第5話 魔族、そして正義の味方
「ここかあの3馬鹿の逃げ込んだ場所は」
俺は邪悪センサーの反応を追ってんわざと逃がした3馬鹿のあとを追い一つの民家へと辿り着いた。
何の変哲もない普通の民家。だがその普通さが逆に怪しい。気がしなくもない。
俺は鍵のかかったドアを聖剣でVの字に斬って中に侵入した。
「なるほど。地下室か」
邪悪センサーの反応が奥に続く本棚を斬ると奥に隠し階段。断面を見るに、どうやら本棚は回転式の扉になっていたようだ。その仕組みがある。細かいことは分からんが。
俺は階段を降りる。降りた先は洞窟のような細長い通路になっていた。
俺はセンサーの反応を追いかけて細長い通路をどこまでも進む。途中で幾重にも枝分かれしていたがセンサーのある俺が道に迷う道理はなかった。
とうとうセンサーの反応に追い付く。目の前には土壁を魔法で加工して作られたっぽい重厚な扉。
「血と巨悪の匂いがするな。この奥か」
濃密過ぎて眼に見えそうな程の血臭を奥に秘めた扉を俺はワクワクしながら斬り開ける。セキュリティがお留守なようだぜ……。
センサーはもうずっとビンビンに反応している。途中で合流して3馬鹿とこの部屋に向かった、3馬鹿の気配を覆い尽くして掻き消す程の巨大な邪悪の気配を感知して。
足が震える。唇がひくつく。心臓が戦慄く。怯えている? 違う。ワクワクしているんだ。間違いない。俺はもう昔とは違う。死など恐れはしない。
扉の向こう側へと一歩足を進める。ヒュン、と飛んできた何かが傾けた頬を掠めて通路の土壁に着弾した。俺の超絶な動体視力によると飛んできたのは人骨だ。おだやかじゃない気配がビンビンする。
扉の奥は少し長めの通路。飛来する人体の破片を時に避け、時に聖剣で弾き、そして俺は開けた場所へとたどり着いた。
巨大な邪悪な気配の持ち主とグチャグチャの肉塊となった3馬鹿の末路をとうとう俺は視界に納める。期待以上の光景だ。俺は義憤にかられて叫ばずにいられなかった。
「なんて惨いことを!許さない!正義の味方がやってきたぞ。正義の罰を、フフフ、せ、正義の罰を与えてやる。これは正当な権利だ。俺は正義の味方なんだ。ハハハハハハハハ! 謝るなら今の内だぜ。せめて楽に殺してやるよ!拷問はしないでおいてやるよ嘘だがなぁ!ヒヒヒヒッ! ヒャーハッハッハッハッハッ!楽しみで仕方ないぜ因果応報という言葉の意味を貴様の体に刻み込むお楽しみの時間がなぁ!」
「な、なんだよ貴様ッ! いきなり訳の分からぬことをのたまいながら斬りかかってきやがって! 私は食事を楽しんでたんだッ! それを邪魔しやがって、たっぷりいたぶってから食い殺してやる!」
「お、お前が食われるべきなんだ。俺が食ってやるぜ性的に。意外と可愛らしい顔してるじゃないか。悪党の癖によォ!」
「くっ!」
俺は移動の最中ずっと溜め込んできた興奮を部屋に入ると同時に解き放った。3馬鹿を食っていた若々しい姿をしたロングヘアーの美女。スタイルがよく眉毛がスッと伸びている血塗れの裸の雌に俺は斬りかかった。美女に合法的に折檻出来る機会はそうない。おっさんより美女をいぢめる方が楽しい、男ならな。俺は男だ。とても興奮した。まずは半殺しにして身動きを取れなくしてやろうと思ったがこの女中々やる。まずは四肢を断って身動きを封じてやろうと思ったら素手で剣を捕まれてビックリした。皮膚がものすごく固い。そしてものすごく力が強くて、スピードも早い。人間離れしてる。
というか多分、いや絶対人間じゃない。魔族だ。
このままやっても勝つのは俺だが思ったより手こずってしまっている。俺は時短のため聖剣の力を使うことにした。
「喰らえ我が聖剣の一閃。ジョナサン・スラッシュ!」
「聖剣!? まさか貴様は勇者マルスさん!? や、やられ――」
「死ねぇえええええええええったぁああああああ!」
「へ?」
俺は地面を強く踏み込みすぎてバランスを崩しこけて頭から地面に突っ込んだ。ゴツンと大きな音がなった。
ジョナサン・スラッシュは過去の聖剣の遣い手のジョナサン・フラッシュが得意とした技だ。魔力を速度という概念に変換し、光の如き速度で斬激を放つ技。
だが、いつもならお茶の子さいさいで放てるジョナサン・スラッシュを失敗した。いや、発動しなかった。
原因は分かっている。そして敵の正体も副産物的に判明した。俺は剣を杖代わりに立ち上がり相対する魔族を睨み付けた。
「貴様、魔王軍の幹部以上の魔族か」
「
「ちっ! 切り札を切る余裕を与えちまったか。てめぇのせいだぞこの糞聖剣!」
「ウガァッ!」
「くっ!」
俺は全身に体毛が生え牙や爪が鋭くなりブサイクになった名も知らぬ魔族の攻撃を聖剣で受け止める。重い一撃だ。
「ククッ。鬼陰会を陰から操り街に混沌をもたらしていた我の正体と居場所を突き止めたのは見事だ。だが、聖剣の力を自由に使えなくなったという噂は本当だったようだなぁ!」
「……もう噂になっていたか。隠していたんだがな」
「口振りから察するに、どうやら魔王軍の幹部以上の存在には聖剣の力が発動できないらしいなぁ。ここで貴様を葬りその情報を魔王さまに伝えてやろう。勇者がいなければ人間など魔王さまの敵ではない!一息に滅ぼしてやるわぁ!」
「っ! ふざけるなぁ! そんなことは絶対にさせない! 俺の愛する人類に手を出すなぁ!」
「ッ!」
魔族特有のフィジカルに任せた連撃を繰り出すブサイクの指を一本、俺は切断した。力を発動できない以上、この聖剣はただの不壊の属性を持つよく切れる剣でしかない。
十分だ。魔族一人葬るには過剰戦力といっても過言ではない。何故ならこの剣を振るうのは世界最強の剣士のこの俺だ。聖剣の力が使えないと最初から分かっていればそれに応じた戦い方をするまでのこと。俺はさらにブスの指を一本落とす。いや切れ味悪いなおい。指全部落とすつもりで切ったのに。よく切れる剣というのは訂正しなければならない。魔王軍の幹部相手じゃこいつはただの不壊属性を持つ丈夫な剣だな。
まぁ、壊れないってだけでもこいつを倒すには十分過ぎる恩恵だ。並みの剣ならすでに折れているだろう。腐っても聖剣なだけはある。俺は更に追加で指を1本切り飛ばしながらそんなことを思う。
「くっ!何故だ!身体能力では勝っているはずの私が何故押される!?」
「俺を誰だと思ってやがる! マルスさまだ! 例え聖剣の力が使えなかろうと俺は一歩も下がらねぇ死ぬまで殺し合ってやる!聖剣を持つ前から俺は俺だ!正義の思いを力に変える正義の味方のマルスさまだああああああああああ!」
「くそっ!負けるわけがない!負けるわけがないんだああああああ!」
俺と魔族の戦いは更に激しさを増して行く。だが、地道に、着実に、泥臭く、一つ一つ、俺は魔族の体に傷を増やしていく。その繰り返しの果てとうとう魔族が倒れる。対する俺はかすり傷しか負っていない。
「格が違ぇ」
「くっ、馬鹿な……」
力を使い果たしたのかブサイクから美女に戻る魔族。俺の正義感を刺激する光景。俺は聖剣についた血糊を舌で舐めとり地に這う魔族に歩み寄る。
「拷も――正義執行だ。楽しもうか」
「や、やめ――」
俺は手始めに魔族の舌を切り捨てた。声なき悲鳴が上がる。人間なら即死。だが相手はゴッキブリのごとき生命力を誇る魔族。この程度で死にはしない。
「長く楽しめそうだ」
正義の時間はまだ始まったばかり。
お楽しみは――これからだ!
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