〖剣帝〗がインストールされました④
俺は駆ける。
剣を振るう。
「気を抜くな! 次が来るぞ!」
「わかってる!」
〖汪剣〗のスキルが切れるまで残り八秒。
できるだけモンスターを減らし、次に繋げる。
スキル発動から五分経過。
〖汪剣〗が効果切れとなり、どっと疲労感が押し寄せる。
その間もモンスターは襲い掛かてくる。
だから俺は叫んだ。
「〖剣帝〗!」
両手から双月が消える。
代わりに俺は腰の剣を抜き、迫るモンスターたちと交戦を継続する。
スキル〖剣帝〗発動中に得られる能力は大きく三つ。
無尽蔵にあふれ出る魔力、剣帝と呼ばれた男の剣技、そして彼が編み出した独自の魔力操作能力。
魔法を用いず、魔力そのものを体外でコントロールする。
放出するのではなく循環させることで、肉体には強靭な鎧をまとい、刃はより鋭く魔力の流れで相手を削る。
彼はこの技術を極め、最強の剣士の称号を手に入れた。
俺は今、そんな男の力を体現している。
いかに多くとも、並のモンスター相手に遅れをとることはない。
ただ……。
「はぁ……っ、さすがに……連戦はきつい」
「弱音を吐いとる暇はないぞ? ほら、次が来る」
「こんのっ!」
ライラは高みの見物中だ。
彼女は知識の書庫であり、故に戦う力を持っていない。
だから邪魔にならないように離れて見守っている。
理屈はわかるし、彼女のおかげで戦う力を得られた。
感謝はしている。
しているのだけど……。
「そんなんではいつまで経っても脱出できないぞー!」
「……」
煽ってくるから普通にムカついてくる。
我慢だ。
彼女を守らないと、せっかく手に入れた力が消えてしまう。
それに彼女の言う通り、こんなところで手こずっていたら、最深部まで身体がもたない。
「あーもう!」
ほんの少しだけ、カインツたちの気持ちがわかってしまった。
俺は戦い続け、やっと周囲からモンスターがいなくなり、休憩する暇ができる。
「……はぁ、疲れた」
「だらしない奴だな」
「っ、本当にこっちで合ってるのか? ダンジョンの最深部は」
「合ってるよ。私のことが信じられないのかな?」
俺はライラの案内に従い、ダンジョンの最深部を目指している。
ライラ曰く、俺たちが出会った場所は最深部ではなかったらしい。
中層よりも少し下。
だから上に戻るより、最深部を目指したほうが脱出は早い。
ダンジョンの最深部には必ず、脱出のための仕掛けが用意されているから。
「ここは階層でいうと十七。私たちがいたのは十四、最深部じゃ十八階層だ」
「なんでそこまでわかるんだ?」
「決まっている。私の中の本に書いてある」
「本って……英雄たちの? この世界の英雄の誰かが、このダンジョンに来たことがあるのか?」
「違う違う。この世界のじゃない。こことは違う世界の記録だよ」
「……違う世界? なんでそうなる?」
その言い方じゃまるで、このダンジョンが俺たちの世界とは別の世界のものみたいじゃないか。
いや、まさか……。
「そうなのか?」
「お前さんは、この場所が何だか知っているのか?」
「いや、ダンジョンだとしかわからない。偉い学者たちがこぞって研究しているけど、どういう仕組みで作られ、存在しているかも不明だよ」
「そうだろうな。わかるはずがない。知っているのは私だけだ」
彼女しか知らない。
もはやそれこそが、この問いの答えだった。
「お前さんたちがダンジョンと呼ぶこの場所は、異なる世界に存在した記録だ。いうなれば、世界と世界を繋ぐ場所でもある」
ライラ曰く、世界は無数に存在している。
それは点ではなく、線で繋がっている。
隣り合わせの世界も、遠く離れた世界も、一本の線で結ばれている。
ダンジョンとは、こことは異なる世界の一部が具現化した場所である、と。
「つまりは、この場所こそが一つの異世界なのか」
「そうだよ。ビックリした?」
「驚いた。でも……納得もできる」
ダンジョンで発見される秘宝、アーティファクトと呼ばれる道具は、現代技術では解明できない。
当たり前だ。
作り出された世界が違うのだから、この世界の知識や常識では測れない。
「なら他の世界では、俺たちがいる世界の一部が顕現したダンジョンがあるのか」
「いいや、ここが特別なんだよ」
「特別?」
「ここは数多の世界で唯一、全ての世界と繋がる特異点なんだ。全ての世界はここと繋がり、世界同士の距離感を保っている。いうなれば、世界の要みたいな場所だね」
俺が生まれた世界が、世界同士をつないでいる。
実感がわかない。
「大事な場所じゃないか」
「そう。そんなこの世界に何かが起ころうとしている……故にこそ、私とお前さんは生まれた」
「え? それってどういう……」
「この話は、外に出てからゆっくりとしよう」
そう言いながら、彼女は視線を奥に向ける。
第十八階層、このダンジョンの最深部へ続く道がある。
「ゴールはもうすぐ目の前だ」
「……そうだな」
疑問はある。
聞きたいことだけけだけど、一先ず胸にしまっておこう。
いつまでも薄暗い土の中にいたら、心も身体も疲れきってしまうから。
「もうひと踏ん張りだ」
ダンジョンの最深部には宝が眠っている。
ライラの話を信じるなら、宝は異世界の遺物だ。
この世界では本来手に入らない代物ばかりで、中には特別な効果をもつアーティファクトもある。
冒険者がダンジョン攻略を目指す理由の一番は、この宝を手に入れること。
売れば大金が手に入るし、使えば強大な力が手に入る。
加えてダンジョン攻略の成果は、冒険者組合から高く評価され、所属するギルドのランキングに影響する。
ギルド……カインツたちはどうなっただろうか?
気になるが、今は考えないようにしよう。
ともかく、このダンジョンから脱出する。
そのために――
「こいつを倒すのか……」
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