるっていうのも良いかもって思って」


「なるほど。だけどそれなりの尺ある物作らないと、上映会してもすぐ終わっちゃいますよ? それとも、短くてもいいから何本も作って、オムニバス的な上映会にしますか」


「3人でそれぞれ1本作って、3本上映するってゆーのでもいいね」


「でも、素人の僕たちが一人で映画作っても、クオリティー低くすぎて文化祭での上映会とか凄く寒くなりそうじゃないですか? なんて言うか、身内で楽しんでるノリを他人が見ても全然面白く無い感じの」


「それは言えてるねぇ・・・とりあえず、佐倉ちゃん主演の映画でも作れば、内容がしょぼくても見栄えは良くなるかな? それなら佐倉ちゃんファンは大勢見に来るだろうし」


「そんなの無理ですよ!私、カメラの前で演技するとか無理です!恥ずかしくて絶対に無理ですから!」


 今や定着したスクール水着姿で「恥ずかしい」と言われても、いまいち説得力が無いんですけど。


「まぁ、佐倉さんは拘りが強い性格だと思うので、役者よりは演出とか監督のが向いてそうですね」


「やっぱり主演はアラタくんですよ!アラタくん主演なら、脚本も演出もカメラも編集も衣装も全部私やります!それで私好みのPV作って円盤も作って握手会開いて全部私が買い占めて…推しに貢ぐのが信者の喜び…、うふ、うふふふ」


 佐倉さんの密着動画作って、スイッチ入ってる佐倉さんの本性をその佐倉ちゃんファンとやらに見せてみて、どんな反応するか見てみたいな。






 結局この日は文化祭の件はこの場で決定するのは難しいだろうということで、今週一杯各自で考えて、再度アイデアを持ち寄って相談することになった。


 現時点では、僕自身は自主製作映画などの作品を作ると言うのに興味がある。 機材とか何も無いけど、最悪スマホで挑戦してみても良いと思ってる。

 ただし、僕も佐倉さんと同じく出演はキツイので、製作側で取り組みたい。





 話合いは続き、次の議題だった夏休み中の部活動に関しては、基本的には自由参加となった。


 どうやらミイナ先輩は、平日の5日間は毎日登校して部室に入り浸るつもりらしい。

 クーラー無いのに、どうするつもりなんだろう?と思ったら、新しくもう1台扇風機を買ってくるらしい。

 本当は、窓に設置タイプのエアコンを買いたかったらしいけど、自腹になるので予算的に厳しかったそうだ。


 それを聞いて、「じゃあ、僕もなるべく登校するようにしますね」と言うと、佐倉さんも「私も毎日来ます!」と前のめりに表明していた。


 どうせ夏休み中は部活と委員会以外は勉強くらいしかすること無かったし、その勉強だって部室でも出来るので、家でゴロゴロしてるよりは、学校で二人とお喋りやら勉強してる方のが、よっぽど有意義な過ごし方だしね。


 因みに、ウチの高校では2学期に文化祭があり多くの文化部が参加する為、夏休み中でも文化祭の準備などの活動が盛んな文化部が多いらしく、総務委員会も当番制で登校することになるらしい。





 そして、最後の議題である夏合宿に関しては、色々な意見が出た。


・山でキャンプ

・海で海水浴

・近所でバーベキュー

・温泉旅行

・誰かの家でお泊り会


 これらの意見はミイナ先輩と佐倉さんの二人からだ。

 完全に、遊びでしかない。


 なので僕からは少しは部活動らしくと

・学校に泊まり込んで映画を10本くらいぶっ通しで見る

・同じく学校に泊まり込んで文化祭の準備

 の2つを提案しておいた。

 因みに、学校でのお泊りにしたのは、お金が掛からないからだ。


 結局、夏合宿に関しても結論が出ないので、持ち帰って後日また相談することになった。





 この日の帰り道。

 いつもの様に佐倉さんと二人でのんびりペダルを漕ぎながらお喋りしていると、赤信号で止まったタイミングで佐倉さんが急に改まって「あ、あの!夏休みに入ったら一緒に映画見に行きませんか!」と言い出した。


「部室でDVDじゃなくて、映画館の?」


「はい!伏見アニメーションの『バイオレンス・エヴァーガーデン』っていう作品なんですけど、劇場版が今週から公開されるんです!」


「あ、この間佐倉さんが持ってきてテレビ版見せてくれたヤツね。あれ凄く泣けたよね。 劇場版やるなら僕も見たいな」


「ホントですか!?ぜ、ぜぜ、是非行きましょう!」


「うん。 でも夏休みは部活とかあるから、落ち着いたら日程調整しようか」


「はい! でも良かったです。もし断られたら別の涙流しながら一人で見るところでした」


「そんな大袈裟な。 あ、ミイナ先輩も誘おうか?」


「み、ミイナ先輩はお留守番で・・・」


「そうなの?じゃあ二人で行こうか」


「はい!」



 スクール水着効果なのか、佐倉さんとは二人で映画を見に行ける程度には、仲良しになれているということだろう。




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