第11話『ポショ最高』

「即時回復。使った分だけ何度でも回復! しかも欠損だって修復出来る。本家には無い高品質な効能! そして安い」


 なんか自分で言うのも変だけど、安くて高い効能だから売れに売れまくる。セバスも代理販売により大儲けでほくほく顔になり、さらに作ってくれと要望がくる。


 評判が呼び水となり、お試しに使う人や普通でない使い方で試す人も出てきたという。

 どうやら裏技的な使い道もあるらしい。

 愛用者が発見した使い方だと、無傷でがぶ飲みすると一種のバーサーカー状態になると言われている。要はオーバーフローした回復分を、一定時間溜め込んで元の体力に戻るまで無敵に近いらしい。

 ただガブ飲みすればいいだけという、恐ろしく手軽にできるので、ヤバイ奴にはもっぱらの評判だ。すでに愛用者がいるのはクラフター冥利に尽きる。

 

 ――他もコンパネを見ながら検討するか……。

 

 今一樹が作れるのは、『ポショ』以外に『蘇生薬』だ。非常に効能が高いため、非売品かつ誰にも知られちゃいけない物でもあった。

 

 なぜなら効能がかなり破格な上、想像させる用途としては死なない兵士が簡単にできてしまうので非常に危険と言えよう。

 

 粘性が高く飲み干すときには多少飲み込む力が必要だ。一度ごっくんしたら、ほぼ二十四時間、何度死んでもOKときたもんだ。

 時間が厳密でないこの世界でも、効果が切れるタイミングはわかりやすい。

 

 説明によると、大量の小便が出るのだ。なんでか理由はわからないけど、わかりやすい合図だ。

 万が一忘れても自分以外に一人でも同じタイミングで飲めば、同じくもよおしてくるので忘れ防止になる。もよおす時は、効果がきれたと考えれば問題ない。とはいえ、日常生活でも当然したくなるので、普段とは少しばかり違うもよおす感じを知っておく必要はある。


 作るのは簡単で時間がかかるものの、手軽かつ副作用も目立った物はない。さらに、あまりにも効能が高すぎて、おかしなことが起きても不思議じゃない。

 製作者だと知られたら恐らくは、身柄を拘束されて一生どこかの地下で作り続けさせられても不思議ではない代物だ。悪い国の中枢に知られたら、えらいことになる。


 なので結論から言えば、誰にも知られちゃいけない。

 

 ――俺とモグーだけの独占だな。

 

 そんなわけでまずはお試しと、ダンジョンに突っ込んでみた。

 一樹とモグーは作った『蘇生薬』を飲み干し、無理矢理十階層のボスのところまで一気に駆け抜けてきた。思いつきにも程があるけど、一樹は後悔していない。

 途中の敵はとりあえず逃げ通してきたので、ボス戦では大量の経験値を獲得したい。今ある武器となる物は、紅目化と暗殺者からの戦利品の短剣。さらに、一日一度だけ使える衝撃波がある。


 必死に駆け抜けてきたおかげでボス部屋と思われる扉の前にまで到達していた。


 ――このまま突撃するか否か……。

 

 一樹の心配をよそに、モグーは無邪気にも質問をしてきた。


「一樹ぃ、何が出るの?」


「体毛が真っ白で、毛むくじゃらの巨大なクマみたいな奴だな」


「クマ?」


「あっそうか。モグーはみたことがないよな」


「うん。初めてだよ?」


「そうだな……。近いやつはまだ遭遇したことがないから見てのお楽しみだな」


「わかったー。魔法とか使ってくるの?」


「魔法より、腕力で攻めるのが得意みたいだな。体格に似合わず、結構素早い攻撃らしいぞ」


「うーん。それなら、あたしの光弾当たるかな?」


「俺が足止めしたら、俺に構わず撃つといいさ」


「うん。わかった。一樹もろともだね」


「え? そこって、少しは遠慮とかしないの? モグー?」


「あたしはやるじょー!」


 ――あれ? モグーってアグレッシブな感じだっけか。『蘇生薬』を飲んだら、なんか少しだけ性格が変わったような……。


 気にしても仕方ないので一樹はもう一度、目の前に聳え立つ巨大な扉を眺めた。


 今いる場所は、数百人は座れそうな広く何もない円形の場所で、正面には石を削り出して作ったかのような、鈍重そうなまっし白い扉が聳え立つ。人の背丈の軽く三倍はあり、非常に大きい。

 扉をどうやって開けるのかと思いきや、近寄ると勝手に開き出した。自動ドアなら大歓迎だ。


 五メートルはあると思われる扉が内側へ見開きに開くと、中も真っ白な岩壁が滑らかに整えられており、広場と同じ形になっていた。


 例のシロクマは、最奥の中央壁際で仁王立ちとなり、立ち尽くしている。

 身体構造的に、たったままだとしんどくないのだろうかと、余計なことが頭によぎる。


 恐らくは部屋へ完全に入ったら、扉が閉まる仕組みなのだろう。

 今以上に準備することなどないため、モグーを見ると頷き互いに一歩中へ踏み出した。


 両足ともボス部屋に入るとゆっくりと扉が閉まっていく。

 俺はすぐに紅目化をしてクマをみる。

 一樹たちから近づかないと動かないのかもしれない。


 ならばこの距離なら届くので、衝撃波を一発見舞ってやろうかと構える。

 

 ――ウロボロス来い!

 

 頭の中で念じると、左腕に黄金の蛇が絡みつくように纏いつく。自らの尻尾をクワエル蛇は、まさにウロボロスだ。あのセルデリングの衝撃波は、ウロボロスと呼ぶらしい。


 真っすぐ腕を伸ばして手のひらを相手に向け、今できる全力の一撃を打ち込んでやろう。そう考えると、全身の力を込めるような気持ちで左手に何かを集中した。


 腕全体が発光すると金色の粒子までもが腕の表皮を這うようにして、突き出した正面へ向かうように流れていく。


 頭の奥でここだという何か感覚があり、狙いを定めて撃ち込んだ。


 一樹は思わず口走る。

 

「イッケー!」


 モグーは驚き、何か言っていた。

 

「あわわわわわ!」


 目の前から突風が一樹の体へピンポイントに吹き付ける。

 まるで台風で立っていることすら叶わない暴風のようですらあり、予想を遥かに上回る。

 衝撃で吹き飛ばされそうになるも、必死に足を踏ん張ると体が後ろへ引き寄せられるように少しずつ後退していく。

 目尻から後ろに景色が流れるかのような錯覚をえると、閃光が真っすぐ走った。


 巨大な光がぶつかり、破砕音が響くと辺りはもうもうと砂埃がまう。


 一樹は思わず声を漏らす。


「まさか……」


 モグーも同様に、驚きのあまり名前を呼んでいた。


「一樹ぃ……」


 一樹は自身の目を疑った……。



「こんなことって、あるのかよ」


「すごいじょ……」


 白いクマは仁王立ちのまま、土手っ腹を貫通してさらに先まで見通せるほどの大穴が空いた。つまり今の一撃でボス戦は終了だ。


 ――なんだ元の持ち主は、随分とヤバイ代物を持っていたんだな……。


 少しばかり感傷に浸っていると、勝手にコンパネが立ち上がり点滅し出す。よく見ると一気にレベルが上がったことを伝えたいようだ。


 コンパネ自体は、俺のレベルが上がるほど何んだか多機能化しているような気がする。


 促されるまま、視界に見えるパネルへ手を載せるように触れると、驚くことに空中なのに感触がある。次に現れたのはスキル一覧でまたまたすごい……。


 思わず、一樹は声に出して笑う。

 

「うははは!」


「あら? 一樹またハマっちゃったのね?」


 もぐーはまた、いつのもことだと思っているような様子。

 反対に一樹は狂喜するほどの内容を見て、思わず小躍りしそうになるほどだ。


 まるで、ウマクイキスギ君じゃあないか。当然そのような人物はいないものの、擬人化したらそのような名前になりそうで一樹の中で定着しつつある。


 もうなんというかステータスはこのような感じだ。


【種族レベル】32+15UP! ⇨47(作成種類増加)

【職業】クラフター

【JOBポイント】残3+20UP! ⇨23(作成品質増加)

【製作スキル】

 コントロールパネル:MAX

 言語理解:MAX


 魔道具

  マジックバック(偽)(MAX)

  ポショ(偽)(MAX)

  蘇生薬(偽)(MAX)

  特殊剣……永続効果の剣をランダムで入手(JOB50 P分で1回)

  魔法テント(0)(二十畳。半永久。外監視。生活機能。利用者登録)

  new! 強毒化(0)(体液および血を第三者が浴びると瞬時に麻痺)

  new! ネコメタルオブデス(0)ねこメタルを召喚 デスボイスで溶解。

  new! eyes of death(0)指定の物だけを例外なく30センチ先に動かす。

  一日一回だけ安全に利用できる。二回目からは、自身にも同じことが起きる。※『ポショ』必須。

  new! マッスルオブゴールド(0)黄金色の筋肉となり、通常の十倍筋力が一時的に増加する。持続は半日で、飲めば飲むほど持続が加算され、累計一ヶ月を超えると三倍で固定化する。以後飲んでも三倍を超える増強はされない。


 魔導銃

  new! (不可)(偽)ブリザードフォック 大型ハンドガン(魔導弾丸を使用)

  new! (不可)(偽)フレームドッグ 大型ハンドガン(魔導弾丸を使用)

  

 魔導書

  new! (不可)……(偽)まだ解放されていません。

  new! (不可)……(偽)まだ解放されていません。


【レアスキル】『経験の書』創造

 ・短剣術:MAX

 ・暗殺術:MAX

 ・紅彩術:MAX

 ・格闘術:MAX


【アイテムスキル】

 ・衝撃波。


【アイテム】

 ・エルデリング二個。

 ・短剣。


「うは、これはすげえな。ネコメタルオブデスってなんだよ……」


「うわー。一樹なんだかすごいことになっているね」


 横からモグーが覗き込んで興味深そうにしている。どういうわけか、最初からモグー自身は見えるし、一樹のも見えるようだ。


 デスボイスで溶解ってなんだか奇妙なのか、最強なのかよくわからん。他にある強毒化ならわかりやすい。普通に地球にいた時の生物でも麻痺毒なそのような奴らはいたかと思う。

 何気にすごいのがeyes of deathだな。

 例外なく三十センチて一瞬ダメじゃんと思うところだけど、これはとんでもスキルだ。


 首から上を三十センチ先にずらせば当然首は切断されるし、他の部位も同じだろう。強すぎる気がしなくもないけど、制限は納得だ。

 このようなものをポンポンと使われた日には、世界は滅びる。しかも『ポショ』さえあれば二回目以降もできる。かなりの苦痛を伴いはするものの、破格としか言いようがない。


 ――いいのだろうか……。


「やべーのがまたきた」


「どうしたの?」


 俺は『ポショ』にかわる薬品として、一部に絶大な支持が得られそうな作成スキルを習得してしまった。その名は『マッスルオブゴールド』だ。


 皆がキメ顔笑顔でポーズを決められたら、まずは眩しすぎるだろう。しかも筋肉ならぬ金肉って……。

 

 間違いなく筋肉愛好家の皆様に、ご愛顧いただける魅惑の品へなるに違いない。しかも能力がヤバすぎる。

 飲み続けている内は筋力十倍。半年したら、上限は三倍で固定だ。固定化するまで半年間は飲めば筋力十倍というわけだ。

 

 いくらにするかは決めていないけど、相当儲けそうな気がしてならない。しかも筋肉が黄金色に染まるってなんだよ?


 作れる嬉しさ反面で、何だか作れるものは異色な物ばかりで飽きないぞ。他にもようやくはっきりと武器と言えるものがついに出た。


 ――大型ハンドガンがついにきやがった!


 そういえばお目当ての物も作れるようになったんだよな。でもなぜか不可と出ているのは、何かが足りんのだろうか?

 

「ついにハンドガンが見えてきたか……。名前もなんだか期待ができるな」


 そこでモグーは聞き慣れない単語だったのか、聞き返してきた。


「ハンドガンって?」


「ああ。それな、手で掴める短い杖のような道具でさ、モグーのような光弾ができるようになるんだ」


 すると目をキラキラさせながら嬉しそうにいう。


「え! それってすごいね!」


 こいつを使いこなせれば、かなり異質な感じになるだろう。魔導弾丸はどのような物になるかはわからないけど、楽しみで仕方ない。


 ――ますますレベル上げをしないといけないな。


 今のところ、賞金稼ぎたちから襲撃はなく寝床も襲われず、ひとまず命拾いはしている。けど、早々に魔法のテントが必要だ。銃もいいけどまずは安全の確保が優先だな。


 こうして一樹は、目標の地点までは到達したので一旦戻ることにした。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る