第107話「その表情の意味は」
甲斐谷さんたちに昼食に誘われるのはいつも通りだ。
例のふたりがいないから、実にストレスフリー。
命は奪わないでほしいって言っておいたから、そこの心配も必要ない。
「お、今日も豪華だねー」
とクーお手製の弁当を見た三人に言われる。
クーの奴、俺が他人と食べているからと言って、誇示するような内容にしようとしてないか?
さすがに考えすぎか。
三人は売店で買ってきたパン、お惣菜、サラダだ。
「よかったら食べ物のシェアをしない?」
と烏山さんに提案される。
他の女子ふたりもこっちを見た。
息がぴったりだなという感想しかない。
「いいよ」
俺が応じると、三人からそれぞれひと口分のお惣菜、サラダ、パンを弁当の上にのせてもらう。
甲斐谷さんのは食べ差しだ。
……うん、他意はないだろう。
だから、意識しないようにしよう。
「相変わらず美味しいねー」
と楠田さんが感心する。
「うん。料理上手だと思うよ」
迷わずに答えた。
クーは本当に料理が上手いし、俺の好みをしっかり把握している。
お菓子作りだってできるしね。
「お、珍しく自慢」
と烏山さんにからかわれた。
たしかに言ったことないかも?
「まあね」
自慢したという意識はないけど、クーを素直に褒められるのはたしかである。
自分には自信を持てないけど、クーやエリなら多少自信はあった。
「ねえねえ、不死川くんの家に遊びに行ってもいい?」
と甲斐谷さんが前かがみになって訊いて来る。
この人のスタイルで、その姿勢は反則だろう。
男の前でそんなポーズやっちゃいけませんって注意したほうがいいのでは?
助けを求める意味でも、烏山さんと楠田さんをちらっと見る。
ふたりともニヤニヤしているだけだった。
その表情の意味はいったい……?
「いいけど、家の連中に訊いてみないと」
甲斐谷さんに迷惑をかけたくない。
クーとエリがいったいどんな反応をするか、想像もつかなかった。
ジャターユはしゃべらなきゃいいだけなんだけど。
「んー、まあそうだよね。オッケーが出たらでいいから」
と甲斐谷さんはニコニコしながら言う。
さすが甲斐谷さんはつき合いやすいな。
「うん、そうだね」
俺はあいまいな言い方しかできない。
コミュ力の差を感じてしまう。
「家族ってどんな人たちなの?」
と楠田さんに訊かれた。
「うーん、にぎやか、かな」
迷いながら俺は答える。
クー、エリ、ジャターユだけじゃない。
ウチの両親も帰って来さえすればにぎやかなので、ウソをついたことにはならないだろう。
いつ帰って来るのか、さっぱりわからないけど。
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