第22話『桐花』

 目を見開いた一樹は、シールドが消えたとほぼ同じぐらいでようやく銃を作り終わり、起き上がると同時に枢機卿へ乱れ撃つ。


 まったくと言っていいほど、反動がない銃でバレルが動くだけで薬莢も出ない。想像していた以上に軽さもあり、扱いやすさは抜群だった。ただし質感と触感はどう見ても金属だ。あと拡張現実には、どこを狙っているのかレーザーサイトの役目も果たしているので外すことがほぼなく、かなりの高性能と言えるだろう。

 

 ただし射撃音だけが大きいのは変わりない。

 大きな銃声が鳴り響くと白銀の銃弾は回転し強い冷気を撒き散らしながら、枢機卿の肩にあたり、瞬時にその場所を凍結させる。どうやら音だけはよりリアルに近いようだ。


「グハッ!」


 枢機卿は初めて喰らう銃弾の痛さによろめく。反撃がないのを機会と捉え一樹は、間髪入れずに連続して撃ち続ける。

 銃声が何度も鳴り響き、腹や胸以外にも足にもあたりすでに仰向けに倒れたところだった。一樹は最後に悪い笑顔で伝える。


「また会おう」


 一樹は脳を狙わず鼻よりしたを狙いうち首から千切れるまで撃ち続ける。

 これでようやく、枢機卿を殲滅した。

 

 とりあえずで作られたにもかかわらず、高性能な銃だ。


「こいつはゴキゲンだぜ!」


 全身を蜂の巣にされた枢機卿は、首から上の頭は離れてしまい一樹に回収された。後で脳分解でスキルを得るためだ。

 

 初披露の大型ハンドガンの『ブリザードフォック』は、圧倒的な力の象徴となることを証明した。

 ようやく終わりだと気を抜いた瞬間、扉を開けて次々と人が入ってきた。まるで蜘蛛の子のように湧いて出てきたのは、一体なんなのか。目はよく見ると虚のようでいても、目的意識がしっかりとしているように見える。


 ――なんだあの黒目は。


 老若男女入り混じった人々は信者なのかもしれない。今言えるのは全員敵だ。なぜなら全員が一樹に向かって脇目も触れずゆっくりと歩いてくる。目がすべて黒目になっており、まるで死体が蘇ったような苦痛に喘ぐ表情をして、ぎこちない動きで迫る。


「モグー気をつけろ、こいつら何かおかしい」


「うん! 殲滅! せんめつぅー!」


 モグーは妙に明るく、リズムよく軽快に口ずさむと光弾を再び連射し始めた。一樹が蘇生したことがよほど嬉しいのか、非常に軽やかに見える。


 一樹もまた新調した銃を構えて打ちまくる。

 銃は枢機卿の時に使ったのが初めてだ。扱い方や構え方と打ち方、装填およびメンテの方法までがすんなり頭の中で再生される。


 銃の構え方は、わずかに腕を伸ばし顔の前に構えて、できるだけ顔の近くに寄せていた。銃口と目線を一致させて狙い撃つ。薬莢は飛び出さないため、この体制で連続して頭を狙い撃ちまくる。


 数が多すぎて脳ミソ確保など気にしていられないぐらい湧き出てきた。もう相手が誰であろうと近寄るやつはすべて敵だ。


 一体これまでどこで何をしていたのか、これほどまでに待機していた人がいると思うと恐らくは信者ではないかと一樹は思っていた。ただなぜこのタイミングなのかまでは、考えにいたらない。今は目の前の対処が最優先だ。


 モグーと一樹は、扉の方に体を向けてひたすら撃ち続けた。まるで怯まない襲撃者たちは、撃たれたあとはその場で倒れ他の者の妨げになる。ところが倒れた人らのことなど、路傍の石程度にしか思っていないのかそれとも、ただ目的以外は気にもとめないのか、奴らの足は止まらない。


 状況を確認しようと、視界に広がる拡張現実へ意識を向けた。映し出される周囲の環境と銃の残弾数に目をやる。

 

 ――残弾は……。


 拡張現実と言える視界の表示内には、銃弾の残量がカウントダウンするように示されている。それは一樹が引き金を引くたびに減っていく。母数が千発もあるため、今のペースでならまったく問題ないだろう。


 唯一の救いは、敵は近寄ってくるだけで武器を使ったり魔法を使う様子も見せない。ただ近寄ってくるだけだ。とはいえ、物理的に奴らの手の届く範囲になれば、取りつかれて喰われるのは想像に難しくない。なぜなら枢機卿の死体に割れ先にと食らいついており、目の前で繰り広げられているからだ。


 連続で撃ち続けるモグーは一樹と異なり、常に自身の魔力を消費しながらのため、疲労が著しい。ポショで多少の魔力は回復するもこの埋もれるほどの人を膨大な光弾で迎え撃つとなると、相当な魔力が消費されていく一方だ。

 

「モグー大丈夫か?」


「うん。なんとか……ね」


 さすがにこの数だモグーも疲労が激しい。

 どうにかして流れを止めたいところではある。




――いっそのこと魔法のテントに避難するか。


 入ったら今度は出るタイミングが難しくなる。戦いの真っ最中のこの場所は、籠城するには最悪だ。しかも隠れる方法が露見するのは避けたい。


 溜まり続ける一方の疲労は、『ポショ』のぶっかけではさすがに回復しない。あくまでも傷ついた体の修復だけにしか効果がない。

 

 また、ひたすら撃ち続けることが繰り返される。


 いくら倒しても、黒目たちの人の波と襲撃は止まらない。床には夥しい量の血と骸が転がる。ここがどこかの戦場で市民が巻き込まれたと言っても不思議ではない光景が広がる。


 ――これじゃ土嚢だな。


 土嚢ならぬ血袋が積み上がる。一樹の腰の上あたりまで、おり重なる人らで床が埋まる。


 キリがないと思っていた人波についに変化が訪れてきた。室内に入ってくる人数が減り始めたのだ。

 こうなると現金なものでやる気が湧いてくる。それはモグーも同じ様子だ。

 力を振り絞り、目先のゴールに向けてひたすら撃ち続けていった。

 

 ふと目線を桐花の消えた場所に移していた。


「モグー、桐花の衣類回収してくる」

 

「うん!」

 

 まだ衣類が残っており、非常事態であってこれだけは今しなければとの思いと、どこかそのままにしておけず急ぎ魔法袋にしまう。

 すぐに前線に復帰し、素早く襲来する黒目たちを再び撃ち続ける……。


 ――あの時、桐花はどう思っていたんだろう。


 一樹がこの世界に来てから何度も顔も合わせていて、ついこの間、急により多く話すようになった矢先に今回の出来事だ。


 今となって知る由もない。

 ただ、ずっと見守れられてきたのは今にしてわかる。

 なんらかの誓約があり、正体を明かせなかった思いはどれだけ辛かったのだろうと思うと、繋いでくれたこの命なんとしてでも生還しなくてはと誓う。


 ――桐花……。奴らをぶっ殺して、手向の花にしてやるよ。


 モグーと一樹はようやく最後の一人を撃ち抜いた。


 すると今度は拍手をしながら、誰かが奥からゆっくりとやってきた。


 その者は一体……。


 

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