第6話『事実と真実』2/3


 実は、ほとんど立ち寄らないもう一つの隠れ家的な宿があり、今回は教えてもらった場所へ行くことにした。以前ギルマスのセバスに、身を一時的に隠したい場合は利用すると良いことを、教えてもらった場所だ。


 なので宿につき数泊分を支払い安心して部屋に入ると、まずは自身の姿を確認した。小さな鏡のかけてある部屋には目の紅い俺がいる。よくこの目で呼び止められなかったなと思うものの、確かセバスがいうには、金さえ払えば客のことは何も問わないと言っていたのは記憶に新しい。


 普通目が赤い時は、白目が充血して赤くなるものだけど、今回は虹彩が紅く染まっている不思議な現象だ。

 

 まだ解除されていないところを見ると、意識的に解除しないとダメなのだろう。

 このまま寝たらと思うけど、未知な状態で寝て起きたら化け物になっていたら困るので、意識的に解除を試みた。


「解除!」


「モキュッ!」


 瞬時に霧散して消えた。同時に虹彩も急激に元に戻っていく。恐らくはスキルにより染まっていたんだと思うけど、ある意味スキルのオンとオフが他者からわかりやすいのも困り物だ。

 

 とくに疲れが襲うこともなく、多少空腹なのは昨夜から何も食べていなからだろう。

 一樹はとくに気にせず、疲れた体をベッドに叩きつけるようにして、寝転ぶ。


「モグーおやすみ」


「モキュゥ」


 こうして一樹と一匹はようやくの束の間の休息だ。



 ――数時間後。

 

 

 目覚めた後、真っすぐギルドへ向かった。何の気なしに地下ギルドでぶらつく。

 

 何度も偽ポショを納品もしているので、比較的馴染みのあるところだ。

 地下ギルド周辺は、骨董品やら中古道具販売など盗品崩れの怪しげな店で溢れている。そうした場所だ。


 変わらずギルド内は人で溢れて賑やかだ。

 買取依頼に荷物を抱えて持ってくるものや、依頼の掲示板を眺める者もいる。

 当然昼間から、酒をちびちび飲んでいるのもいる。ただしギルマスの意向で誰かに絡むことはまずないし、新人いびりなどもない。

 あれば処刑するほど、ギルマスの権限は高く強権的でも許されている。


 そうなったのも特徴ある木々の一部を元々世話し、その木になる実を皆に自由に解放していたところから、その恩義を皆が感じておりある程度のことは問題にしないぐらいだ。

 

 ギルドの隣接する場所に生えるのは、『豚の木』だ。


 地下に居住の者は基本的に食うことには困らないから、殺伐とせず皆穏やかな空気感だ。やはりあの肉がなる木は、重要な生活基盤になっている。ギルドの近くにある『豚の木』は、ここもリンゴと同じ大きさの豚肉の塊が実り、もぎ取って焼いて食える。味は豚肉そのまんまで食感も普通に豚肉だ。豚のバラ肉を寄せ集めて固めたような感じといえば、わかりやすいかもしれない。

 

 一樹は所定量の『ポショ』を納品した後、ぼんやりと依頼を眺めていた。

 すると、背後から多少は知った声が一樹を振り向かせる。

 視界に入ったのは、真っ白な燕尾服とシルクハットに白い仮面をつけたギャンブルマスターだ。


「あら? 依頼でも探しているのかしら?」


 多分レベルが上がっていると思うけど、この間の何かを教えてくれるんだろうか。


「ギャンブルマスターか……。例のこと教えてくれるのか?」


 すると何か見えるのか、人の姿をジロジロみるなり頷き始めた。


「そうね……。うんうん。上がっているわね約束通り教えるわ。ちょっときて」


「おう……」


 俺は言われるままに、後をついていくとギルドの受付に何か話をしているようだ。商談部屋を一つ借りるようで案内される。


「こっちよ。ついてきて」


「わかった」


 買取受付の左壁際に出入り口があったことを今初めて知る。

 扉を開けた先には一本のまっすぐな廊下があり、また左側の壁際に等間隔でいくつか扉が見える。


 どこまで続くのか不思議な廊下は、奥が暗くて見えないぐらい深く見える。

 今いる場所は本当に地下ギルド内なのかと、一瞬どこにいるのか戸惑う不思議な空間だ。普通の廊下のはずなのに奇妙な違和感があった。


 目の前に並ぶ扉は、恐らくは同じく商談部屋なんだろう。一樹たちは一番出入り口に近い手前の部屋に入ると、二人掛けのソファーが対にあり挟むようにしてローテーブルがある。


 壁は普通に白く、なんの変哲もない部屋だ。


「さ、座って」


「ああ……」


「ねえ、ひょっとして緊張している?」


「いや、なんか変な廊下だなと思ってな」


「そう……」


「なんだ? 何か知っているのか?」


「一樹は廊下のことが知りたいの? それともこの間、教えるといったことのどちらか一つを選んで」


「もちろん、後者の教えるといった方だよ」


「そう、なら始めるわ」


「?」


「いい? じっとしていてね」


 そういうと、ギャンブルマスターはソファーへ前のめりになると、腰掛ける俺に近づき、両手でこめかみあたりを魔力なのか何かを当ててくる。


「……なんだ?」


 俺は得体のしれない感覚を味わっていた。目の前に半透明のパネルが浮き上がって見えたり消えたりしていたからだ。ギャンブルマスターはそのままの姿勢で、ゆっくりと説明をしてきた。


「何か、見えてきたでしょ? これがコントロールパネルよ? ゲームしたことあるよね? 同じ感覚で触ってみて」


 ――ゲームだと? なんでギャンブルマスターが?


 不意にもといた世界に関するキーワードを言われたものの、目の前のことの方が気になり返事をして触れてた。


「おう……」


 俺の目の前に広がる光景が一変した。まるでゲームの画面を見ているようだ。視認するすべての物に名前が浮かび上がり、左上にはデジタル時刻のような物さえ見える。


 ――これって拡張現実か?


 しかも目の前のギャンブルマスターに目をやると、今はステータスバーが現れている。自身の掌を眺めれば負傷なしとまでメッセージが現れる状態だ。


 視界の右端には、何か縦に長方形のバーがある。どこか左にずれそうな感じがしたので横にスライドさせると各種メニューが現れてきた。


 俺の動きで何かわかったのか、右隣に腰掛けてきた。


「その動きからすると、パネルを見つけた様子ね。そこから細かい確認や設定ができるわ。あと自分自身の情報も確認できるはずよ。見てみて」


 ――メニューが日本語なんてどうなっているんだ?


 ところが目に見える以上に、隣からふんわりとしたなんだいい香りがする。どこか甘い香りのようなフローラルなのか心音が高まる。

 

「お、おう……」


「まずは自身の情報を見た方がいいわ。ステータスと念じても、言っても瞬時に現れるわ」


「ステータス! ――おわっ!」


 あまりにも目の前に現れたので、心の準備がなければ不意打ちすぎて普通に驚く。表示には、一気に俺だと思われる情報の一覧が出てきた。リアルで見るとリアルがゲームみたいだ。

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