懇ろなギャラリー
ちょうわ
第1話
彼女は私の目を褒めた。
くらいかげが落ちてるぞ、と。
そのように言う彼女の瞳こそ、深淵そのもの。
*
「一学期の終業式のときに言ったとおり、今日から転入生が来ます。自己紹介してくれ」
「はじめまして、藤崎ともみと言います。えっと、山口から来ました、好きなことはスマホゲームです。あの、よろしくお願いします」
「じゃあ、藤崎はあの空いた席に座って。ホームルーム始めます」
藤崎さんが前の方の席に移動するのを見計らって、委員長が号令をかけた。先生が話していることを聞き流しながら、転入生の後ろ姿をちらりと見る。最近落ち込むことがあり何にも興味が持てない私の心だったが、この子に関しては例外だったようだ。転校してきたのは、親の都合か、本人の都合か。なぜ? と疑問を持てる間は、まだ興味があるということだろう。
転校生が隣の席に来るというようなベタな漫画展開は起こらず、私とは対角線上にある遠い席に行ってしまった。人の隙間から見える背中はやや猫背だった。
彼女の自己紹介の姿を思い出す。ストレートの髪をきれいに切りそろえたボブヘア。黒くも白くもない肌。背は高くも低くもない。趣味はスマホゲーム。失礼かもしれないけれど、平凡な転校生。
刺激がないな。
転校生が来るというのは、創作の中の人物とは違って現実はそれほどドラマチックではない。平凡な日常に飽きてしまった高校生は刺激を求めてしまう。つまんねえな、と内心吐き捨てる自分がつまらない人間なのはわかっている。
「――話は以上。あいさつ」
「起立!」
朝のショートホームルームが終わったようだ。ガガガ、ギー、バラバラと、各々が椅子を引きずる音がして、覇気のないあいさつをすると、すぐに転校生に人が群がった。
そういえば、転校生の顔をちゃんと見るのを忘れていた。
騒がしい教室を出て、廊下を歩いた。廊下を歩く人はまばらだった。廊下には、生徒の汗と熱気がこもって蒸している。さっさとお手洗いを済ませて、教室に戻ると、転校生にたかる人は三人ほどにまで減っていた。
「転校生」とは、マンネリ化した学校生活に一つの刺激を与えてくれるものだろう。だが、実際、私のように人間嫌いの仮面を被った人間は、その「刺激」を遠巻きに見ているのが精一杯で、面白いことは回ってこない。あって、噂のしぼりかす程度だろうか。
人間嫌いに見える私には同じように人間嫌いを装う友達がいた。人間を好きだと言える部類の人間からあぶれただけの、孤独な人間が、孤独に耐え切れず作った友人だ。同じにおいを感じ合い、引かれ、会った。
そんな私たちは、遠くから転校生を見ていた。
「転校生のこと、どう思う?」
私は、彼女に尋ねた。
「どうって、どうも思わへん」
即答だった。それもそうだ、彼女は私よりも他人に興味がない。興味がすべて二次元に吸われたタイプの人間だ。スマホを器用に手に乗せ、指で高速タップしている彼女からこれ以上の言葉が発せられることはなく、私もスマホを手に取った。
LINE交換しよう、という声が聞こえてきてそちらに目を向けると、転校生のスマホが視界に入った。スマホカバーの種類なんていくらでもある機種なのに。——最悪、被ってる。
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