第84話「行けるところまで」

「詳しいことはないしょだ。秘密を守ってくれると助かる」


 と頼む。

 吹聴したところで信じる人がいるのかわかんないけど念のためだ。


「もちろんだ。他人の秘密を話すのはマナー違反だからな」


 と天王寺豪快は答える。


「それにあなたたちは俺たちの命の恩人だ。迷惑になることはしないさ」


 彼の仲間も言う。

 信じても大丈夫そうだ。

 

 こういうモラルのある人たちばかりなら、クーとエリを表に出してもいいのかな、とちょっと思う。


「信じるほどわたしは甘くないので、制約をかけますが」


 エリが俺にしか聞こえない声でささやく。


 ……彼女の用心深さはいまにはじまったことじゃあないし、俺のためなので止めるのは難しい。


「禁を破らないかぎりは無害なんだよな?」


 それでも確認はしておきたかった。


「ええ。ソークとやらも無事でしょう?」


 なら平気だな。

 彼女は俺にウソはつかないだろうし。


「このまま帰還できそうですか?」


「ああ。おかげさまで」


 天王寺豪快は答えながら何かを口に入れる。

 ふしぎそうな視線が仮面からでも伝わったのか、


「失った血をおぎなってくれるアイテムだ。治癒魔法でも、血は増やせないと決まってるからな」


 彼は答えてくれた。


「そんな魔法を使う価値がないだけなのに、無礼者」


 エリの琴線に触れてしまったらしく、彼女の機嫌がすこし傾く。

 自分の実力が低く評されたと感じたせいか。


 それでも俺にしか聞こえない声量を守ってくれたのでひと安心だ。

 

「ではお気をつけて」


 立ち上がった彼らに声をかけると、


「『アマテル』さんはどうする?」


 天王寺豪快だけはすぐに立ち去らずに聞いてくる。


「このダンジョンを行けるところまで行ってみようと思います。彼女とふたりで」


「そうか。あなたなら大丈夫だと思うが、油断はするなよ」


 天王寺豪快は忠告を残して帰っていく。


「愚かですね。油断なんてしたところで、結果は変わらないのに」


 エリが鼻を鳴らす。

 彼女がいればたしかにそうだろう。


「まあまあ。エリの力を知らないんだから無理ないよ」


 彼女がいればピンチになっても魔法で脱出できるけど、そんな魔法はおそらく希少だろう。


 さっき使った治癒魔法だってエリが使えるものの中ではランク高くないのに、かなり驚いていたくらいだし。


「じゃあせっかくだから配信しながらやってみるか」


「や、アマテル。どこまで行く予定にしてるのですか?」


 配信を準備しているとエリに確認される。


「行けるところまででいいんじゃないかな。敵が強くなったり、疲れがたまってきたら帰ろうよ。無理して攻略する場所でもないだろうし」


 もしも本気で攻略したいなら、エリとふたりで来たりしない。

 最低でもクーとジャターユ、アルカ、リズを連れてくるかな。


「了解しました」


 エリもそうだろうなという表情で返事する。

 

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