#07 やっぱり嫌われている?




 何をモメているのか気にはなったけど、先ほどまで映画研究部のトラブルに首を突っ込んだり、ミイナ先輩の相手をしてたせいで疲れていた僕は、ココは関わらない方が得策だと判断して、気配を消す様にコソコソと静かに自分の自転車まで行き、音が出ないようにようにそっと自転車のスタンドを上げてその場を離れようとした。



 すると、「止めて下さい。何度もお断りしてるじゃないですか・・・」と、佐倉さんが怯えるような声で拒絶する言葉が聞こえた。


 思わず足を止めてしまい、二人の方を見てしまった。


 僕の位置からは佐倉さんは背を向けてて表情は見えなかったけど、相手の男子の顔が見えた。

 その男子は、顔を真っ赤にさせて怒っている様子で、佐倉さんの腕を掴もうとしていた。


 また、このパターン・・・

 さっきのミイナ先輩の時と同じじゃないか。

 なら、僕が出来る事は1つ。


 自転車のスタンドを下げてその場に駐輪すると、スタスタと二人に向かって歩き、先ほどと同じように男子の腕を捻る様に掴んで、二人の間に体を割り込ませた。



「女性に乱暴するのは止めて下さい!イヤがってるじゃないですか! 女性は腕を掴まれるだけでも怖い思いをするんですよ!」


 僕が強めに注意すると、その男子はビックリした表情になり「いや、あの、ちがう・・・」と動揺した様子を見せた。


「何も違わないですよ! 事情は知りませんが、彼女は先ほどからイヤがってたじゃないですか!イヤがる女性に乱暴しようだなんて、男として最低ですよ!」


 更に強い口調で注意を続けると、その男子は泣きそうな表情を浮かべ、僕が掴む腕を振り払い、走って逃げていった。



 ふぅ

 取り合えず、今回も無事に解決したようだ。

 けど、疲れた・・・



 って、そうだ。

 僕は佐倉さんには嫌われているのだから、あまり関わらないようにするべきだった。 この場は速やかに立ち去ったほうが良いだろう。


 背後に居る佐倉さんには顔を向けずに、「もう大丈夫そうなので、僕は帰ります」と一言残して足早に自転車まで戻り、さっさとその場を離れた。


 佐倉さんから何かしらお礼を言われても、「大したことは何もしてません」と言い通して逃げるつもりだったけど、僕がその場を去るまで、佐倉さんからは一言も話しかけられなかった。


 『余計なことをしやがって!』とでも思われてるのだろうか。

 それとも、また泣いているのだろうか。


 いずれにしろ、やっぱり僕は嫌われている様だ。




 ◇




 自宅に帰宅すると、母さんと自分の二人分の夕食を作り、母さんが仕事から帰宅するのを待ちながら食卓で明日の授業の予習をしていると、今日スマホに連絡先を登録したばかりのミイナ先輩からメッセージが届いた。



『アラタは文化部に入る予定なんだよね?』


『ええ、そのつもりです』


『おっけー! 明日大事な話あるから、1年の教室まで行くね!』


『教室に来るって、何時にですか? 僕は休憩時間は授業内容のことで先生に質問する貴重な時間ですので、休憩時間は止めて欲しいのですが』


『朝行くよ!何時には教室に居るの?』


『7時45分頃には居ると思いますけど』


『おっけー!じゃあ、その時間に行くね!』




 翌朝、ミイナ先輩との約束の時間に間に合う様に登校すると、1年3組の教室には既にミイナ先輩が来てて、何故か僕の席に座っていた。



「アラタおはよ!待ってたよ!」


「ええ!?なんで僕の席に!?どうやってココが僕の席だって分かったんです???」


「その辺の子に『進藤アラタの席ってどこ?』って聞いたら教えてくれたよ?」


「そ、そうですか。ミイナ先輩は相変わらずグイグイとアクティブなんですね」


「いーじゃん別に。 そんなことよりもさ、大事な話があるの!」



 ミイナ先輩は僕のイスに座ったままどいてくれそうに無かったので、通学用のバッグだけ机の横に掛けて、立ったままミイナ先輩の話を聞くことにした。


 チラリと横を見ると、隣の席の瀬田さんが困った様な複雑な表情をしていた。


 そりゃそうだよね。

 いきなり朝から2年の先輩が押しかけてきて、1年の教室で我が物顔で振舞ってれば誰だってどう対応して良いのか困るよね。



「アラタ!新しく部活を立ち上げるよ! 私とアラタの二人で部活を作ろう!」


「え?そんなこと出来るんですか?」


「うん!ちゃんと手続き踏んで申請して、総務委員会から認可降りれば正式な部活として登録出来るよ。 そうなれば部費も出るし、部室も使うこと出来るの!」


「なるほど。 結構簡単なんですね。それで我が校では文化部が乱立してるんですか」


「たぶんそうだね。過去の先輩たちもこうやって部活を立ち上げて来たんだろうね」


「それで、どんな部活を?」


「ふっふっふっ、『邦画研究部』よ! クソ映研なんかと違ってちゃんと映画を見て楽しむのが目的だからね!」


 ミイナ先輩はイスに座ったまま両手を腰に当てて胸を張り、「ふふふん♪」と得意げな表情をしていた。

 

「ほうほうほう」



 ミイナ先輩の部活設立の話には驚かされたが、とても興味を惹かれた。

 それに僕自身、読書と映画鑑賞が趣味だと思ってるので、丁度良いだろう。

 問題は、ミイナ先輩と二人での部活という点だけど、昨日お喋りした感じだと、距離感は可笑しいけど悪い人では無いと思えた。

 確かに口はたまに悪くなって悪態が止まらない時があったけど、その程度で腹を立てる程、僕は狭量きょうりょうでは無いと思うし、これもミイナ先輩のキャラだと思えば、問題無く許容出来ると思えた。


「どう?ゆっくりで良いから考えてみてよ」


「良いですよ。その話に乗らせて下さい。僕も邦画研究部に入ります」


「ホント!?マジで!? そんなに早く結論出して後で後悔しても私責任取らないよ???」


 自分から誘っておいて、僕がすんなり同意したことがよっぽど意外だったらしく、ミイナ先輩はバン!と立ち上がって興奮気味に僕に確認して来た。


「ええ、責任取って貰おうだなんて思ってませんよ。 とりあえず、僕にも役目をくれれば対応しますので、その時は声を掛けて下さい」


「うん!わかった! じゃあこれからよろしくね!」


 ミイナ先輩は僕の肩をポンポン叩いてそう言い残すと、教室から出て行った。



 漸く空いた自分のイスに座ると、教室内のクラスメイトたちの多くが、僕の方を見ていた。


 隣の席の瀬田さんや、いつの間にか登校していた斜め前の席の佐倉さんは、驚いた表情を僕に向けていた。

 古賀くんは、まだ来ていなかった。



 ミイナ先輩が興奮して大きな声を出して騒いでいたから、朝から他のクラスメイトたちに迷惑をかけてしまった様だ。


 僕は立ち上がると、「朝からお騒がせして、すみません」と教室のみんなに頭を下げた。


 僕の謝罪に対して隣の席の瀬田さんが、「いやいやいや!お騒がせしてすみませんじゃなくて!今の人なんだったの!? 先輩だよね?すっごい仲良さそうに見えたけど、進藤くんってこの高校に同じ中学の友達居ないって言ってたし、もしかして今の人、進藤くんの彼女なの???」と興奮気味に質問を被せてきた。


 やっぱり高校生ともなると、女子は恋愛に興味があるのだろう。

 何かあれば直ぐに「彼女いるの?」だの、「今の人、彼女なの?」と聞いてくる。



 質問してきた瀬田さんには、懇切丁寧に僕がモテないことを説明して、ミイナ先輩が彼女では無いことを判らせることにした。

 僕が瀬田さんに向かってクドクドと言い聞かせてる間、瀬田さんの前の席の佐倉さんが、チラチラとコチラの様子を気にしている様だったけど、僕は彼女から嫌われている自覚があるので、気付かないフリをして瀬田さんに向かって話し続けた。


 瀬田さんは、「進藤くん、卑屈になりすぎだよ。 そんなこと絶対にないからね?」と僕がモテないことに最後まで納得してくれなかった。






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