第62話「ソーク氏と家族」

 ソーク氏はもちろん、その家族もとても律儀な人たちだと思う。

 お礼を言うためだけに、わざわざ遠い海外から日本まで来てくれるんだから。


「今日いっしょするのはわたしですよね」


 と出発直前、エリに確認される。

 すぐ近くではちょっと不満そうなクーもいたが、何も言ってこない。


「うん。ソーク氏と面識があるのはエリだからね」


 そういう意味でエリのほうが適任だ。

 できればソーク氏に仕掛けたという魔術の解除もして欲しい。

 

 一応言ってみようか。

「ソーク氏たちに仕掛けたっていう魔術のことなんだけど」


「彼らがやまとに敵意・害意をもたないかぎり、何の影響もありません。わざわざ解除しなくても平気ですよ」


 エリは笑顔で先回りされてしまう。

 たぶん聞き入れてもらえないだろうなとは思っていたけど、案の定だった。 


「こいつの魔術に反応できるものがあればわたしが気づく。だから心配はいらない」


 とクーに言われたのでひとまずは安心する。

 

「そんなに心配ならわたしが魔術を教えましょうか? 自分で使えるようになれば、理解が進むと思いますけど」


 とエリが玄関のドアを閉めながら提案してきた。


「いままで断ってきたけど、それもいいかも」


 自宅のダンジョンを散策するならともかく、よそのダンジョンにも行こうと思うなら、最低限身を守る手段はあるほうがいい。


「エリやクーにずっと守ってもらうわけにはいかないだろうし」


 やっぱりひとりで活動できてこそ一人前だよね。

 ルシオラだって本人と撮影する人のふたり組パーティーだったみたいだし。


「えっ、じゃあ魔術を教えるのはやっぱりナシにしましょう」


 と考えてたらエリのいきなり手のひら返しに俺は苦笑してしまう。


「いつまでも俺を守るつもりなの?」


「もちろんです」


 力強く即答された。

 くすぐったい気持ちと、情けない気持ちが同時に発生する。


「……ソーク氏たちとこれから会うんだからあと回しにしよう」


 俺はひとまず先送りを選んだ。

 

 ソーク氏と約束した場所には前回と同じく、エリの魔術を頼る。

 一瞬で移動できるし、周囲の認識もズラせるからとてもありがたい。


 こんな魔術、世に知られたらいけないレベルなんじゃないだろうか?

 それを言ったらそもそもエリ自身、あとクーが該当するかもしれないけど。


「見つけました」


 エリはさっそくソーク氏を発見したらしい。


 体格のいい黒服の護衛四人に囲まれたソーク氏、三十代から四十代くらいの女性、最後には俺と同じ年くらいの女の子が立っている。


 三人ともおめかししてるように見えるのは気のせいだろうか。

 俺たちの接近に気づいた護衛たちが緊張と警戒をもって、こっちをにらむ。


「態度が悪い人たちですね」


 エリがつられるように機嫌が悪くなった。


「あの人たちはそれが仕事なんだろうから、許してあげて」


 とけん制する。

 彼女だからまだ温和な対応なんだよね。


 クーだったら俺が何か言うよりも早く殺気を飛ばして、彼らを気絶させてそうだ。


「仕方ないですね」


 エリはそっとため息をつく。

 ほとんど同時に護衛たちの緊張がとけたのはきっと錯覚じゃないだろう。


「やあ、久しぶりだね、アマテル」


 ソーク氏は流ちょうな日本語をしゃべってるように思えるので、エリの魔術はやっぱりすごい。


「久しぶりです」


 と俺が応じると同時に、少女がいきなり抱き着いてきた。

 あれ、エリが阻止する局面では?


 と思ってしまい混乱する。

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