第五話 私の気持ちよ、届け
少女は自分の学校の図書室を訪れた。理由はもちろん、本を借りるため。今学校は朝の読書週間であり、その本を借りるために訪れたのだ。
どれにしようかな。
少女は適当に本棚を回る。とある一冊を手に取り、ページを数枚めくってみる。
うーん。これじゃないな。
どうも好みじゃない。本の最初の部分を読んでは、棚に戻す。それを何度も繰り返した。
ファンタジーと書かれた棚を訪れた時、少女はとある一冊を見つけた。それは少し前にとある賞を受賞したという作家が書いたもの。その作家は恋愛の描写が得意だと有名。少女は恋愛に興味がある思春期真っ盛りのお年頃。この作家が書いた本なら読めるかなと思い、少女は手を伸ばした。
届かない!
少女はかなり小柄で背が低い。棚の一番上にあるお目当ての本には、つま先立ちをしても指すら届かない。
すると、横からその本に伸びる手が。
「これを借りたいの? どうぞ」
手の持ち主は同級生の少年。その子は他の男子に比べ少し大人っぽく、それでいてどこか抜けている。少女が前々からほんの少しだけ、気になっていた男の子だ。彼は図書委員であり、少女が困っているのを見つけたのだろう。
「あ、ありがとう……」
少女は俯きがちに礼を言う。人見知りで口下手なため、どうもあまり親しくない人間にはこういう態度をとってしまう。その度に嫌悪感を抱く。他人にも嫌われているのかと誤解を与えることがしばしば。だが、少年は少女の態度に気にすることなく、軽く微笑む。
「どういたしまして。また困ったことがあったら言ってね」
「う、うん」
少女が本を受け取る際、少年の指と軽く触れる。その時だ。
胸が大きく高鳴った。バクバクと心臓が鳴り、体が熱くなる。自分でもわかるぐらい、顔が上気していることがわかる。
少年はそんな少女の様子に気づくことなく、自分の仕事に戻って行った。
その日からだ。少女が少年のことばかりを考えるようになった。
目の端で捉えるとついそちらに視線が向いてしまい、呆けたように遠くからずっと見つめる。少年が気がついてこちらを向くと、慌てて視線を外す。それだけじゃない。少年の声を聞いただけで、胸がバクバクと早くなる。用事があるとすぐに話しかけたし、少年と話す機会がほしいため、他のクラスメイトの仕事を肩代わりした。かといって、いざ話しかけようとすると、目をまともに見て話すことができない。うまく口が動かない。体がこわばる。
少女のその気持ちが恋だとわかったのは、少し後だ。
初めての恋。初恋。
少女は自身の初恋を叶えるため。
少年に自分の気持ちに気づいてほしいため。
今日もまた図書室に通う。
つむぎが書き上げたその小説はゴールデンウイーク中に真央と、真央の親戚に何度も読んでもらい、そしてやっと完成した。
今日は小説の結果の発表日。
掲示板や廊下に結果が張り出される。図書室にもその結果が書かれたプリントが貼り出された。群がる生徒達の後ろに並び、ドキドキしながらも前へ前と少しずつ近づいていく。
そして、ようやく最前列へ。
上からゆっくりと視線を下げ、そしてある一点で目が止まった。
三年二組。藤島つむぎさん。
「彼への想い」
図書委員特別賞。
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