第50話 春休み

 3月に入り、真っ先に詩穂が高校を卒業。


 長い春休みには卒業旅行なんてのも計画されているが、それ以外は神川ゴルフ練習場で、帳簿関連のお勉強だ。

 言ってしまえば、商業簿記。

 大学に入ってから学ぶことを、今のうちに実戦で勉強できるのである。


 学生の身でありながら母親の実家の仕事を引き継ぐわけだから、中々に厳しい選択。

 それでも、やり甲斐を感じているらしく、一生懸命に仕事を教わっていた。


 というのも……。


「ふふふ、これで卒業旅行の予算は余裕ね」


 そんな下心もあって、頑張って仕事を覚える詩穂であるが、忘れてはいないだろうか。

 給与の支払いとは、大概は25日。

 そして、計画されている卒業旅行の日程は3月20日~3月22日の三日間。

 目的地は大分県の別府温泉である。

 新幹線代やその後の電車代などを含め、交通費だけで5万円以上。

 それに宿泊費なども合わせれば、軽く10万は飛ぶ。


 もちろん、それなりには計算してるのだろうが、ちょっと無理しすぎである。


 そして当然のことながら詩穂は、「お母さん、お給料を先にもらえないかな?」と、泣きつくのであった。



 ☆ ☆ ☆


 3月も半ばを過ぎて、ついに陸斗と瑠利も卒業を迎える。


 その後は短い春休みを挟んで、陸斗は中学、瑠利は高校へと進学するのだ。


 新生活への思いを馳せ、迎えた卒業式。


 それが終わると、今度は別れを惜しむ同級生たちのすすり泣きも聞こえてくる。


 小学生の陸斗にとってはただ地元の中学に上るだけでも、これから高校へ進学する瑠利たちの同級生は、多くがバラバラ。

 幸い親友である九条朱里と和久瀬優衣の二人は、一緒の高校へ入れたようだが、瑠利は別。


「今度、二人で遊びに行くから」


「うん、待ってる」


 そうして別れを済ませれば、あとは女子寮への移動だ。

 これからは仮の住まいではなく、自宅となる。


 出発するのは明日。


 それまでに荷造りをし、高校の入学案内をもう一度確認。

 困ったことがあれば向こうで美里に聞けばいいが、出来る限りは自分でやるべきことだ。


「いよいよね」


 そう高まる思いを胸に、瑠利の高校生活が始まる。




 ☆ ☆ ☆


 小学校を卒業し、学生服に身を包んだ陸斗。

 サイズはこれから身長が伸びると見て、ブカブカ。

 そのため、なかなかアンバランスな状態だ。


「これだと手が出ないよ」


「う~ん、でもすぐに身長が伸びるだろうからね」


「そうね、でも流石にこれはちょっと厳しいかな。私の友達に裁縫が得意な子がいるから、少し詰めてもらいましょうか?」


「そうだな……、仕方ない。そうしよう。動きにくくて転んだりしたら大変だからね。リクト、それでいいか?」


「うん」


「じゃあ、行きましょう」


 小学生から中学に上るこの時期の学生服は、悩ましいもの。

 たった三年で身長が大きく伸びる子もいれば、あまり変わらない子もいる。


 陸斗の場合、父の佳斗の身長が178センチ。そして亡くなった母親の杏沙は162センチと、それなりであった。

 となれば、まだ140センチしかない陸斗の身長も、これから伸びるはず。

 中学三年生男子の平均身長が169センチと考えれば、あと30センチは伸びるのだ。父親に追いつけば更にである。


 美里に連れられて出ていく可愛い息子を見守りながら、佳斗は……。


「はぁ……、これはもう一着買わないとダメかな」


 そうため息を吐くのであった。

 






―――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


実質、ここまでで一区切りですね。


次回からは中学に上った陸斗を中心とした、お話に進んで行きます。 

瑠利は部活動が中心ですね。

新キャラも登場して、増々騒がしくなりますので、ご期待ください。

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