第7話 レベルアップした『攻略本』

「さすがお見事です京也様」


「え、ああ、ども」


 俺が猪のモンスターを倒し終えると、リリィが何事もなかったかのように俺の近くやってきた。


 あれだけ俺が慌てていたというに、顔色一つ変えないとは何事だと言ってやりたいが、リリィの態度を見ると俺がこのモンスターを倒すのを確信していたようだった。


 いや、俺弱いって初めに言ったはずなんだけどな。


「どうかなさいましたか?」


「いや、多分どうもしてないんだろうな」


 きょとんとした顔を向けられてしまうと、俺が負ける方がありえなかったみたいな気になってしまう。


 まぁ、そんな勘違いをしたりはしないんだけどな。俺戦闘向きの『ギフト』じゃないし。


「さて、このモンスターどうしたものかな」


 いちおう、この世界のモンスターは物によっては食べることができるらしい。


 俺が倒したのは見るからに食用のモンスターだが、俺にさばける技術があるかは別の話である。スーパーに売ってある肉でさえまともに調理したことないのに、いきなりジビエから入るのは挑戦し過ぎだ。


 仕方ないけど、このモンスターはここに置いてーー。


 そう思った俺の頭に、『料理攻略』『モンスター解体攻略』という文字が流れてきた。


 どうやら、『攻略本』を使えばこのモンスターも調理することができるらしい。


「京也様、どうされました?」


「いんや、リリィって猪の肉好き?」


「そうですね、私は特に嫌いな物とかはござません」


「じゃあ、せっかくだから休憩がてらこの猪でも食べるか」


「え、京也様は料理もできるんですか?」


「多分、としか言いようがないな。いや、料理するにもフライパンもないし無理――」


そんな俺の思考に反応するように、『冒険者攻略』『サバイバル攻略』といった文字が流れてきた。


 ……。


「でも、俺火の魔法なんて使えないから、火を使った料理もないし、あと調味料もないから味付けもできないーー」


そんな言い訳を作ろうとすると、新たに『基礎魔法攻略』『ダンジョン飯攻略』の文字が頭に流れてきた。


まるで、会話でもしているんじゃないかというような反応速度。


 ……分かったよ、作ればいいんだろ、作れば。


「そうですよね、調理器具もなければ調味料もありませんし、難しいですよね」


「簡単な料理しかできないからな?」


 俺はそう言うと、『サバイバル攻略』に書かれている通りに燃える物を集めて、『基礎魔法攻略』に従って火をつけて、『サバイバル攻略』に指示をもらって、平たい石を見つけてフライパンの代わりにしてーー。


 とにかく、猪料理を完成させたのだった。


 その後どうしたか? 知らん、『攻略本』に沿って作っただけだ。味の保証だって知らんからな。



「お、おいしいです。京也様はなんでもできるんですね」


「いや、そんなことはないんだけどな」


「ふふっ、ご謙遜を」


「いや、本当なんだが」


 というか、今の今まで俺だって知らなかったんだけど。何この便利すぎる『ギフト』。なんでも攻略本に載ってるって結構なチートなんじゃないか?


 こんな能力だって知っていれば、俺だってずっと三軍なんかにいなかったんだけど。


 ……ていうか、今まで気づかなかったっておかしくないか?


 こんな助けてなんとかえもんみたいに便利だったら、もっと早くにこの能力の神髄に気づいたはずだ。


 それなのに、俺はこの能力に今まで気づくことがなかった。いや、本当にそれだけなのだろうか?


 それにして、猪って旨いのな。家に持って帰りたい旨さだわ。


「確か、この系統のモンスターは下処理が下手だと臭みが出ると聞いたことがあります。京也様はどこかで料理の修業をされていたんですか?」


「したことないよ。ていうか、ちゃんとした料理作ったのも初めてだし。それに、初めてさばいたし」


「ふふっ、京也様ったら」


「いや、冗談とかじゃないんだぞ。本当だぞ?」


 俺がずっとボケてると思っているのか、リリィはまるで俺の言葉を信じようとしない。


結局、俺が弱かったことも信じようともしないし、このままだと俺強いモンスターに遭遇したときに見殺しにされるんじゃないか?


『殺されるとは思いませんでした』とか驚いた顔で言いそうだよな、リリィって。


「京也様ほど強い人間に会ったのも、久しぶりです」


「そっちこそ、冗談言うなよ。五万といるだろ、俺みたいな強さの奴なんて」


「ふふっ、京也様ったら」


 またしても俺の発言を冗談として受け取ったのか、リリィは上品な笑みをこちらに向けた。


なんかユーモアのある人としてリリィの好感度は上がってそうだが、この勘違いは早めに解いておいた方がいいだろう。


「冗談なんかじゃないって。ほら、これが冒険者カードな。ここに書いてあるだろ、レベル42――。42? ていうか、何だこのステータスは?」


 急にレベルが上がっていた事にも驚きだが、それ以上にステータスが馬鹿みたいに上がっていたことに気がついた。


 体力、攻撃力、魔力、素早さーーというか、全部上がり過ぎだろ。なにこれ、バグってんのか?


 そんな困惑する俺の顔を見て、リリィはきょとんと首を傾げていた。


 そのくらいのステータスがあるのは当たり前ではないか、そんなことがリリィの顔に書かれていたように思えた。


 まてよ、もしかして『攻略本』の能力が急に増えたのって……。

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