魔王様の悪行、善行?いや、どっち!?人間どもの領主がブラックすぎるせいで、占領した相手から感謝されまくるんだが?前世は過労死したので、魔王軍はホワイト経営で生き抜きます。

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話 ホワイトなほうがいいよね


 もしもゲームの世界に入れたら――そんなことを思ったことはないだろうか?


 ブラック企業で犯罪スレスレの違法労働に勤しむ俺にとって、唯一の安らぎが、ゲームであった。

 『ファンタジック・コンクエスト』俺のハマっていたゲームのタイトルだ。

 ゲームの内容としては、主人公である勇者が、魔王軍と世界の覇権を争うというもの。

 魔王軍と勇者軍、どちらが先にすべての領地を征服するかを競うのだ。


 俺はそのゲームに熱中した。

 仕事以外の時間はすべてゲームに費やした。

 もちろん、仕事はハードだったし、そんな体力は残っていなかった。

 だけど、それでもゲームにのめりこまなければやっていられないくらい、俺の会社は過酷な労働環境だった。

 当然、そんなめちゃくちゃな暮らしが長く続くわけもない。


 最初のうちは、多少無理してでもゲームをやる余裕があった。

 しかし、次第にそんな余裕もなくなっていく。

 仕事が忙しくなって、ゲームをやる時間も体力もなくなっていった。

 ゲームをやる時間や気力がなくなると、今度は精神がすり減ってくる。

 そんな状態で、死にものぐるいで働いた。

 だけど、それも長くは続かなかった。


 俺は、32で過労死した。


 もしもゲームの世界に入れたら――そんなことを思ったことはないだろうか?


 まさか、思わないじゃないか。

 『ファンタジック・コンクエスト』の世界に俺が転生してしまうだなんて……。


「やったああああああああ!!!! ゲーム世界転生キタコレ!!!!」


 目が覚めて、そこがどうやら『ファンタジック・コンクエスト』の世界だと気づくやいなや、俺はそんなことを思った。

 だが次の瞬間に、さらに目が覚める思いをすることになる。

 鏡をみた俺は驚いた。


「なんじゃこりゃああああああああ!!!!」


 そこに映っていたのは人間のそれではなく、魔族だった。

 青みがかった肌に、額から生えた角。

 俺は、『ファンタジック・コンクエスト』に出てくるラスボス、魔王の子供時代に転生していたのだった。

 いや、ふつう、転生するなら主人公である勇者とかにしてくれよ!?

 

 魔王に生まれてしまったっていうことは、よくよく考えてみたら、死ぬってことじゃないか?

 もしこの世界がゲームと同じ結末を迎えるのであれば、魔王は最終的に勇者に討伐されて死ぬ運命にある。

 だとしたら、俺はあと数年後に死ぬってことなのか……?

 そんなのはまっぴらごめんだ。


 過労死して、ようやく生き返った、転生したと思った矢先、最初から死ぬ運命が決まっている人生だなんて。

 死ぬときはかなり痛かったし、辛かった。

 あんな思いをもう一度味わうのなんてごめんだ。

 俺は、絶対に死にたくなんかない。

 だけど、このままゲームのシナリオに任せておいたら、破滅フラグまっしぐらだ。


「ん? 待てよ……?」


 ゲーム開始時、魔王はそれなりに歳のいった青年だった。

 だが、今の俺は15歳くらいの少年だ。

 つまり、まだまだゲーム本編が開始するまでは時間的猶予がある。

 だったら、あがくしかないじゃないか。

 黙って殺されるわけにはいかない。


「そうだ! ゲーム開始までに先に世界征服しちゃえばいいんじゃないか?」


 きっと勇者は今頃、村でのんびりと暮らしているはずだ。

 勇者が覚醒し、魔王軍と対立するのは今から10年後のこと。

 ゲーム本編では、最初は魔王軍のほうが優勢だったが、勇者がすさまじい勢いで勢力図を塗り替えていく。

 それが爽快なゲームだった。

 だが、もしゲーム本編開始までに、俺がすべての領土を征服してしまえば……?

 そうすれば、もはや勇者にできることなどありはしないのではないか……?


「そうだ。すべて征服してしまえばいい……!」


 魔族の身体だからだろうか、俺には人間に対する情などひとつもなかった。

 俺が生き残るために、人間には死んでもらおう。

 たくさんの人間を殺し、すべての人間の領土を我が魔王軍のものにする!

 いや……でもやっぱちょっと、人間を殺すのはさすがになぁ……?

 うん、やっぱ殺すのは敵の戦闘員だけにしよう。

 女子供は殺さない。

 

 勇者誕生までにゲームクリアとしてしまえば、俺が死ぬことはないはずだ……!

 それまでに悪逆の限りを尽くして、人間どもを恐怖のどん底に叩きのめしてやる!

 二度と勇者のような反逆者が出ないようにな!


「はっはっは……! ひれ伏せ世界……! 世界は我が手中にあり!!!!」


 俺はそう叫んでいた。

 ここに、若き魔王ディバルディアスが誕生した。

 俺の父、先代魔王ギュルグギアヌスはひどく喜んでいた。


「フハハハハハ! それでこそさすがは我が息子だ! まだ若いのに大したものだ。お前なら、我が成し遂げられなかった世界征服も夢ではないかもしれぬ……!」


 ということで、俺はさっそく世界征服に乗り出した。

 ……だが、その前に。

 まずは侵略の前に内政だ。


 魔王軍は、父の時代の古いやり方で運営されていた。

 パワハラは当たり前、残業は当たり前、無報酬や搾取が横行していた。

 とにかく、魔王軍はブラックすぎる……!

 ダメダメ、こんなんじゃ逆に効率が悪い。


 俺は地獄のようなブラック企業で働いていたからよく知ってるんだ。

 過度なしめつけは、逆に効率が悪くなる。

 もっと福利厚生をちゃんとして、働きやすい職場を作らねば……!

 俺は自分たち魔王一族への報酬などなげうってでも、部下たちの待遇をよくするようにつとめた。

 そして、魔王軍をホワイトに改革した……!


 さらには、父の代から残っていた幹部魔族による癒着や利権にもメスを入れる。

 俺の手腕によって、完全に効率のいいホワイトな、現代的な魔王軍に改革してやった。

 横領や腐敗した政治は、すべて断罪だ。

 おかげで、業績はみるみるうちに改善した。


「よし、これでいいだろう」


 父からは苦言を呈されたが、まあ見ていろ。

 俺のほうが正しかったと後でわかることになる。

 部下たちからは、当然訝しまれたが、おおむね好評のようだった。


「新しい魔王さまはわかってらっしゃるな」

「ああ、俺たちの待遇をよくしてくださった」

「いや、若いからなぁ。心配だ。こんな緩くていいのだろうか」

「もっと魔王軍には規律が必要ですぞ」


 様々な意見があったが、次第に結果は出始めた。

 その後の数か月で魔王軍の業績はうなぎのぼり。

 あらゆることが効率化されていった。


「やはり組織はホワイト運営に限る。ブラック企業……滅びるべし……!」


 そして俺は、いよいよ人間たちの領地へ、戦争をしかけるのである――。




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