出せなかった手紙 《重信より》

◇メールの下書きに保存されたままのデータ◇



今は2月のバレンタインを過ぎたところです。

豆腐チョコチップクッキーと豆腐チョコケーキを作った後です。正確にはケーキを作った日かな。いま日付越えたけど。気温が上がったり下がったり忙しなく、今はいきなり下がったところ。

今、手紙を読んでいる時はどんな感じかな。


一つ遅くはなったけど、まず言いたい。

貴方は今、一人ですか?

それとも、まだ私は居ますか?

もしかするとそもそも宛名の相手は亡くなっているかもしれませんね。

とりあえずは前向きにいきましょう。

亡くなっているなら捨ててと言いたいところですがね。


一通目、トップバッターは発案者の重信です。

今、私がいるなら聞きたいことが幾つかあります。まず、話せてますか?

声が出しにくいとか、何と言えばいいかわからないとか、ありませんか?

話し方が違うから。もしものことがあると不安だから。理由は幾らでもありますが、強迫観念のように今の私は話しません。

まるでそれが正しいように話したくない、話しにくい。

こんな状態ですか?

まだ洗濯に遣り甲斐と楽しさを抱けてますか?

イライラするようなことも多いですが、達成感を感じています。まだ感じられていますか?


ここからは私限定ではない質問です。

文通はまだしていますか?

憧れとちょっとした不安からリハビリもかねて私が初めた事ですが、とても不思議で楽しいです。

相手がどんな人で何を考えているのか正直分かりませんし、返事もこれで失礼じゃないかと不安ですが、手探りなのはきっと相手も同じです。全く同じ土俵の上とは言いませんが、状況は違えど目隠ししているのと同じでしょう。

人間と言うものはよく似た姿をしていても全く同じではないですし、同じ世界で生きて、同じ世界を見ているとは言い切れません。なので、別に相手や自分が宇宙人だとか変だとか、そう言う認識はそう言うもののままで良いのではないでしょうか。

何も文通に限ったことは言っていません。

今、私が普通だと思っている私という重信がいる状態は正常じゃなく、異常であるそうですが。異常だという他人は私にはそう告げる生き方をする生物に見えます。

考え方の違いは生態の違いとあまり変わらないでしょう。違いすぎれば相容れませんがそう言うものです。貴方は決して生物を御せるだとか格下であるなど見誤ってはいないと思っています。

複雑だと思うほど物事は複雑に見えるものです。そう思い込んで、泥沼に嵌まるのでしょう、私はこれを書いている最中に貴方に伝えようとした言葉でその事に気づきました。

今の私自信が複雑に物事を見ていたのです。

割と大きく割りきってしまえば世界は単純で簡単なんだと思います。

人間は自分が複雑で大層なものであると思いたいがために、事実そうであっても、必要のない部分までそう思い込んでいるようです。


あまり思い詰めないようにしてください。長々と失礼しました。


若年者が高説を垂れましたが、見当違いなら黒歴史の若気のいたりと頑張って嘲笑ってください。


次は二ヶ月後、今年一年間に二ヶ月づつ過去の私たちから手紙が届きます。

忘れているなら、次は誰かとどんな内容かと胸踊らせて。

覚えているなら、恥ずかしさに頭を抱えて嫌な緊張を抱きながら。

待っていてください。


きっと一人になっていても、なっていなくとも聞きたいと思うでしょうから伝えておきます。

私は生まれて幸せでした。

私は異常と言われる存在であることは知っていますしわかっています。ですが、それは私にとって、白人は肌が白い。というような当たり前の認識なのです。それを厭う理由は私にはありません。

消えるのか、一つになるのか、それとも若気のいたりのひどい演技の記憶になるのか、はたまた未だにそこに存在し揉まれて考え方などが変わるのかは知りませんが、今の私にはそれに対する恐怖や不安などありませんし、当然の事として考えています。

この過去の重信に対しての不安は全て杞憂であると断言します。

ですから、安心して貴方は今の、私にとって未来の貴方らしく自由に生きてください。


気晴らしにちょっと衝動で日帰り一人旅もいいと思いますよ。

貴方によき未来が訪れますように!

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