私、お料理得意だよ!
『ここは私の部屋なの!』
「俺が借りた部屋だ」
『認めない! ここは、だって私と先輩のっ!』
「アンタが変態とかどうでもいい」
『あらぬ誤解っ?!』
●
話が平行線のまま、かれこれ30分。
「…………ふう」
『ぜえ、ぜえぜえ』
この女、全く譲ろうとしない。俺の幻覚ならとっとと消えてほしいし妖怪の
……とはいえ、気になる事が出てきた。
「なあ」
『ぜえぜえ……何よ』
「アンタ、ここを出たらまさか行く所がないのか?」
『……幽霊になってからここを出た事なんてないもん。それに外に出れたってもう私に行く所なんて……』
「そうか、玄関はあっちだ」
『ねえ、何で質問したの? ねえ、ねえねえねえ私の話聞いてた? 聞いてくれてました?』
動きがカクカクしてきた。こうしてみると確かにホラー映画に出てくるゴーストに見えなくもない。
「…………と、言いたいところだが」
『言う前に止めなさいよ!』
「少し休戦といかないか?」
『……え?』
「出て行ってほしいのはやまやまだが、アンタがここを出て路頭に迷うんなら寝覚めが悪い。それにここまで来たらアンタが納得するまで話を続けてもいい。だが、時間は有限だ」
『うん』
お、話が通じたか。
助かる。
「今日もバイト、講義に引っ越しと盛りだくさんで疲れてんだ。そして明日は更に忙しい予定だ、もう今日は飯を食って風呂に入って寝たい」
『……面倒くさいとか、その場しのぎじゃなくて?』
「いや、約束する」
『本当に?』
「嘘だ」
『即答?!』
「冗談だ」
『どっちが?!』
ま、妖怪だろうがイマジナリーだろうが、悲しそうな顔をされたら放って置けねえよ。うちの家訓だしな。
●
「飯を食うから好きにしててくれ」
『あ、うん』
何かやたらと大人しくなったな。さて、晩飯は簡単にインスタントラーメンとレトルトの白飯、総菜の餃子でいいか。今日は高くついたが仕方がない、明日からは米を炊いて冷凍保存しておくとしよう。
『……』
レンジ使うのはもったいないな。もう一つ鍋を出して、と。レトルトの白飯ってどれだけ湯煎すりゃいいんだっけ?
『……、…………』
「おい、ちらちら見るな」
後ろでウロウロされたら気が散るだろうが。
『それが今日のご飯なの?』
「ああ」
『私、お料理得意だよ!』
「そうなんか?」
うわ、めっちゃドヤ顔。でも予想外だ。思ったよりまともでいいヤツなのかもしれないな。
『お手伝いしたいなあ、したいなあ~』
「じゃ、これを頼む。書いてある時間だけ湯煎してくれ」
『うん! わかった!』
あ、しまった。
ラーメンが噴きこぼれそうだ。
ごとっ!
「よそ見してスマン、手元が狂った」
『……』
「そっぽ向いてないで拾ってくれたら助かる」
『あ、あはは……』
「……アンタ、まさかわざと落としたのか?」
『ち、違うよ! 受け取れないの忘れちゃってて!』
「気合いで受け取れ、この
『近くて遠い?! あああ、ごめんなさい……』
前言撤回。
人間性以前の問題、とんだポンコツだった。
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