非モテ最底辺Ω VS 特権階級α

めへ

非モテ最底辺Ω VS 特権階級α

酒井雄介(Ω)

目覚めるとカーテンを開けっ放しにしていた窓から西日が部屋に差し込んでいた。


「もう夕方か。」


寝たのは確か、朝四時を回った頃だった。一つ大きな欠伸をすると、トイレへ向かい尿意を解消した。


空腹を感じ、冷蔵庫を開けると解凍しておいた肉が一包みある。炊飯器に入れておいたままの飯と共に炒めて炒飯にして食べた。


――肉の在庫が少なくなってきたな、調達へ行かないと。そろそろ発情期が来るはずだから、外をブラつくか。



酒井雄介35歳はΩである。この世界にはα、β、Ωという三つの第二の性別がある。

βは何の変哲も無い、第二の性というものが実質存在しない者を指し、いわゆる中流家庭に産まれる。なので本人も中流階層である。

αは裕福で権力のある家庭に産まれ、従って本人も権力・財力持ちである。

そしてΩは最下層に産まれ、故に本人も最下層の民だ。


実家がどうであれ、本人次第で階層が変わる事はあるじゃないかと思うかもしれないが、この世界ではそれが無い。この世界では、まるでカースト制度の如くそれが産まれつき定められた第二の性によって決定されているのである。

なのでΩはどれだけ励んだところで最下層のままだ。それでもΩ雇用というものや、Ωである事を伏せて入社したりして細々と励む者もいるのだが、雄介は元々が労働に向いていないので生活保護を収入に暮らしている。


しかしΩはαを誘惑するフェロモンに恵まれているのだ。Ωには月に一度定期的に、発情期(ヒート)と呼ばれる現象が起きるのだが、その時発せられるフェロモンを感受すると、αは自らの意思とは関係無くヒート中のΩと性行為をしてしまうのである。

要するに、βと違いΩには一発逆転のチャンスがそこにある。上手くαをたらし込めば、αの持つ財力と権力を頂く事が可能なのだ。玉の輿、シンデレラみたいなものである。

雄介もそれを狙っており、αからは引く手数多なのだが上手くいかない。彼らαはシャイな事が多く、雄介を見ると逃げ出してしまうのだ。まあ、それでも彼のフェロモンには逆らえずやる事はやってしまうのだが、終わった後には照れ隠しなのか涙を流しながら雄介を罵って去っていくのである。


因みに現代では抑制剤というものがαΩ双方用に開発されており、多くのΩはそれを服用しているがαは殆どが未服用だ。財力、権力を持つ者が持たざる者に配慮する必要など無い。しかしそれが逆に雄介には好都合だった。


雄介はネックガードを装着すると、玄関のドアを開けて外に出た。


αとΩの間には「番(つがい)」というものがある。αが発情中のΩのうなじを噛む事で成立し、これ以降Ωは番となったα以外の誰とも性行為ができなくなる。無理に行為に及ぼうとすれば、体は強い拒絶反応を示し吐き気などの体調不良に襲われるのだ。因みにαの方は何人とも番契約が可能だ。


――まあ、番にされたところで肉の在庫が増えるだけなんだがな。でも、それまでが面倒だし。


雄介はネックガードを忘れて、番にされてしまった事がある。相手が雄介と結婚し、今後面倒を見てくれるならそれで良かったのだが、彼もまた雄介の元を去ろうとした。番契約は相手のαが死なない限りΩは自由の身になれない。なので相手のαを殺す事にしたのだ。

金と権力のある者が殺されれば警察は必死に捜査する。だからプロに頼んだ。

強姦等で番にされてしまったり、別れて番を解消したいというΩの需要に目を付けた暴力団や半グレは少なくなかった。彼らはターゲットを秘密裏に暗殺してくれる。


外に出ると空は茜色と薄水色のグラデーション、豆腐屋の何かを吹く音が聞こえてきた。

初夏の暖かい風を心地良く感じながら、雄介はアパートの階段を降りた。



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