第1夜:反転攻勢

第1夜:反転攻勢

 私の名前は鐘倉美空かねくらみそら。都立錦糸中央高等学校1年2組5番整備科専攻兼対電波放送局整備課局員である。

 肩書は長いが学生兼軍属として日常を過ごして居る。

 激動の夜から1夜。私は2人部屋の居室を寂しく1人で過ごした。

 入学してから今日まで約10カ月。寝食、そして勉学を共にした親友城未来ぐすくみくるを失った。

 正確には拉致された。私達機関が対処する敵電波体バグ。その特異体によって。

 そして、城未来の存在その物も電波体バグであった。

 その日私に言い渡された辞令は整備課から操縦課への転向。

 今日まで整備の範疇で人型装機リンネを操縦してきた。私は未来専属メカニックなので、基本未来の訓練機を。もちろん突貫メンテで実戦配備機をメンテしたこともある。

 しかし人型装機リンネには操縦者アクタ―個人の癖が出る。それをAIが覚える。なので各個人専属メカニックがつく事になっている。

 また実戦配備されている2機の人型装機リンネにはそれぞれ英霊がAIに刻み込まれている。

 実戦壱番機 《シモ・ヘイヘ》。実戦弐番機 《新免武蔵藤原玄信》がそれぞれ搭載されている。

 このAIによって機体の性能が大きく変わる。壱番機であれば操縦者の特性相まって、遠距離狙撃が得意な機体となっている。

 そして私は歩行移動、腕部稼働等最低限の操縦は出来る。が、戦闘はもちろん操縦課ではないので未経験。

 初のシミュレーションもボロボロだった。餘目遥あまるめはるか曹長や噛崎熾織かんざきしおり1曹の援護がなければ即刻ゲームオーバーだっただろう。現状一致する特性の英霊なし。未来と同じ状態である。その為、私は上に懇願し、その遺志である未来の訓練機を自機としている。

 訓練機なので汎用AI。英霊は刻めない。それでも未来は沢山の事変を潜り抜けた。私もそれにあやかりたい。

 実際の所は急造している実戦参番機を与えられるはずではあった。が私が親友の機体で戦いと願い出たのだ。

 その為、急造はストップ。来るべき決戦に備え、新造参式人型装機として製造が再開した。

 私は1晩明け、またシミュレーターに篭もる。

 餘目曹長と噛崎1曹の指導を受ける。難しい。未来はこんな事をしていたのか。整備を頑張ってたけど、未来はもっとキツかったんだ。歩くのとは訳が違う。走ることが難しい。

 実戦では被害を考え、路駐は踏めない。走りながらスティールワイヤーをビルに突き刺す。これも難しい。巻き取りでバーニアを吹かせるがバランスを崩せばそのまま壁に激突する。

 シミュレーターだから痛くない。本番なら相当な衝撃だ。

 だめだ、上手くバランスが取れない。これが出来ないとビルに登れないから充電電波を受信出来ない。

 それではバッテリーパック含め15分しか稼働出来ない。

 もちろん動けばそれだけ早く電池は減る。

 早くこの技術を物にしなくては。

 《状況終了》

 シミュレーターを出る。

 2時間は篭っていただろうか。

 そこに餘目曹長がやってくる。

「鐘倉3曹、その、私は不器用だからなんと声をかければいいか分からない。でも、頑張りすぎは良くないぞ。焦る気持ちは分かるが。今は上の頭のいい人達が奪還作戦を詰めている。立案可決される迄の時間は悔しいが沢山ある。休みながらでも訓練しかない。」

「そう、ですよね。はい!鐘倉美空、程よく頑張ります!」

 さらに現れるのらりくらりな存在。

「ボクも居る。本番のフォワードはボクが務めるから、バックアップに全力を注いで。」

 頼もしい。未来はこんな仲間に支えられて今日まで戦い抜いて来れたんだ。今は私を局の皆が支えてくれる。

 さっきの餘目曹長のように気持ちを汲み取ってくれる人も居る。でももう泣かない。私は局長達の頭脳を信じる。

 そして立案された作戦に全力で臨む。

 それが私に出来る最善。

 まもなく暦上冬に差し掛かると言うのにまだ暑さの残る秋。

 格納庫内も作業している局員の熱気で軽く暑い。

 空調は効いている。が、暑い。

 明日予定されているオーバーホールメンテナンスの終了。

 格納庫は忙しさが垣間見える。

 休んでられない、オーバーホール手伝わなきゃ。

 私は立ち上がり訓練機へ向かう。

 すると、整備課局員がこちらに気づく。

「鐘倉3曹。なにしてるんだ?君は今や局の大切な操縦者アクターだろう?立派にパイロットスーツを着て訓練に臨んで居るじゃないか。こんな所で何してるんだい?」

 さらに整備班長が来る。

「鐘倉ぁ。作業着でもない、安靴も履いてない。そんな奴にメンテナンスやらせると思うか?自分の持ち場に帰んな。」

「で、でも。訓練機のオーバーホールは私も着手していた。途中で放りだすなんて……。」

 言葉は遮られた。

「整備班長、実は寂しがってるんだよ。鐘倉3曹が操縦課に異動になって。昨日は格納庫に帰ってきて泣いてましたから。せっかくの弟子が……って。」

「だから気にすんなって!俺等は俺等でやってく。鐘倉も負けんなよ!」

 励まされた。そして、悲しんでもらえた。私の存在は整備課の中で大きくなれた。

「ありがとうございます!がんばりますです!」

 そう答え私はシミュレーターへと戻る。

 今までお世話になった課。その別れは実の所寂しい。

 機械いじりが好きな私は整備が楽しかった。

 でも昨日からは私が動かす側。機関の矛となった。

 これからは発令所の指示に従い、現在稟議中である空の傷ゲートの向こう側への侵攻に従事する。

 簡単ではない、虚数と思われる幽世アチラガワの世界。私の頭じゃ詳しいことはわからない。これでも成績はいい方だが、それでも理解できない事象である。

「戻ったか鐘倉3曹。さぁシミュレーションを続けよう。」

「ボクも居るよ。フォワードの練習しようか。銃は……苦手だけど、できる限り教えるよ。」

 さぁもう一度だ。フォワードよりも前に基礎からだ。

 3人でシミュレーションマシンに乗り込む。

 鐘倉美空、汎用AIにて起動。

 餘目遥、英霊AI《シモ・ヘイヘ》にて起動。

 噛崎熾織、英霊AI 《新免武蔵藤原玄信》にて起動。

 事象選択。秋葉原事変にて事象開始。

 現場再現・完了。シミュレーションスタート。

 訓練は続く、作戦立案のその時まで。

 ――――――――――――――――――――

 錦糸町中央発令所。

 CICではセクション長が集まり城未来奪還作戦の審議が行われていた。

 一番のネックは空の傷ゲートの開閉。

 過去の事例をもとにある事象の検証が行われていた。

 意図的に開くことができるか?被害を出さずに閉じることができるか?

 一度中に入って閉じ、開き直すと繋がって居るのは果たして同じ世界なのか?

 これに関しては既に実験済み。朝から何度かトライして居る。

 空の傷ゲートに関してはこちらの意図で開くことに成功。鍵は視聴率。視聴率が高いほど空の傷ゲートが安定した。開いた所に偵察用ドローンを放つ。結果開いて居る間は中継用の楔を経由し、機能にアクセス、操作可能だった。もちろんドローンは人型装機リンネ同様、バッテリーパックと充電電波で動いて居る。問題なく電波は受信できた。

 但し、疑問点が発生。現世コチラガワの東京スカイツリーの充電電波を受信した。が、正体不明の充電電波もまた受信していた。それは幽世アチラガワの東京スカイツリーからの充電電波だった。

 これにより、裏世界の東京スカイツリーが稼働して居ることが判明。但しドローンカメラを何度送り込もうとも人の姿を捉えることは出来なかった。

 虚数空間であるが故存在が証明されず消失したと考える。

 城未来が拉致された際に打ち込んだミサイルは着弾・展開。

 その存在が現在、こちらの存在を証明する楔として機能して居る。また、人型装機リンネ小隊が突入する段階になったら機体同士、操縦者アクター同士の意識を相互リンクさせお互いの存在を証明し続ける事で消失を防ぐ。

 上手くいくかは分からない。が現状思いつく解決策は以上だ。

 そして、ドローンを送り空の傷ゲートを閉じる。

 そうすると無線通信は遮断。ドローンは操作不可、映像も途絶した。

 その後再度開いた時に信号を発信。壊れてない限り使えるようで、そのドローンは再度使用出来た。

 よって、万が一作戦行動中に空の傷ゲートが閉じてしまっても、開き直せば操縦者アクターが無事な限り作戦は続行可能である。

 城未来奪還作戦を詰めていく。

 バッテリーパック増設案もあったが、幽世アチラガワのスカイツリー電波が現状無尽蔵に放射されていることから1度議題から外す。

 急務は安全の確保そして、目標城未来の所在である。

 前者は現在もドローンをら送り続け周辺監視を継続している。

 現在の所撃ち落とされたり等の事故は起こっていない。

 むしろおかしい。電波体バグのである。

 電波体バグの本拠地と思われていた幽世アチラガワの世界は不気味な静けさを醸し出していた。

 次いで城未来の所在について。

 これは恐らく裏東京スカイツリーに囚われているものだと考える。

 電波体バグ騒動始まりの柱、《東京スカイツリー》その裏世界。

 憶測だが恐らくここに囚われている。

 現在ドローンは押上地区まで到達していない。

 よって確証は得られないが、まず間違いないだろう。

 ドローン投入実験は続けられる。だがここで異常を観測する。

 戦術作戦課より声が上がる。

「観測ドローン撃墜!最終記録映像出します!」

 来た。遂に現れた。居ないはずないんだ。

 奴らの世界だ必ず居る。

 ドローンが撃墜された瞬間の映像がメインモニターに映し出される。

「なんだよあのデカブツ……」

 東海林副長が漏らす。

 50m級はあろうかという巨大な特異電波体バグスターが映っていた。

 それは裏スカイツリーを護るかの様にその膝元に。

 そして絶望する。

 等間隔。距離を空け合計3体の特異電波体バグスターが裏スカイツリーを守護していた。

 残り2体は蒸気だろうか?常に煙を出していた。

 あのデカブツを3体相手取らないといけない。

 何機かドローンをぶつける。反応があるのは正面先程の個体のみ。それぞれがそれぞれの持ち場を持ち、対応した場所に現れた敵を無差別に破壊しているものと推測する。

 であれば、1体ずつ確実に仕留めればいい。

 微かだが、勝機も見いだせる。

 あとはこちら側の問題だ。

 操縦者アクターの練度である。

 遥と噛崎さんは実戦経験もある。常にシミュレーターを使用し練度を高めている。

 鐘倉さんがどこまで食い付けるかがキモである。

 自衛隊から招集した方が良かったかもしれないが。

 鐘倉さん自身のケジメ。そして、あの日感じた彼女からの可能性。それに賭ける事にした。

 だからあの時、私は鐘倉さんを操縦課に転向させた。

 そして見極める必要がある。新章新たなる人型装機リンネ小隊の可能性を。

 さて、裏世界については一段落、結論は出た。

 CIC局員に話しかける。

「すまない、格納庫シミュレーターの映像を出してくれないか?」

「了解しました、モニター回します。」

 程なく、メインモニターは全面シミュレーター俯瞰画面となった。

 赤の訓練機。あれが鐘倉さんか。

 基礎動作でもたついている。スティールワイヤーが上手く壁面に刺さらない。

 刺さってもバーニア噴出でバランスが保てず巻き取りで壁にぶつかってしまっている。

 元から操縦科志望ではなかった。整備科専攻だったので。

 昨日の今日で動かせるはずは無い。寧ろ、整備科、課の経験のお陰で最低限度の歩行、腕部稼働、兵装使用はできている。

 立体的な機動が苦手なのだろう。

 あれは習得するのにかなり時間がかかるという。

 それを短期間でマスターしなければならない。

 城未来が電波体バグだからと言い、飲まず食わずでどこまで耐えられるか分からない。

 可及的速やかに作戦を発動しなければならない。

 焦ってるのはこっちも同じか。

 頑張ってくれよ、鐘倉さん。

 ――――――――――――――――――――

 夕刻、格納庫。

 《事象終了シミュレーション完了》

 噛崎1曹の補充により1機追加したシミュレーター。

 3機全機のハッチが開く。

 空調は効いて居る。汗だくの鐘倉さんが降りてくる。

「はぁ、はぁ……まだまだ……っ!」

 そこに餘目曹長と噛崎1曹が降りてくる。

「鐘倉さん、ボクたちみたいになろうとするのは凄く嬉しいし、いい事なんだけどさ、無理は良くないよ。」

「そうだ。急ぎたい気持ちはわかるが、より確実な技術を身につける必要がある。もう4時間ぶっ通しじゃないか。今日は休もう。」

 でも、と言いたげな鐘倉3曹にドリンクが投げられた。

「ほら、それでも飲んで落ち着いて。倒れたら意味ないでしょ。」

 ドリンクをキャッチ。口をつける。

 そうだ、落ち着け。未来の様になる必要はない。

 未来に近づければいい。まずは死なない様に動かすんだ。

 何より身につけるべきは立体機動。人型装機リンネ運用の生命線。

「あの、どうすれば立体機動を使いこなせますか?私全然ダメで。」

 2人は顔を見合わせそして答えた。

「ボク達はもう感覚的にそれをやっちゃってるからなぁ。餘目曹長なんかは説明下手だろうし。困ったな。」

「悪かったな。説明下手で。うーんそうだな、重心を意識する事かな。腕部で巻き取り全身のバーニアを併用し機体のバランスを取る。……としか、言えない。あとは慣れしかない。」

「重心……なるほど。明日は意識してみます。」

 格納庫ベンチに座り3人でドリンクを飲む。

 あぁ、未来にはこんな時間が流れていたんだな。

 3人で肩を預け合い、休む。

 いい時間だ。この時間を未来に返したい。

 余暇を堪能していたその時、全館放送が鳴る。

操縦者アクター3名は至急、中央発令所へ出頭を命じます。以上。』

 来た。作戦が決まったのかもしれない。

 3人で頷き立ち上がる。各々ドリンクをダストボックスへ投げ入れる。

 発令所に向け走り出す。

 今まで私が整備課としてみていた光景。今は私が走って居る。

 私の全てが未来に繋がる。

 ――――――――――――――――――――

 夜の錦糸町中央発令所。

 局員は交代。昼夜2交代で常に東京全域を監視して居る。

 CICには各セクション長。局長に副長。

 発令所のドアを開け、3人は中に入る。

「待っていたわ。訓練は順調?」

 その言葉に表情は濁る。

「そんな事だろうと思ったよ。俺が明日直接見てやる。」

 あの副長に直に教育を受けられる。

 操縦課であれば滅多にない事、大イベントである。

「あの、ありがとうございます……すいません。私が不甲斐ないばかりに……。」

「鐘倉さんは悪くないわ。いきなり辞令を出した私も悪いしね。」

 さて本題に入ろう、と局長。

 今日得た確信を3人に話す。

 返ってくる反応はまぁおおかた予想通りだった。

 城未来の所在については鐘倉さんが食い付いた。

「本当に!裏スカイツリーなる場所にいるんですね!?」

「あくまで暫定よ。それを守護する様に鎮座する個体。そこに居る事を示唆して居る様に見える。し、逆に誘って居る様にも見える。」

 50m級の個体。それが3体。おそらくそれぞれがそれぞれ固有の能力を有する参型電波体バグサードであろう。

 今まで未来も誰も相手にしたことが無い参型。

 弐型で街を吹き飛ばす犠牲を払うレベルの個体。

 私で戦いになるのだろうか。否、達するのだ。その域まで。

「それと注意が一点。城さんの栄養事情です。電波体バグと言えど栄養が必要では無いでしょうか?その辺り何か知りませんか?鐘倉さん。」

「そういえば……入学の時、エネルギーバーしか食べてこなかった。こんな料理は初めてだって言ってました。だからその、食事という行為に意味はないのかもしれません。」

 なるほど、では危険を冒して急ぐ必要はない、か。

 であれば鐘倉さんの人型装機リンネの習熟を待っても遅くはない。よかった。

「では作戦発動を1ヶ月後とします。その間操縦者アクターは相互リンクの実証実験含め訓練にそれぞれ励む様に。戦術作戦課は引き続きドローンによる広域偵察と参型電波体バグサードの詳細観察を。」

 決戦開始まであと1ヶ月。私はそれまでに最低限戦える様にならないといけない。

「作戦の大まかな流れはまず、3体の参型電波体バグサードをそれぞれ撃退。その後裏東京スカイツリーを登り城未来を奪還する。全4段階である。」

 作戦の詳細が決まっていく。

 私はその作戦に従事できる様にしなくては。

 明日の東海林副長の指導。毎日の教練。どれも無駄にしない。

 私は未来を自身の手で取り戻すんだ。

「あとは懸念点。現在意図的に空の傷ゲートの開閉を行っていますが、なぜか観測特異点ノイズを出しても電波体バグが出現しません。作戦が始まれば人型装機リンネは全機虚数空間へと行ってもらいますので、その間は自衛隊へ災害派遣を依頼し、盾として江都東京を守って貰います。では以上になります。解散。」

 今日はもう9時を回る。遅くなったが帰寮しよう。

 居住区に住む餘目曹長と噛崎1曹に今日のお礼を告げ、足早に発令所を後にする。非常階段を駆け上がり、錦糸中央高等学校のエントランスへと出る。そのまま外へ出て寮へと向かう。

 私が対電波放送局に入ってから、学生と帰寮の時間が異なる。

 毎日同じとはいかない。それでも寮の関係者達は、私の為に遅くまで待っていてくれる。

 食事、半長靴の研磨、入浴を済ませる。

 急ぎ部屋へと戻る。

 いつもなら2人で一緒に帰ってきた。10ヶ月もの間毎日。

 今は1人。

 未来の机に座る。机を撫でる。思いを馳せる。

 現在未来は局長指示で、あらぬ噂にならぬ様、実習の為朝霞駐屯地へ出向して居ることになっている。

 机に伏せる。

「未来……私はあの時迷ってしまった。でももう迷わない。私は貴女の存在を証明するから。」

 立ち上がり、未来のベッドに横になる。

 昨日まではここには未来がいた。未来の匂いがする。

 同じシャンプーなのに人によって微妙に匂いが違う。

 いい匂いがする。ちょっと変な人みたい。照れてくる。

 それだけ未来は私の中で大きな存在だった。

 過去にはない新しい友。大切な大切な親友。

 ベッドにうつ伏せになり大きく息を吸い込む。

 そして決意する。次は必ずあの手を掴むと。

 恥ずかしくなり、自分のベッドへ戻る。

 明日からはまた立体機動の訓練。まずはこれを乗り越える。

 コツは聞いた。明日は副長の教練がある。絶対できる。

 そうして私は眠りについた。

 ――――――――――――――――――――

 作戦決行まであと15日。

 シミュレーターでの訓練は続いていた。

 東海林副長の指導のおかげで立体機動は物にした。

 1週間かかったが、ビルへの飛び移り、高速機動、スティールワイヤー関連の動きを一通りマスターした。

 鐘倉美空の執念である。城未来を救いたいと言う気持ちの現れである。

 今日からは、小隊としての動きを練習する。

 フォワード、バックアップ。

 それぞれの役割を明確に。

 そして精神の相互リンクについてである。

 虚数空間での存在証明。最も重要な部分である。

 頭部にインターフェースを装備。

 受信した脳波を中継機を介さず、直接機体間で共有する。

 流れてくる意識を認識する。

 そうして互いを承認し合う事で存在を証明する。

 インターフェースを急造中。理論は完成していたのであとはハードのみである。

 作戦開始までは、インターフェースの機能をシミュレーターに組み込み教練する。

 これが、気分が悪い。

 頭の中に常に他人の思考が流れ込んでくる。

 自分が思っていることが流されていく。

 意識を外に向ければすぐに相互リンクが切れる。

 それ即ち、意味消失を示す。

 この違和感に慣れなければならない。

 違和感を感じながらの戦闘教練。

 身が入らない。意識が纏まらない。

 かなり難しい。操縦に向ける意識と感じる想いに対する意識。それを同時に処理しないといけない。

 鐘倉3曹だけでなく餘目曹長や噛崎1曹も初体験の為、苦戦しているようである。

 その上2人は英霊AIの演算処理も相手にしないといけない。

 私なんかよりさらに高度な事をしないと行けない。

 それでも私は食らいつく。どんな訓練も食らいつく。

 目の前の操縦に集中しつつも、流れてくる感情にも意識を向ける。

 まずは走るだけ。徐々にターゲットを出し破壊する。

 メリットもある。この相互リンクは他者が感じた事も感じ取れる。

 例えば小隊列をなし進軍。フォワードの噛崎1曹が見逃した敵をバックアップ餘目曹長が、見つけたとする。

 認識が共有され、無線がなくても噛崎1曹がその存在を感じ取れる。

 幽世アチラガワにて、倒すべきは3体の特異電波体バグスターだが、周りから通常個体が現れるか分からない。

 バックアップ含め全方位警戒がより重要となる。

 刻一刻と迫る作戦決行の時。間に合わせるんだ。

 ――――――――――――――――――――

 作戦決行まであと6日。

 1週間を切る。

 この頃になると、相互リンクの意識の共有も無意識に処理できるようになってきた。

 もちろん基本動作。歩行、走行、立体機動。各種兵装の使用・デメリットに至るまで頭に叩き込んだ。

 餘目曹長や噛崎1曹とのコンビネーションも形になってきた。

 未来と同じ、私はバックアップもフォワードも努められる立ち位置である。

 1日10時間近いシミュレーション。

 もちろんシミュレーターでは得られないを感じる為に、格納庫内で訓練機を歩行させたり腕部稼働させたりして居る。

 電波体バグが出現したわけでも避難させた訳でも無いので、地上で運用は出来ない。練習したいが流石にそういう訳にはいかない。

 未来が拉致された日。私は無許可で館内に残り、無許可で汎用機に乗り込み、無許可で地上を走った。

 もちろん罰はあった。1ヶ月。作戦決行まで、決して訓練を諦めない事。投げ出さない事。最後まで成し遂げる事。

 それが私に課された罰である。

 もちろん私は成し遂げる。絶対に未来を助け出す。

 でもそれが私の正義と誤解していた。

 局長に諭された。真の正義とは己の事を強く強く信じ抜く事。

 私は私を信じていなかった。でも今はみんなが信じてくれる私を信じてる。

 大丈夫私はやれる。なよなよした自分とは入学してさよならしたんだ。

 シミュレーターから出る。

 一度休憩を挟む。

 ドリンクを手に取り水分を補給する。

 餘目曹長と噛崎1曹は現在実戦機に搭載されて居る英霊AIの性能を高める為、自分を追い込んでいる。

 餘目曹長は精密な遠距離狙撃。

 噛崎1曹は精神統一なのだろうか。外部映像では刀を構え、電波体バグと対峙しお互いに動かない。

 あれはなんなんだろう?剣術に精通しないから理解できないが、動かない?いや、動けないのだろうか。

 剣の極地に達した者のみが体感できる空間なのだろうな。

 器用貧乏な私には到底知り得ない所だ。

 私の訓練機……正確には未来の訓練機にはスナイパーライフルも刀も装備されていない。

 装備は標準の高周波ナイフとリコイルライフル、頭部チェーンガン、スティールワイヤー。のみである。

 弾倉嚢にはAP弾徹甲弾HE弾榴弾、浸蝕対電弾を装備。

 THE基本である。

 だからこそバックアップもフォワードもつとまるのである。

 あとは操縦者アクターの技量がついてくれば訓練機でも申し分ない性能を発揮できる。

 私はもっと頑張らないといけない。2人の足を引っ張らない様に。

 訓練に戻ろう。ドリンクをダストボックスへ投げ入れシミュレーターに戻る。

 さぁあと5時間頑張ろう。

 ――――――――――――――――――――

 作戦決行前日。

 錦糸町中央発令所。

 あれから常に空の傷ゲートを開き、ドローンを送り続けた。

 裏錦糸町周辺索敵。

 周辺に人、電波体バグの感なし。

 建物も倒壊していない。まんま裏世界である。

 そこから直線でスカイツリーまで索敵。

 結果見つかったのは先述した3体の特異電波体バグスター。なぜかそれ以外の個体は見当たらなかった。

 東武スカイツリーライン・とうきょうスカイツリー駅近辺に1体。東京メトロ半蔵門線・押上駅近辺に1体。そして東京スカイツリー西交差点近辺に1体。それぞれ鎮座して居る。

 こちらからコンタクトを図ろうとしない限り害はない。

 肝心の裏スカイツリーは索敵不可。どの方角からアクセスしても特異電波体バグスターに墜落された。

 これはもう核心である。城未来と猫はこの柱にいる。

 作戦決行は明日である。余程のトラブルがない限り1週間以内。全行程4日を予定している。

 各特異電波体バグスターにそれぞれ1日。

 城未来奪還で1日。計4日。予備日含めて1週間を予定している。

 まず目指すは錦糸町より直線で最も近い、押上駅の個体。

 目標体αアルファ

 ついで西交差点付近の個体。

 目標体βブラボー

 最後にとうきょうスカイツリー駅近辺の個体。

 目標体Cチャーリー

 以上の順番で攻略する。

 ブリーフィングを開始する。各セクション長、操縦者アクターを集合させる。

『全館通達。各セクション長、操縦者アクターは至急中央発令所CICまで出頭を命じます。以上。』

 程なくして、関係各所から呼び出しを受けた者が集まる。

 やがて局長が切り出す。

「集まってくれてありがとう。長い時間をもらったけど、城未来奪還作戦について作戦が詰まったので共有します。詳細は後ほど各手帳にも送信します。結論から言います。やはり城未来は裏東京スカイツリーに囚われている物と思われます。それに際して問題は3体の特異電波体バグスター、これを錦糸町から近い順に攻略します。まずは見た目上これといった特徴がない物と思われますが、実際はコンタクトしないと分からないでしょう。ドローンでは限界がありました。」

 作戦会議が始まる。決行は明日。今日までに分かった事、懸念事項、注意点等を纏めていく。

「残り2体は蒸気と思われる物を常に放出しています。これもドローンでは調査不足となります。申し訳ない。予備日を含め1週間以内の制圧を目指します。」

 そこに副長が続ける。

人型装機リンネ小隊は俺が教練した事を忘れないでほしい。汎用的な事にはなるが俺の全てを教え込んだつもりだ。」

 副長は忙しい作戦立案の合間を見て操縦者アクター特に私の事を丁寧に指導してくれた。おかげで1人前とは行かずとも、シミュレーター相手に十二分に戦える様にはなった。

そして最後に局長が話す。

幽世アチラガワへ旅立つ戦士に尊敬の念を込めてKnight of Träumereiナイツオブトロイメライ。そう、《未来を救う夢を抱いた騎士たち》へと叙勲します。」

 明日を意味する《未来》と仲間を意味する《未来》そのどちらも救う騎士となった。

 後戻りはできない、否するつもりはない。私たちは進む。

 城未来へ向けて。真っ直ぐに。

 その障害も乗り越えて。

「また、作戦決行は夜間、7時頃開始を予定。これは視聴率の安定を狙った為です。本日の会議はこれまで。各自作戦開始に備え英気を養う様に。以上解散。各々その魂魄を賭し尽くす様に。」

 1人、また1人と発令所を後にする。

 我等操縦者アクターも後に続く。

 帰寮の前に最後の調整に格納庫へ戻る。

 片膝立ちの人型装機リンネが4機並ぶ。

 訓練機・汎用機・実戦壱番機・同弐番機。

 現状対電波放送局が保有する最大の戦力である。

 私は訓練機に近づきワイヤーロープを使いコックピットブロックへと入る。

 コックピットに高さを合わせた作業台から整備課局員が顔を覗かす。

「鐘倉3曹、シミュレーションでフィードバックされた癖はAIにインプット済みです。微調整をお願いします。」

「はいです!ありがとうございます!」

 コックピットに座る。生徒手帳を差し込み起動する。

 メインカメラ、両目に光が灯る。

 モニター類、コンソールが光り出す。

「ようやく出番だね。一緒に頑張ろうね。」

 オープン回線で呼びかける。

「すいませーん。鐘倉です。腕部動かしますので退避してください!」

 了解と局員から無線が入る。

 モニターには撤収作業をする局員。

 そして、実戦機に乗り込む2人の姿。やはり最後の調整に来たんだ。

 退避完了どうぞと、無線を拾う。

 訓練機は立ち上がる。

 腕部を振り上げる。うんしっかり反応を拾っている。

 ついで手指。コンソールを握る。

 訓練機の手も握られる。これもよし、反応通り。

 ついでメインカメラ。通常・望遠・夜戦。それぞれ切り替える。

 カシャカシャ音をたてて目が切り替わる。

 夜戦モニターは緑一色。小岩事変の際は未来はこの視界で戦ったのか。

 今回の作戦は夜間。それも仄暗い裏世界での戦い。基本夜戦モニターになるだろう。

 これもシミュレーターで何度も訓練した。見方、AIの発するアラートを絶対に聞き漏らさない事。

 よし、これも大丈夫。

 カシャっと音をたて機体の目が通常の白へ戻る。

 兵装選択、高周波ナイフ。両腰に1本ずつ計2本ある。よし。

 弾薬選択、AP弾徹甲弾HE弾榴弾、浸蝕対電弾。

 よし。全て装備済み。特に浸蝕対電弾は小型には驚異的な威力を誇るが、その分弾数が少ない。量産が間に合わないのだ。

 その分他の弾で戦うが如何せんバリアを剥がせなければコアにアクセスできない。一長一短である。これもよし。ライフルに予備マガジンも装着してある。

 最後、頭部チェーンガン。今まで活躍の機会はなかったが、これはこれで重要な装備。近距離防御システム。言うならば小型CIWSである。弾倉よし。

 兵装オールグリーン。異常無し。怖いのは排莢噛みジャム。未来もこれに苦しんだ。上官を危険に晒してしまった。

 落ち着け。落ち着いて対処するんだ。……よし。

 再度片膝立ちになり、電源を切る。

 システムシャットダウン。生徒手帳排出。

 ワイヤーロープを使い地面に降りる。

 ちょうど2人も終わった様で、降りてきた。

 時刻は夜8時。私はある提案を2人……と局長に投げかけた。

 手帳を局長に繋げこう言い放つ

「一緒にお風呂入りませんか?寮の大浴場に。」

 最初はみんな戸惑っていた。それはそうだ。いきなりお風呂に誘われるなんて。特に餘目曹長なんかは局長命令でもないと動かないだろう。

 手帳からは副長の声も聞こえた。

「発令所は俺が見とくよ、行ってきな?」

「そうね、ありがと、では全館指揮委譲。いってくるね。遥も噛崎さんも居るでしょ?聞こえてるよね?今すぐ居住区へ戻りなさい。準備して行くわよ。鐘倉さんは寮の談話室で待ってて。」

 約束は取り付けた。

 じゃあ先に行ってますを言い残し、足早に格納庫を後にする。

 非常階段を上り学校エントランス。

 守衛に挨拶し学校を出る。

 校舎を回り寮へと戻る。

 自室で入浴セットを用意し談話室へと進む。

 事前に寮母さんに許可をもらう。もちろん快く快諾してくれた。

 実の所寮母さんも局員。手帳で既に局長から連絡を受けていたらしい。

 もちろん明日から発動する作戦についても承知済み。

 今日のご飯は心なしかいつもより豪華らしい。お風呂上りが楽しみである。

 程なくして、局長、餘目曹長、噛崎1曹が寮へやってくる。

「へーすごい寮だね。ボクの居住区居室よりずっとよさげ。」

「まぁ学生にはいい生活させときたいからね。」

 みんなを連れて大浴場へと向かう。

 途中すれ違った生徒から理事長先生がいると声が聞こえた。

 そうだ、局長でありながら学校理事長だった。

 皆は局長面を知らない。

 局の偉いのが来ると話されていたらしく。皆の注目を集める。

 私は偉くないのに会釈される。恥ずかしい。

 脱衣所につき各々服を脱ぎ始める。

 ふと局長を見る。夏の時の私服と言い可愛い。

 餘目曹長は、うんTHE普通。リクルートウーマンのそれである。

 私も人のこと言えないが。

 そして噛崎1曹。うんうん、制服と同じフリル沢山。

 みんな個性的。

 そういえば未来は毎日私とお風呂だったからみんなとは入ったことないんだよな。

 連れ帰ったらまたみんなでお風呂に入ろう。

 そうして準備を整え浴場へ出る。

「うわぁ、すごい。駐屯地の浴場と大違いだ。」

「そうね、駐屯地のは最低限風呂の機能がある程度だものね。」

「私も普段シャワーですので。久しく浴場というものを忘れていました。」

 餘目曹長予想通り湯舟にはつからない人だった。

「さぁ皆さん入りましょう!寮母さんが気を使って貸し切りにしてくれました!」

 かけ湯をし、一番大きな湯船につかる。

 あったかい。温度もだし、やっぱり誰かと一緒なのが大きい。

 この1カ月私は局に詰めている時以外1人だった。

 常に2人で行動していたのに、急に独りぼっちになった。

 冷めた心が溶けていく。

「さぁさぁ鐘倉さん、明日からは大事な作戦。私は発令所から見てる事しか出来ないから。今日は頭を洗ってあげる。」

「そそそそ、そんな局長にさせられませんよ!」

 いいからいいからと湯船から引っ張られる。

 椅子に座りシャワーをかけられる。

「目閉じててね。」

 こうなればもう言われるがままだ。

 目を閉じる。とその分聴覚が敏感になる。

 聞こえてくる。

「ボクも頭洗って~曹長~」

「一応上官だぞ……しかしまぁいいか。ほら、座れ。」

 あっちも楽しそうだ。

 髪を洗い終わり濯ぐ。

「大丈夫?洗い残しはない?」

「はい!ありがとうございました!」

 うんよろしいと局長。

 その後も滝湯や岩盤浴を楽しんだ。

 大浴場から出た後、みんなで食事をとることにした。

 局でも補給課が栄養バランスの取れた食事を提供しているが、寮で食べるのもまた別格。

「普段レーションばかりの貴女でも今日ばかりはしっかり食べましょうね。」

「はい……さすがに美味しいですね。」

 レーションって、野営行軍とかじゃないんだから、普段からしっかり食べて欲しい。なんて口が裂けても言えない。

 私はしっかり大盛をたいらげる。そういえば局のBBQ以来のみんなの食事だが、あの時は沢山の局員が居たので気にされなかった。

「貴女そんなに食べるのね……。」

「どこにそんなに入ってるんだお前……。」

 若干引かれた?まぁまだまだいけますけどね。

 時刻も夜9時。そろそろ解散である。

 そこで噛崎1曹がこんな事を言い始めた。

「局長、あのね、今日寮に泊まっていいかな?鐘倉さんの部屋空いてるでしょ?」

「……うーん、私は構いませんが鐘倉さんは?」

 少し考える。未来のものはそのままにしておきたい気持ちもある。

 でもきっと何か意味があるんだろう。

「はい!大丈夫です!」

「じゃあ決まりね。鐘倉さん、噛崎さんをよろしく。明日の集合は手帳で召集かけます。それじゃあまた明日ね。」

 局長とくまさんパジャマの餘目曹長は局の居住区へ帰っていった。

 くまさんなんか着るんだ。

 2人残される。部屋に案内しよう。

「あの、こちらです。」

「敬語なんて良いのに、今は勤務時間じゃないよ?無礼講無礼講。」

 流石にそういう訳には行かない。

 それにそれ宴の場の言葉じゃないかな。まぁいいや。

 談話室を抜け、階段を昇る。

 203号室。その扉を開く。

「ここが私と、未来……城1曹の部屋です。」

「だから、いいってば。ならば上官命令、ボクには普通に接して。」

 くっ、出たな上官命令。従わざるを得ない。っていうか狡くないか?まぁ私も曹だから士には命令出来るけど。

 噛崎さんは未来のベッドに座る。

「ここが2人の居室か。局の居住区なんかより余程いいね。あそこは無機質に、ベッドと机、官品用の棚。そんなもんだし。」

 意図が分からない。何故作戦決行前夜。大切な夜に自室ではなく、私達の部屋に来た?

 からかい……は流石にないか、子供じゃあるまいし。

 激励?なキャラでも無い。失礼か。

「あの、噛崎……さんは今日どうして私達の部屋に?」

 彼女は布団を敷き始めていた。

 嗚呼、私が現状維持していた布団が。いい匂い……いや、そうじゃない。

 可愛らしい寝間着を着ている。フリフリ。リボン。

 噛崎さんはほんとに可愛い物が好きなんだな。

 いやそうじゃない。今日来た理由だ。

「噛崎さん……?」

「ボクはね、孤児ではないんだけど、孤独ではあったんだ。」

 突然噛崎さんが始めた。

「このなりじゃない?実は自衛隊入ってからなんだ。それまでは家の道場に通い詰めだった。可愛さなんて無い。剣道に打ち込む日々だった。そんなある日剣道以外の剣術に出会った。二天一流。そう新免武蔵藤原玄信・かの有名な宮本武蔵だよ。」

 それは噛崎さんの過去であった。

 宮本武蔵は実戦弐番機に搭載されているAIだ。

「一目惚れだったよ。兵法二天一流剣術に。私は学校も家も放り出して、二天一流に弟子入りした。そこで学んだ。その剣術を。ボクが使う2対の刀、あれは師匠の愛刀。辞世の句から名付けたんだ。剣道も段位があった。その上二天一流を覚えた。剣士としては大分有名になれた。」

 そんな過去があったのか。最初から強いわけじゃない。

 訓練を積み修行を積み今に至るのだと。

「学校ほったらかしにしたからさ、成績悪くて。そんな時に自衛官学校の募集を見たんだ。体力はある、ついて行けるんじゃ無いかなって。まぁ現実厳しかった。今でこそ朝は起きれるけど起床ラッパは慣れないし。大変だった。そんななかある日突然可愛いものに興味が出た。理由はわからない。今までの反動かな?」

 自衛隊に入った理由。

 やっぱりここの学生と同じ基本教練に慣れないんだ。

 私も10ヶ月近く経ってようやく形になってきた。

 遅い方だとは思う。

「それでさ、可愛い制服とか上に具申したのよ。まぁ却下よね。テッパチも半長靴も見えないところフリルつけてみたりね。いろいろやったんだ。そりゃさ、異端だもの私には近しい人が居なくなった。独りぼっち。訓練はちゃんとした、でも独りぼっち。」

 独りぼっち今の私と同じ。過程は違くてもおんなじ独り。

 噛崎さん明るいからみんなから人気あると思った。

「そんな独りぼっちも災害派遣用の人型装機リンネの操縦訓練が始まった。そこで東海林副長に出会った。原石だっていって引き抜いてくれた。そして最近局に入った。そこで私はかけがえのない友を得た。私の可愛さを肯定してくれた。なんなら一緒にコックピット内を装飾してくれた。それが城未来。階級は違えどすぐに仲良く慣れた。城1曹のおかげで難しそうな餘目曹長とも仲良く慣れた。」

 未来が出てきた。噛崎さんとはそんなことがあったのか。

 だいたいコックピットブロックの装飾って、整備課発狂だろうな。

「だから私にとっても城未来はなくてはならない存在。自分の存在意義、可愛さを初めて認めてくれたから。その後は局長もなんだかんだ許してくれて、今あんなフリフリな制服着てるんだ。って話下手くそか。あのね、言いたい事は、城未来の奪還はあなた1人の責務じゃない。私の願いでもある。そう言いたかったの。」

 なるほど、未来は人を蔑ろにしないもんね。

 未来らしい。でもそんな未来が好き。

 私1人の者じゃないけど、未来を評価されて嬉しい。

 そうだ、私1人で戦うんじゃないんだ。

 みんながみんなそれぞれ未来に思いを馳せて戦いに臨むんだ。

「あの、ありがとうございます。過去の話までしてもらって。」

「ごめん、話下手すぎ忘れて。城1曹の事以外……。」

 ふふふっと笑みが溢れる。面白い人だ。

 この1ヶ月毎日一緒に訓練した。

 それも意識感覚を共有して。

 噛崎さんの感情も餘目曹長の感情も垣間見た。

 それぞれの未来への想い。確かに受け取った。

 部屋の電気を消し噛崎さんと私は就寝準備を済ませ布団へ入る。

「後最後に。ボクの事信じてほしい。意識共有でみんな信じ合えた。分かり合えた。あとはそれを作戦にぶつけるだけ。それじゃおやすみ。」

「そうですね。明日の夜作戦決行です。後戻りはできません。進みましょう。おやすみなさい。」

 こうして私たちは意識を手放した。

 明日は城未来奪還作戦その第1日目である。

 決して失敗できない。絶対に連れて帰るんだ。

 ――――――――――――――――――――

やつがれに着いて来て貰ってすまない。詳細は話した通りだ。やがて君を連れ戻す為、彼らはこちら側へ来るだろう。あとは女王オカアサンがどう出るかだ。もう少し耐えてくれ。城未来。』

 ――――――――――――――――――――

 遂に始まる城未来奪還作戦。

 その第1日目。東京メトロ半蔵門線・押上駅に鎮座する特異電波体バグスターを目指し空の傷ゲートを通り幽世アチラガワへと侵攻を開始する。

 城未来の待つ空の柱、裏東京スカイツリーは遥か先。

 対電波放送局の全てをかけた総力戦が今始まる。

 次回、《Alpha-光と影、そして影》

 私は行くよ、待ってて未来。

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