第31話「コミュ障」

 ダンジョンの最深部に発生したゲートで地上に帰還すると、ルシオラたちが待っていた。


「げっ……」


「あの、もしかして『アマテル』さんですか!?」


 ふたりの女性が何やらキラキラした視線を向けてくる。

 どう接していいのかわかんないので、


「クー。自宅に」


 と頼む。


「了解」


 俺たちは彼女のテレポートで自宅へと戻って来た。


「ふー、あせった」


 と仮面を外しながらこぼす。

 まさか待ち伏せされるなんて思わないじゃないか。


「あの女ども、目障りね。消す?」


 クーがぶっそうなことを言い出したのであわてて止める。


「ダメだよ! あのふたりが悪いわけじゃないんだから!」


 彼女たちは単に感謝の気持ちを伝えたかったはずだ。

 悪いのはどっちかと言うとコミュ障の俺だと思う。


「ちっ」


 クーは舌打ちする。

 これはしっかり止めておいて正解だったね。


「あれ、ソーク氏だ」


 動画投稿用のアカウントのために作った連絡先に、ソーク氏からメッセージが届いてた。


『妻も娘も無事に快復したよ! 本当にありがとう!』


 翻訳ツールを使ってだいたいの意味をくみ取る。


「ソーク氏も律儀な人だなぁ」


 文面からは喜びと感謝にあふれていることが伝わってきて、こっちもうれしくなった。


『妻と娘がぜひ会ってお礼を言いたいと言っているんだが……』


 続いた文面はうって変わって遠慮がにじんでいる。

 まあ、俺が陰キャでコミュ障ってのはバレたんだろうな。


 気にすることじゃないと思うんだけど、どうしようか?


「別にいいのではないですか?」


 玄関で立っていたからか、さっとエリが会話に入ってくる。


「あの者たちなら身の程知らずということもなさそうですし」


「……エリがそう言うなら、わたしも反対はしない」


 おや、珍しい。

 このふたりが揃ってそんなことを言うなんて。


 いや、待てよ?


「もしかしてエリ、ソーク氏に何か仕掛けた?」


 勘だったけど、図星だったらしくエリの微笑が深くなる。


「あなたにとって迷惑になる行動をとった場合、不幸になる魔法を少々」


 絶対に少々じゃないよね。

 過去のパターン的に。


 直感したものの、素直に答えてもらったのは事実だ。


 あと、俺を守るための行動なのも。


「話してくれてありがとう。ふたりが反対しないなら、会うくらいはいいのかな」


「わたしも行きたい」


 とクーは主張するのは予想通りだ。


「あら、あなたは今日いっしょだったじゃありませんか」


 異を唱えたのがこれまた予想通りのエリ。


「次はまたわたしといっしょならバランスがとれると思いますが?」


 と彼女は自分の意見をぶつける。

 ふたりの間にはギスギスとした冷たい空気が生まれた。


「そうだな。ソーク氏と面識があるエリに頼むほうがよさそうだ」


 俺はすばやく判断を口にする。


「ですよね」


 エリはニコッと微笑む。


「むう」


 クーは不満を表情に浮かべたが、さらに反論はしてこなかった。


「ソーク氏には返事を送ろう。『前回会った場所でいいなら、お会いすることは可能です』」


 メッセージへの返事はすぐには来ない。

 果実ふたつにあの大金を用意できる人だから、きっと忙しいんだろう。

 

「次はこっちか」


 俺の目はルシオラからのメッセージに移る。

 俺の動画を見たのか、視聴者の誰かに教えてもらったのか。


 危ないところを助けたのが俺だと知ったようだ。

 さて、どうしよう?

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