【完結】ドローンを連れた警護ロボットは異世界では魔術師に見えるようです

もーりんもも

第1話 警護ロボット

 シェリバンジュ夫妻は、来月十五歳の誕生日を迎え、晴れて成人となる娘のために警護ロボットを選んでいた。

 バーチャルではなくリアルでのショッピングは妻の希望だ。出張先からの帰路、長くカプセルに入っていたせいだろう。


「これだと留守番ペットとそう変わらないわね。こっちは警護というよりも兵器に近いわね。うーん」


 妻は受付で渡されたタブレット上で、必要最低限の機能をタップし、表示されたモデルを順に見ている。

 夫の方は、娘と密かに交わした約束を思い出し、なんとか目当てのモデルに妻を導こうと苦戦していた。


「あのさ。えーと。やっぱり成人後は、訪問星系の範囲も広がる訳だから、できるだけハイスペックのものを――」


 夫の方を見向きもしないでタブレットの上を滑らせていた妻の指が止まった。


「あら、これ! 懐かしいわ。私が成人した時、両親がプレゼントしてくれたモデルよ。今でもあるのね」


 いい頃合いだとみて、接客ロボットが初めて口を開いた。


「こちらはロングセラー商品でして、去年フルモデルチェンジを行いロイド2として発表したものです。アライアンス内の惑星については、標準マップに種族別分布や犯罪発生情報等、常に最新データにリフレッシュされる仕様になっています」


 夫は固唾を飲んで妻の表情を探った。ただ懐かしんでいるだけなのか。それとも興味を示したのか。

 ロイド2は娘のリストでは三位だった。十分合格だろう。妻の気が変わって他のモデルになるくらいなら、これに決めてほしい。大喜びとまではいかなくても、「へえ、やるじゃん」くらいの、軽いリスペクトが期待できる。


 接客ロボットは、妻のタブレットの表示内容と、夫が一目散に駆けつけたデュールとの折衷案として、ロイド2を勧めるのが最も効率的――成約の見込み大――と判断した。


「こちらは大変お買い得ですよ。通常は偵察用のミニドローン十機と制圧支援ドローン十機付属のところ、今でしたら更に十機ずつが付いてきます」


 妻の眉尻がピクリと動いた。


「あら。それはすごいわね。でも、『自律拡張タイプ』は、まだいらないわね」

「ですが、ここ数年、未踏星系への進出が増えております。緊急時にマザーと切断された場合を鑑み、『自律拡張タイプ』を選択されるお客様が増えております」


 夫は口をはさむタイミングが分からない。


「確かにそうね。もし数年後に『自律拡張タイプ』を搭載するとしたらオプションはどれくらいになるの?」

「はい。現時点で標準モデル価格の11.238パーセントの追加になります」

「なるほど。後から追加するとなると、やっぱり損よね」


 妻が初めて夫を見た。夫は自分の意見も聞く気があるのかと驚いている。その表情が妻を不快にさせるとも知らずに。


「あなた、これに決めたいんでしょう。説明を聞く前から買う気だったわね。まったくもう――」


 夫が娘に甘いのは承知している。ため息をついて呆れてしまったが、妻だって未発達文明の研究をしている娘のことは心配で仕方がないのだ。

 まだ文明が生まれて間もない段階の生物に接近を試みるような娘だ。この先どこで何をするのやら。


「わかったわ。じゃあ、ロイド2をもらうわ」

「そ、そうだよね。これで安心できるよ」


 夫は娘からお使いの合格点がもらえそうで喜んでいる。

 接客ロボットは事務的に必要な確認を続けた。


「性別はどうなさいますか? 購入時にお決めになる方が多いのですが」

「そうねえ。一つじゃなく二つの性を持たせた場合、どれくらい追加になるの?」

「本来ならば標準が一つですので、もう一つはオプションとなるのですが、即決いただきましたので、そちらについてはサービスさせていただきます」

「まあ! ありがとう。それじゃあ、あとはコスチュームね――」


 妻はその他の選択事項を全て自分好みに選択していった。夫の意見は取り入れるつもりがないらしい。

 最後にコントラクト画面をタップしてクレジットの送付を完了させた。

 黙って見守っていた夫だが、妻が配達先の住所をマップ表示した時、いいことを思いついた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 急に制止されて、妻が夫を睨んだ。


「あ、ええっと。配達先なんだけど。アライアンス内の惑星なら、どこにでも届けてもらえるのかな?」


 接客ロボットが答える前に妻が抗議した。


「ちょっと! 嘘でしょ。どれだけ甘やかす気?」

「まあまあ。辛い研修をよく頑張ったじゃないか。『毎日のように友達に卒業記念プレゼントが届く』って言っていただろ」


 娘は友人たちと学生最後の星間旅行の最中なのだ。妻だって娘に肩身の狭い思いはさせたくないはずだ。


「はい。こちらの範囲内でしたら」


 接客ロボットが、タブレットのマップと同じ情報を拡大して夫婦の頭の高さに投影した。


「じゃあ、ここだ」


 夫は三回タップして娘の宿泊先を選択した。


「かしこまりました」



 かくしてロイド2は、付属のドローン共々、配送ポーターの庫内に納められた。


 ロイド2を載せた配送ポーターは、コネクティングポートを出て超光速航法で飛行中、突然、全てのチャンネルが閉じられ計器がロックされた。

 自然発生のトラブルなのか、人為的な妨害工作なのか。いずれにせよ既定のルートから外れてしまった。


 配送ポーターは定められた手順に従い、船外へアンカーマークを放出した。後日、運よく捜索隊に発見されれば追尾信号を追って救出されるかもしれない。

 自動操縦モジュールにできることはこれくらいしかなかった。

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