第33話「どしたん?」
楠田さんは一限目がはじまる前に、あわてた様子ですべり込んできた。
先生は「おやっ」という顔をしながらも受け入れていた。
「どしたん、話を聞く?」
と甲斐谷さんが休み時間中、楠田さんに話しかける。
「ああ……」
楠田さんは口を開きかけて思いとどまった。
「場所を変えよ」
と言って甲斐谷さんを連れて教室の外に出ていく。
あれ? と思ってると山野と大前がやってきた。
「おまえ、甲斐谷さんを見てんの? やめたほうがいいぜ。キモイから」
と山野に言われる。
「女子って男の目に敏感って話だぞ。おまえみたいな陰キャだと、きらわれるだけだろ」
大前も同調して言った。
きらってる相手に話しかけるほど、烏山さんたちは優しくない気がする。
でも、反論しないほうがいい空気なので、
「うん。気をつけるよ」
と答えておいた。
俺のような陰キャぼっちは、空気にあわせるのは大事だと思うから。
「おまえ、ほんとにわかってんの?」
「ちょっと甲斐谷さんといっしょにいる時間が長いんじゃないか?」
「甲斐谷さんが優しいからって、図に乗ってるんじゃねえぞ?」
無難にやりすごそうとしたはずなのに、なぜか山野と大前のふたりがしつこい。
調子に乗った覚えはないけどなぁ。
そもそも甲斐谷さんのほうから話しかけてくる場合がほとんどだから。
ぐちぐち言われる理由をふしぎに思ってると、烏山さんたちが戻ってくる。
そしてまっすぐに三人は俺のところに来た。
「何か話で盛り上がってんの?」
烏山さんの問いかけに山野と大前はうろたえる。
まるで想定外の奇襲を食らったみたいだ。
「えっと、いや、三人とも素敵な女の子たちだなと」
山野がかしこまって、しどろもどろになりながら話してる。
優しいから俺の相手をしてくれるんだと主張してたから、ぎりぎりウソにはならない感じ。
「きもっ」
烏山さんがばっさり切り捨てて、山野たちが固まる。
容赦なさがちょっと怖い。
甲斐谷さんからフォローがあるかなと思っていたら、彼女はスルーして俺に手招きする。
この状況で俺を呼ぶの!?
と思ったけど、俺にしてみれば断るほうが難しい。
「何かな?」
と話しかけると、彼女はニコッと笑ってマシュマロをくれた。
「あげるねー」
「あ、ありがとう?」
マイペースすぎないか、甲斐谷さん。
山野たちはダメージがデカすぎたのか、授業がはじまるまで固まったままだった。
女子の一言って破壊力がバツグンだよね。
正直なところあんまり同情する気にはなれないけど。
甲斐谷さんがわざわざ呼ばれた話って何だろう?
友だちじゃないと教えてもらえないというのは察しがついてるけど、気になってしまう。
なんて俺の考えが見抜かれたかどうかわかんないけど、昼休みになって甲斐谷さんに笑顔で手招きされる。
「どうかした?」
昼休みに彼女たちといっしょになったことは一度もない。
俺は教室でクーお手製の弁当なのに、彼女たちは外で食べてるからだ。
「たまにはいっしょに食べよ?」
「え、大丈夫?」
びっくりして烏山さんと楠田さんを見る。
「いいよ」
「三人で決めたことだから」
まあ、甲斐谷さんが独断で俺を誘うなんて思わなかったけど。
それでも確認したくなってしまった。
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