〖人狼〗がインストールされました②

「広いなー!」


 ブランドー公爵から譲渡された屋敷に入り、ライラが両腕を広げてくるりと一回転。

 確かに広くて豪華な屋敷だ。

 さすが貴族の別宅といったところだろう。

 ワイルドハントの拠点も大きかったけど、あれは街中にある居住スペースを改造して作ったものだった。

 ここは完全に屋敷だから、誰も見た目でギルドの拠点だとは思わないだろうな。

 ギルドホームを持つことは一つの夢だった。

 予想外ではあったけど、夢が一つ叶ったことは嬉しい。

 ついでに、あらぬ誘惑にもギリギリで耐えた数分前の自分に拍手を送りたい。


「堪えておったな」

「誰のせいだと思ってるんだ?」

「さぁな? お前さんの下半身に聞いてくれ」

「こいつ……」


 あとでお仕置きしないといけないな。

 でもこいつ、大抵怒ったり頭をグリグリしてもケロッとしているし。

 どんなお仕置きなら効果があるんだ?


「それはもちろん、エッチなお仕置きだぞ」

「人の心を読むな。そして最低な回答をさらっとしないでくれ」

「頑なだな~ 私とお前さんは一心同体、この身体はお前さんの物で、お前さんの身体は私の物だ。自分の体に何をしても誰も怒らんぞ? 言ってしまえばただのオ〇ニーだ」

「さらっと飛んでもないこと言わないでくれ……」


 ライラに羞恥心とかないのか?

 以前そういうことをするなら室内でとか言っていたけど、あれも適当だろ。

 やれやれと首を振る。

 するとドタバタと足音が響き、近づいてくる。


「お嬢ー! とりあえず見て来たけど、生活に必要なものは全部そろってるみたいだぜー」

「そ、掃除もされていました……はぁ……はぁ……」


 屋敷の中を見てくれていたクロムとフィオレが戻ってきた。

 クロムは走り回っても元気いっぱいで平気そうだけど、フィオレは息切れを起こしている。

 この二人はブランドー公爵の下でメイドをしていたそうだ。

 エリカ曰く、メイドといいつつ友人のような関係らしいが、主従関係がゼロというわけでもなさそうだな。 


「それじゃ簡単に部屋割りでも決めようか。せっかく部屋もたくさんあるし、一人一部屋は用意できるだろ。構わないかな? エリカ」

「え? どうして私に聞くんですか?」

「それはだって、ここはブランドー家の屋敷だろ?」

「元、ですよ。今はもう、私たちのギルドホームです。だから、ギルドマスターのレオルスさんが自由に決めてください!」


 エリカはニコリと笑顔でそう言ってくれた。

 元家主の娘が認めてくれるなら、俺も心置きなくマスターらしく振舞おう。

 こういう時にびしっと決めるのも、マスターの仕事だ。


「それじゃ割り振ろう。個人部屋に使えそうなのは二階かな?」

「そうですね。ベッドとかも人数分揃っていました」

「じゃあ一人一部屋。特に希望がないなら、壁側から順番に、俺、ライラ、エリカ、クロム、フィオレの順で」

「オレたちも一部屋使っていいのか!」


 クロムが目を輝かせて尋ねてきた。

 キラキラ光る瞳は、まるで大きな動物が飼い主に迫っている時のように。

 うっすら尻尾が見えるような……気のせいだな。


「もちろんそのつもりだよ」

「やったー! 自分の部屋だぜ? なぁフィオレ!」

「う、うん。嬉しいね」


 そこまで喜んでもらえるとは思わなかった。

 キョトンと首を傾げていると、エリカが隣でぼそっと教えてくれる。


「ブランドー家で使用人は二人以上の部屋だったんです。だから二人は一緒の部屋で生活していて、初めてなんですよ。自分だけの部屋を貰えるのは」

「ああ、そうなのか」


 喜んでいる意味を理解する。

 二人ともお年頃だし、個人のスペースはあったほうが嬉しいだろうな。

 俺が何をしたわけでもないけど、喜んでもらえてよかった。


「ライラも構わないな?」

「ん? 私はこれまで通りお前さんと同じ部屋がいいな」

「――!」


 隣でエリカが驚いて目を見開く。

 俺はそこまで驚かない。

 ライラならそういうかもしれないと思っていた。


「せっかく部屋があるんだぞ?」

「私には必要ないぞ? お前さんと一緒のほうが落ち着くし、お前さんは嫌か?」

「別に嫌じゃないけど……寝るときは自分のベッドに行ってほしいかな」

「なんでだ? 私を抱きしめていないと眠れないだろ?」

「そ、そうなんですか? レオルスさん!」

「こいつの冗談だよ! いつも勝手に他人のベッドに潜り込んでくるんだ」


 別々のベッドで寝ていても、朝起きたら布団の中にライラがいる。

 何度注意してもやめてくれないから、最近はあきらめ気味だった。


「嬉しいくせに。その証拠に、お前さんの本体は朝から元気溌剌だぞ?」

「それは生理現象だ! というかどこを確認してるんだよ!」

「や、やっぱり二人はそういう……」

「違うって! あーもう!」


 しまらないな、まったく。

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