第86話「仕方がないですね」

 一度配信を切って休憩をはさむ。

 無理はしないというのがクー、エリとの約束だからだ。


「ファイアリザードマンがフロアボスなら、そんなに難しくなさそうだね」


 ウチの一階のほうが普通に厳しいだろう。

 天王寺豪快と仲間たちってまだまだそこまで強くないのかな。


「わたしの見立ては捨てたものではないでしょう?」


「えらい、すごい」


 エリが可愛くどや顔したので褒めておく。

 実際彼女は頼りになるもんな。


「このダンジョンが何階層なのか、エリならわかるんじゃないか?」


「ニンゲンでいうカンニングのようなものですが、やまとの頼みなら」


 聞いてみたら思いがけない返事が来る。

 えっ、ダンジョンでカンニングに該当する行動なんてあったんだ……。


「全部で二十階層のようですね」


 エリはすぐに答えを教えてくれる。


「いまは五階層だから案外すぐに終わるかもね」


 すくなくとも日付が変わるまでには帰宅できそうだ。


「ええ。飛ばしますか? ゆっくりいきますか? それで時間は変わると思いますけど」

 

 とエリに問いかけられる。


「治癒系アイテムの素材を集めて、販売するのが本来の目的だからね。時間はかかっても仕方ないね。何なら最下層まで行く必要はない」


 うっかり忘れかけていた本来の目的を思い出す。

 

「では素材探しをメインにしましょう」


「魔法を使ってくれるよね?」


 エリが手伝ってくれるかどうかで効率は圧倒的に違う。

 確認しておきたいところだ。


「仕方ないですね。やまとだけですよ」


 エリはちょっと困った顔をしながら許してくれた。


 彼女が魔法を使う瞬間、ちょっと無防備になるのだが、不用意に近づいたモンスターは絶大なる魔力に触れて蒸発してしまう。


 圧倒的な力の差がある場合、何もしなくても相手は死ぬのだとわかる瞬間だ。


「だいたいこのダンジョンに何があるのか把握しました。どれくらい持って帰りますか?」


 とエリに問われる。


「何度も来れるかわかんないし、持ち帰れるだけ全部かな」


 俺は即答した。

 このダンジョンに通うつもりならともかく、いろんな場所に行ってみたいからな。


 ここでしか採れない素材なんてものがあったら困る。


「わかりました。まあ時間はかかりますが、やれるでしょう」


「足りなかったらクーでも呼ぼうかな」


 クーがいればたくさん持ってくれるから助かるのだ。


「え、せっかくのふたりきりなのに?」


 エリがなぜかいやがる。

 ふたりきりと言ってもしょせんはダンジョン探索なのに、と思ってしまう。


 でも、ここまで協力してくれてる彼女の気持ちは尊重しなきゃ。


「わかった。じゃあふたりでできる範囲にしよう」


 コロコロ方針を修正してるけど、これだけは絶対譲れないってものがないからだ。

 こういうゆるいノリのほうが俺の性格にあってる。

 

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