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第27話

 あれから頻繁に会うようになった。僕は菜々子さんへの気持ちに気づいたけど、僕達の関係にはそれほど変化がなかった。

 だって、どうすればいいのか分からない……


 菜々子さんの部屋に頻繁に行くようになって色々と気づいたことがある。

 まず、菜々子さんは料理が苦手だ。アニメに出てきた料理を再現するんだと言って、部屋に呼んでもらったことがあった。行ってみると悲しそうな顔をした菜々子さんが出てきて、ベイクドチーズケーキになるはずだったフワフワの物体を見せた。話を聞くと、手間を省くためにアレンジを重ねた結果、こうなったらしい。その後、材料を買い直してレシピ通りに2人で作ったら、レシピに載った写真通りのベイクドチーズケーキが出来た。菜々子さんは就職で一人暮らしを始めたから、あんまり料理はしたことなかったみたい。でも、作ったケーキを食べ比べてみたら失敗した方のケーキが美味しくて、だから料理が苦手っていうよりはちょっとズボラなのかもしれない。


 あと、菜々子さんの部屋にはらむねちゃん関連のグッズがちりばめられている。最初の頃は気にしてなかったけど、よく見ると出してくれるお茶のコップだったり、スリッパだったりにらむねちゃんのイラストやマークが描かれている。僕にも分かりやすいキーホルダーやフィギュアなんかも飾ってあるけど、クローゼットにはその何倍ものグッズが閉まってあるらしい。グッズの値段がどれくらいか分からないけど、一体いくら使っているんだろう…


 それに、隙をみて僕にらむねちゃんの恰好をさせようとしてくる。やってって言われても僕が『しない』って言うと『そっか、残念』ってすぐにひっこめるから、どのくらい本気かは分からないけど。あ、でも一度『小鳥遊らむね コスプレ衣装 flower front』って書かれた段ボールが届いていたから、やっぱり本気なのかも…

 『してほしいって言うなら、また着てもいい』って言ったのは僕だし、絶対にいやってわけじゃないけど、ちょっと複雑な気持ちだ。あの時は菜々子さんとの関係を終わりにしたくなくて思わず言ったけど、僕はらむねちゃんの代わりとしてしか意味がないんじゃないかって不安になる。でも、僕の顔がらむねちゃんに似ていたおかげで菜々子さんと仲良くなれたんだから、仕方ないって思う自分もいる。


 それと、もう一つ。

「あれ。菜々子さん、最近ちょっと疲れてますか?」

「ああ、そうかも。何で分かったの? 私そんなに疲れた顔してる!?」

 そう言って菜々子さんは顔を押さえた。

「そんなことないですよ。何となくです」

 実は嘘をついた。菜々子ちゃんの調子はリビングの目立つ位置に飾ってあるらむねちゃんグッズの配置で分かる。笑顔だったり、可愛い感じのらむねちゃんが前に置いてあるときは元気な時。舌を出していたり、ダークな感じのらむねちゃんが前に置いてあるときは疲れてる時。今日は悪魔の恰好をしたらむねちゃんがセンターに置いてあった。

「何となくかぁ……もうすぐね、初めてのプレゼンがあるの。その準備が大詰めだから、ちょっとね」

「そうだったんですね……」

 そう言えば前に言ってたなぁ。

「斗真君がらむねちゃんのコスプレしてくれたら元気出るんだけどなぁ……?」

 そう言って菜々子さんが僕を横目で見る。

「し、しません……」

「そっか、残念。まあ、本番まであと少しだから頑張るよ」 

 ほら、やっぱりすぐひっこめる。なんか断ってばっかりで悪い気がしてくるな……

 代わりになるか分からないけど、

「じゃあ、無事にプレゼンが終わったらお祝いしますか?」

「いいの!? すっごく元気出た! 斗真君、ありがとう!」

 菜々子さんは僕に満面の笑顔を見せた。

 僕の言葉でそんな風に喜んでくれるの?

 そのことが嬉しくて、体が熱くなった。

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