第22話 入学式前夜

 明日は念願の入学式の日、俺はゴミ拾いをがんばり顔面偏差値のレベルを4に、身長のレベルを3にすることに成功した。顔面偏差値のレベル4とは、学校で1番のイケメンであり、町を歩けば芸能界にスカウトされるくらいの超イケメンである。そして、身長レベルを3にしたことで俺の今の身長は175㎝まで伸びた。

 顔面偏差値をカンストして最高峰のイケメンになりたいと思っていたが、レベル5にするには、必要好感度ポイントの欄が???と表示されていた。黒猫になぜこのような表示がされているのか確認すると、「ある条件を満たさないとレベル5にできないにゃー」と説明を受けた。



 俺は皆がうらやむほどの容姿を手に入れた。身長もいずれは178㎝になる。これ以上身長を伸ばすよりも、違うレベルを上げる方が大事だと思った。

 どのレベルを上げるかは考えるまでもない。将来の選択肢を広げるには学歴は必須である。高校生活の3年間、どれだけ勉強を頑張ったかによって人生は決まるといっても過言ではない。もちろん、スポーツや趣味などに特化すれば、別の人生の選択肢を広げる事ができるだろう。しかし、安定した未来を約束されるほど甘いものではない。運動音痴で不器用だった俺は、好きなスポーツもなければ気になる趣味もない。俺は次にあげるべきレベルは自ずと決まっていた。


 「運動神経のレベルを上げるぞ」


 運動神経とは、脊髄から筋肉まで伝わる神経の種類の一つで、筋肉を動かす役割を担っている抹消神経である。ステータスの運動神経とは、筋肉を動かす運動神経だけでなく、運動の能力が高い事を意味している。それは、運動に関する神経回路を発達させて、自分のイメージ通りに体をコントロールできる能力である。これには反射神経、動体視力なども含まれるし、根本を突き詰めれば五感が優れている事になる。そもそも、運動神経は遺伝ではなく生まれつき運動神経の良し悪しはなく、幼児期の様々な運動経験によって決まると研究されているようだが、それが本当であれば、幼児期から英才教育をすれば誰でも運動神経が優れてすごい人物なれるはずである。しかし、人それぞれ伸びしろがあり、実際はレベルによって伸びしろが決まっていたのであった。


 運動神経レベル1 飲み込みが遅く、練習をいくらしても運動能力は上がらない。特に球技など道具を使うスポーツは向いていない。レベル2 練習すればするほど伸びていくが限界はある。例えるならば県大会ベスト8の成績を残せる。レベル3 運動能力に長けていて、練習をすればスポンジのように吸収する。瞬発力、跳躍力などが人並み以上に発達しているので、スポーツをすれば全国レベルの成績を残す事ができる。レベル4 五感が研ぎ澄まされているので、少しの練習でも数倍の力を発揮することができるいわゆる天才肌である。レベル5 超人である。動きを見ればすぐに理解できる特殊能力を持つ。どんなスポーツでも瞬時に吸収して、最大限の結果を残す事ができる化け物。


 俺が運動神経のレベルを上げるには理由がある。もちろん、プロスポーツ選手になるためではない。自分を強くするためである。世界は暴力に満ち溢れている。いついかなるところで暴力という悪意にさらされる危険がある。武器などが一般的に所持が認められていれば、武器を極めるのもいいだろう。銃口を向ければ、どんな屈強な人物でもひれ伏す事になる。しかし、俺の今居る世界では武器の所持は違法である。それならば、絶対的な肉体を手に入れる事が、無慈悲な暴力に対抗する手段であると俺は考えた。

 学校が始まるのでボランティア活動をする時間は大幅に減ることになる。部活動をするつもりはないが、アルバイトはする予定だ。運動神経レベル1の俺は、超がつくほどのどんくさい人間なので、運動神経をレベル2にしてからバイトを始める予定だ。運動神経をレベル2にするには好感度ポイントは5000必要だ。超絶イケメンになったので5000ポイントを手に入れるのはさほど難しくない。学校が終わってからボランティア活動をすれば2週間くらいがんばれば問題はないだろう。


 「昴!お母さんはバイトに行ってくるから、早く寝るのよ」

 「わかった。明日は入学式に来るの?」

 「もちろんよ」


 母親は嬉しそうに笑みを浮かべる。前回の高校の入学式には母親は参加していない。それは、俺が絶対に来ないようにお願いしたからである。母親が入学式に来るのが恥ずかしいこともあるが、俺自身が学校に馴染める自身もなかったし、誰にも見つからないように存在を消したいからである。母親もそんな俺の気持ちを察して入学式には来なかった。

 しかし、今回は違う。俺は高身長のイケメンになり自分自身に少し自信をもてるようになり、親孝行もしたいと考えている。俺は自分から母親に入学式に来て欲しいと言った。俺の言葉を受けて母親はとても嬉しそうにしていたので、入学式に誘って良かった。


 


 

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