第8話 瑠利の帰宅
練習後、軽くシャワーを浴びた瑠利が練習場へ戻ると、そこには両親の姿があった。
「ああ、ルリちゃん。丁度よかった。御両親が迎えに来ているよ」
「あ、はい……」
ちょっと、驚いた。そんな感じで両親の姿を見た後、瑠利は少し離れたところで寂しそうにしている陸斗に気づく。
「リクトくん……」
「ルリ姉ちゃん、帰っちゃうの?」
今にも泣き出しそうな顔で、そう尋ねる陸斗。
ここまでの時間がとても楽しかったので、別れがつらくなってしまったのだ。
ただ、それは瑠利も同じ気持ち。
もっと時間はあると思っていたが、想像よりも両親の到着は早かった。
「うん、そうみたいね。もうお迎えが来ちゃったから。でも、また来週くるから、元気で待ってて」
「うん、わかった」
陸斗は男の子らしく、涙をぬぐい顔を上げる。
そして瑠利も、目に薄っすらと涙を浮かべながらも「またね」と一言。
「絶対だよ」
「うん、約束ね」
「じゃあ、待ってる」
そうして、二人はお別れを済ませるのだった。
一方、そんな二人の会話を眺める琢磨(瑠利の父)は、娘の成長を微笑ましく思う。
「たった一日で、すっかり仲良くなれたみたいですね」
「ええ、子供同士ですから、打ち解けるのも早いのでしょう。私も妻に先立たれて、息子には寂しい思いをさせてきましたから、ルリちゃんには感謝していますよ」
互いに我が子を眺めながら、そう感慨深げに話す二人。
一人っ子の瑠利は、ここでの様子とは違い、我儘に育ってきた。
それなのに、立派なお姉ちゃんとして振舞っているのだから、その気持ちもわかるというもの。
「そうですか。迷惑を掛けていなければと心配していましたが、杞憂でしたかね」
「ええ、子供はいつの間にか成長しているものですからね。親離れを期待するよりも、まずは私たちが子離れをするべきかもしれませんよ」
「ははは、そうかもしれませんね。子育てとは、難しいものです」
そう、琢磨と佳斗は語り合う。
とかく、娘を持つ父親は心配しすぎるきらいがあるものの、それは琢磨とて同じこと。
「娘の見る目は、正しかった……か」
「え、何か言いました?」
「いえ、こちらの事です……」
その彼の小さな呟きが佳斗に届くことはなかったが、この日を境に彼らの関係性も大きく変わる。
もう一つ乗り気でなかった琢磨の態度も、今後は積極的に関わってくることになるのだ。
そして、その様子を見ていた遥(瑠利の母)と美里もクスリと笑い、
「やっと、その気になったみたいね」
「ええ、もうこの流れは変えられませんもの」
「うふふ、神川先生には期待しているわ」
「はい、兄にはしっかりと伝えておきますね」
と、頼りない男性陣とは違い、話は纏まっているようであった。
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